読書メモ『燕は戻ってこない』
桐野夏生の『燕は戻ってこない』。
今NHKでドラマ化もされていて、見たいけれどテレビを見る時間的余裕がないので文庫化されていた原作を読んでみた。
多少のネタバレあります。
ツテもなく上京したものの派遣社員での貧乏生活が続いている女性リキが、この生活から抜け出すために報酬の大きな代理母を引き受けることを決意する話と、子宝に恵まれずその代理母に依頼することを決めた草桶という夫婦の話を中心に展開。
作中では当初、代理母(人工授精で依頼者夫婦の夫の精子を自分の卵子と受精させ、出産する)の報酬として300万円(妊娠中と産後の生活は別途保証される)と提示されていたが、あの1年近い体調不良と出産の痛みを引き受けて300万円は有り得ない、自分なら最低でも1000万円はもらわないとやれない……!とまずは思った。
それでもリキの心が傾いてしまうところに、負のスパイラルから抜けてまとまった大金を得ることがどれだけ難しいことか、また無知で貧乏な女がどれだけ搾取され得る存在なのかということがリアルに見えてくる。
最終的に、リキは草桶夫婦にふっかけて1000万円の報酬ということで合意するが、精神的な葛藤や周囲に説明できないことなど、やはり1000万円でも到底引き受けるべき内容ではないな…と思った。
でも実際には恐らく、海外でそれよりも安い値段で代理母を引き受けている女性たちがたくさんいる。
一方で草桶夫婦は子どもに恵まれず、妻とは血が繋がらない形になるにも関わらずリキに代理母を依頼する。
不妊治療で苦しむ夫婦はたくさんいて、どうしても授かれないとなったときの最終手段として、代理母への依頼は本当に夫婦のためになるのか。
妻はやはり同じ女性として終始リキを心配し、また夫婦の在り方にもかなり葛藤していたが、生まれた子どもを見た時、何もかも吹き飛んで育てたい気持ちが湧く。
赤子という生き物を前に、血の繋がりなど些末なことなのだ。
生殖ビジネスの是非や倫理を問うている小説というよりは、最後に鈴木涼美さんが解説に書いていた「女がモノとなることの不可能性を証明してみせた作品である」というのが本当にしっくりきた。
性を売っても、卵子を提供しても、母体を貸し出しても、ビジネスの型にいくら当てはめようとも、心も身体も自分だけのもので他人にはコントロール不能なのだ。
安定の読み出したら止まらない桐野夏生作品でした。
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