ある男 (2022)
人ひとりの存在について
いろんな角度からのアプローチがあって
合間に映る建設現場の風景までもが
造って
壊して
また造って
と。
まるで
「ある男」も
そんな風に造られたように感じて。
始まりは
地方の町で男女が出会って
それぞれ複雑なバックボーンがあるんだな、と
含ませつつ
二人が交流して、夫婦になって、家庭を築いて
それなりに幸せそうな暮らしがあって。
でもある日
男が仕事現場の事故で亡くなります。
一年後。
法事の席に男の兄が訪れることで
その「男」が
思っていた「身元」と違うことが分かります。
女は
私は誰と一緒に人生を過ごしていたんだ?と
かつて世話になった弁護士に
男の身元調査を依頼します。
この「男」の正体や
なぜ、誰と入れ替わっているのか
徐々に明らかになっていきます。
俳優陣の演技ももちろんですが
冒頭に書いた
インサートの差し込みが
もう心を揺らす、揺らす。
たとえば他の映像作品で
桜の木が映ったり
桜の葉が緑になったり
葉がすべて落ちた様子を見せて
季節が分かるようなインサートはよく見ます。
ただ、この作品のインサートの使い方は
何と言うか
ある意味、コンセプトアートのような感じ。
前半は特にそう感じましたが、
ぼんやりでも見れるし
深読みしようとすれば
どこまでも深読みできるし
単なる場面転換だけでなく
まるでセリフのようなインサート。
うん、この表現が一番しっくりきます。
セリフも表があったり裏があったりするし
何かを含んでいるようにも
何も含んでいないようにも
感じることがありますが
それと同じで
何カットか映る工事現場のインサートが
前はここに何があったのか?
これからここに何ができるのか?
他にも、物語の中に出てくる
林業の取り組みなのか
木を切る代わりに
また新しく木を植えて
それを自分の子ども世代が
また切って
また植えて
と言った話。
テーマは一貫して
その「存在」にあるような気がしました。
「この男は誰なんだ」
となるシーンも
何だか平凡的に
ありふれた出来事のように
気を抜いてたら
流れていきそうなぐらい
さらっと判明するんですが
それもまた
こういった出来事が
実はありふれているんだよ、という
問題提起にも感じられて。
え?
深読みし過ぎ?
と、まぁ
そのぐらい語りたくなる映画でした。
「話したいことがいっぱいある」っていう
セリフも良かったなぁ。
悲しいというより、寂しい。
それが愛なのかもしれないな。