棚田研修 in 新潟県十日町市 実証レポート公開のおしらせ
こんにちは!ミライ研、研究員の本間です。
ミライ研では持続可能な地域社会の実現に向けて、人を起点とした「循環」に着目し、「関係人口の創出・拡大」というテーマで、様々な地域においてプロジェクトを推進してきました。
一昨年から実証を始めている「ワデュケーション」に続き、2024年は新潟県十日町市で活躍する社会起業家と連携し、地域課題や価値創造を題材とした企業社員の育成に着目し、棚田体験や地域交流などを中心としたフィールド型CSV研修(以下、棚田研修)を通じた、人材育成や関係人口が地域で活躍できる場(関わりしろ)の可能性について実証を行いました。
↓バトンのヨコクカンファレンスでも登壇させていただきました。
この度、本プロジェクトに関する実証結果をまとめた調査研究レポートを公開しましたので、実証模様とあわせてご紹介いたします。
棚田をフィールドとしたCSV研修とは?
なぜCSV?
今回のプロジェクトでは、地域との多様な関わり方の一つとして、「企業に所属する社員」に着目し、フィールド型のCSV研修プログラムを組み立てました。
私自身、ミライ研に着任して約1年間、地域と関わる中で感じることは、地域活性化の取組みは「最初は一人の個人の想いから始まる」ということです。
NTT東日本は、パーパスとして「地域循環型社会の共創」を掲げ、地域に寄り添う「ソーシャルイノベーションパートナー」として地域の価値創造に取り組んでいます。その中で、社員一人ひとりが越境的な人材として、所属組織の枠に留まらず、地域で起こっていることや課題について学びながら、日々活動をしています。そのような社員含め地域で活動する「人」の活動や育っていく過程そのものをしっかりと後押ししていきながら、地域にとっての関係人口創出や地域の自然・文化の学びを通じた、地域との関係性強化・新しい事業開発にも繋がる機会をつくっていきたいと感じました。
そのような想い(背景)から、地域の方や社会起業家との交流・メンタリングは一人ひとりがソーシャルイノベーションパートナーを目指す上で有意義であり、昨今CSVという概念が普及している中で、さまざまな企業にとっても価値あるものになるのではと考え、「身近な社会課題に気づく、未来の経営リーダーを育む」をテーマとした本プログラムを企画しました。
2名の社会起業家との出会い
新潟県十日町市において、2名の社会起業家が地域の自然や文化のシンボルである棚田を保全・継承するため、「通い農」(関係人口)という新たなライフスタイルの提唱、ソーシャルビジネスを構想しています。
私自身も、「地域固有の文化」の源泉である「自然」に着目し、調査研究テーマを模索していたことから、ご縁をいただいたことをきっかけにお二人の取組みに調査研究・伴走支援役として参画させていただくこととなりました。
株式会社里山パブリックリレーションズ 星裕方さん
株式会社HOME HOME NIIGATA 井比晃さん
お二人が活動されている新潟県十日町市は東京から新幹線や北越急行経由でおよそ2時間の距離に位置し、その中でも松代地域は山々に囲まれた棚田の里が残る、自然豊かな地域です。
「大地の芸術祭」が行われたり、「つなぐ棚田遺産」においては一市町村として全国最多の認定数を誇る地域となっていたりと、人気の観光スポットにもなっていますが、棚田は社会課題の縮図ともいえる状況です。
大規模農業に比べると非効率で、雨水や雪解け水などの天水に頼って稲作を行う天水田も多く干ばつリスクがあることから、棚田は「儲からない、継がせられない」のが現状だそうです。
そんなお二人とのプロジェクト立ち上げ時に星さんがおっしゃっていた、「経済はひっくり返っても、文化は残る」という言葉が非常に印象的でした。
多様な価値を持つ棚田を「文化」としてどう守っていくのか、地域外民が地域に赴き考えることは、社会課題をより自分事として捉えるだけでなく、関係人口化にも寄与するのではと考え、「棚田」を主軸とし、プロジェクトを進めていくこととなりました。
企業研修を切り口に地域に赴き、棚田に関わってもらい、地域の課題だけでなく、暮らしや文化に触れることで、CSVマインドの醸成だけでなく、研修参加者個人が多様な関わりしろをもって関係人口化に繋がるのではないか。
そんな仮説をもって、星さん・井比さんと企画段階から奔走しました。
棚田研修 in 新潟県十日町市松代地域
プログラム概要
本プログラムは、2024年8月~10月の3カ月間にわたって実施しました。
幅広い年齢層・職種の社員が参加し、まちづくり推進業務への応用や地域課題への視座の獲得、他者との交流などさまざまな想いをもって取り組んでいただきました。
全体像はこちらの通りです。
事前学習において社会課題解決へのアプローチ手法を理解し、現地研修では五感で「棚田」への理解を深め、事後振り返りでは現地体験を踏まえた今後のアクションプランの発表や社会起業家との意見交換を行うことで、より学びが深まることをねらいました。
現地研修の模様
現地研修では多様なステークホルダーとの対話や「地域おこしロールプレイゲーム」を通じた地域課題解決の疑似体験、稲刈り体験を通じて、棚田を取り巻く現状や地域について学び、社会課題解決に取り組む意義について理解を深めることをねらいました。
2日目の模様を動画におさめましたので、皆さんにも共有いたします!
撮影・編集 南雲一人さん(nagu Life studio)
棚田を取り巻く多様なステークホルダーの価値観をどのようにすり合わせて課題解決していくか、ロールプレイや対話を通じて各ステークホルダーの立場や意見の違いを理解したことで、参加者は3日間にわたり「もやもや」した感情と対峙し続けることとなりました。
「棚田を農地と捉えるか、観光地と捉えるか、その両立はどうしていくべきなのか?」
「誰のための課題なのか?」
これらの「もやもや感」を抱いたことは、今後、CSV経営を担うものとしてビジネスを通じた社会課題解決を目指していく上で、重要なプロセスであり、それを発見できたこと自体が意義深いものではないかと感じました。
実証結果レポートを発行しました
本プロジェクトに関して、当研究所の阿部と三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社と共同で実証レポートを作成いたしました。
棚田研修の目的は、研修効果はもちろんのこと、それを切り口に関係人口へと繋げていくことです。
本プロジェクトを通じて、参加者・地域にとってどのような効果が生まれたのか、「通い農」の実践・促進にあたってどんな課題があるのか、調査から考察した内容をまとめております。
実際に研修参加者へ定量的なアンケートやヒアリングをしていく中で、この取組みの可能性を感じた点もあれば、期待していた結果と異なる現実もありました。是非ご一読いただけると嬉しいです。
https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20250121_01.html
文化を形づくる「棚田」に色々な可能性を感じています。
今後もこのような取組の持続化・ムーブメント化に向けて社会起業家や多様な企業と連携を進めていきたいと思います!
最後までお読みいただきありがとうございました。