ほぼ自炊未経験の独身男が作るタイ料理を喰らう!(後編)【グルメハンター嵐003回】
遠くの居間からごきげんよう。
どうも、グルメハンター嵐です。
まあ、ごきげんようとか言いながらも、僕の内心は決してごきげんではないんですけどね。むしろ不安でしかないんですけどね。なにせこれから、カオマンガイとは名ばかりの何かを食べさせられることになるのですから。
料理ド素人の枯れなめこガイが作る何かを食べさせられることになるのですから。
……お腹だけは壊さないといいな。
前回、多国籍(?)スーパーで買い集めた食材を所狭しと台所に並べ、ひたすら腕組みを続ける今回の料理人・松真氏。(その様子は下のリンクでご確認あれ。ガチでほぼ自炊をしていない独身男性の生態がわかります)
まな板の包装紙を破いていたときも不安は限界値に近かったですが、
調理器具の準備を終えた彼を今、少し離れたところから見ていると、遠近感の関係以上に何故だか彼の姿が一回り以上も小さくなったように感じます。
………托鉢?
どうして台所に修行僧がいるのかはわかりませんが、どうやら何から調理をはじめれば良いか……手をこまねいているようですね。
そりゃそうですよね。
僕だってきっと手をこまねくもの。
だって、正解の食材、ゼロだし。
購入した食材のおさらい(あらためて見てみるとパプリカで彩りを加えようとしているのが嫌なタイプの初心者の背伸びが感じられて腹立ちますね)
さて、ここでようやく氏が動きます。
おもむろに取り出したるは………パプリカ。これは素晴らしい!!
もしうっかり、肉から手を付け始めようとしたら
「俺を食中毒にするつもりか、バカヤローッ!!」
と、うっかりゴッチ仕込みのジャーマンスープレックスをお見舞いするところでしたからね。
同じ包丁とまな板で料理をするときには、肉ではなく野菜から切り始めるのが鉄則。(生肉には食中毒の原因になる細菌がいるかもしれないので、触ったり切ったりするのは他の食材を用意した後にした方が良い)
つまり、いきなり肉に手をつけるのではなくパプリカに目を付けたのという1点において、その1点に置いてのみ、素晴らしいという賞賛の言葉を綴ったのです。
ま、パプリカはカオマンガイには使わないんですけど。
とにかく、「手を出す食材の順番」を褒めていくことから、彼という逸材を伸ばしてあげたい。(ほぼ)初めての料理ながら、誰に教えられたワケでもなく本能でその境地に辿り着いたのだから。それに、もしかしたら希代の天才料理人となるべき才能の持ち主かもしれないですからね。
その時、台所から松真氏の声が聞こえてきました。
「ぐっ………あれ………? ふんっ………」
パプリカ切る時点でこの声か……。(絶望)
なんとかパプリカを切り終わる松真氏。ザルにとって洗う姿はまるで料理系男子のデキる空気をまとっていますが、カオマンガイにはパプリカは使いません。
そしていよいよ本題です。
今回、最もトリッキーな食材である手羽元。
この骨付き肉を、氏はどう調理して、カオマンガイへと昇華させるつもりなのか?
(本来の食材である)もも肉を用意していない時点で、もはやカオマンガイとは呼べないかもしれませんが…せめて……せめて、
蒸せば及第点。
茹でても赤点ギリギリ。
焼くのはちょっと違う。
まさか油で揚げたりはすまい。
…さて、どう出るか?
口元を一文字に引き結び、意を決したように手羽元に手を伸ばす松真氏。
あーっソッチ!冷凍チャーハンから先にいきますか!手羽元は邪魔だからどかしただけだったんだね!言うまでもないですが、カオマンガイにチャーハンは使いません。
ニヒルな笑みを浮かべながらチャーハンに均一に火を通していく松真氏。その様だけはかなり堂に入ってるのが不可解でなりません。カオマンガイ作ってんだよね? 何で強火で一気に炒めてるんですか? 何で上手くフライパンを扱ってパラパラにしようとしてんですか?
もうカオマンガイにこだわるのはヤメよう。
いっそ清々しい気持ちで普通に冷凍チャーハンを食べる気持ちになりつつあります。企画としては意味不明ですが、素人の創作料理という地雷を踏みぬくよりは、誰が作っても美味しいモノを食べれるならば僕は満足さ。手羽元とかパプリカとかは僕が帰った後に松真氏が一人で食せばイイさ…なんてことを考えながら、フライパンを操る氏を眺めていたら…次の瞬間。
うぉぉおおおおいっ!?!?!?
そんな「米のついでに炒めます」的な感じで、重厚な手羽元に火が通るワケがないでしょうがっ!!
口には出していませんが、瞬時にガバッと立ち上がっちゃいました。食中毒のリスクを考えると、さすがにコレはアドバイスをせざるを得ない……と思い、恐る恐る近づくと、その気配に気づいた松真氏がコチラを振り返り、
「ですよね」
と言いながら頷きました。
ですよね、ってなんじゃい!! さも最初から分かっていたように、落ち着き払って別の鍋に手羽元を移し替える松真氏。いやいや明らかに俺の気配で「マズいことをした」ことに気づいてたよね!? 何でそんな涼しい顔で調理を続けられるの。動きがあまりにも堂々としてるから、「もしかして、パックから取り出した手羽元は1回チャーハンの横を経由させるのがカオマンガイを作るうえでの常識なのかな」と納得しそうになりましたよね。
ていうか、これにて手羽元の調理法は「焼き」に決定。
カオマンガイの要素は完全に何1つなくなりました。
合掌。
こうなりゃ、無事に火さえ通ってくれれば、なんだっていいや(投げやり)。
その後も、独創的な料理に向かって邁進していく松真氏。
パプリカと空心菜は結局チャーハンにイン。色彩の暴力。まぁ見た目は悪くないけど…。
手羽元にオイスターソースをダイレクトにオン。男らしすぎる。でもコレも見た目はそこまで酷くないんだよな…。
そして出来上がった料理がコチラ。
※スペインに料理の修行に出ていた弟(前)と、出所したばかりの兄(後ろ)ではありません。
………。
…………。
……………。
ジャンバラヤじゃん。
いやもうコレ、完全にジャンバラヤじゃん。
■ジャンバラヤ…スペイン料理のパエリアに起源を持つアメリカはルイジアナの庶民的料理。米と肉と野菜を炒めたヤツ。美味しい。
カオマンガイ作ろうとしたらジャンバラヤできちゃったよ。タイ料理を作ろうとしたらルイジアナの庶民料理に似たものができちゃった。日本で。
カオマンガイ?
カオ…マン…ガイ?
まぁ、でもですね。見た目はイイんですよ。そして匂いもイイんですよ。
とにかく、実食と参りましょうか。
大事なのは味ですから。頼むからトリッキーなマリアージュになっていませんように…!!
まずはお肉から。
表面は良い感じでオイスターソースの焦げ目が付いていますが…果たして中まで火は通っているのか? げっ歯類のように前歯を前にせり出しながら、まずはちょびっと一口、おそるおそる肉にかぶりついてみます。
!?!?!?
…う、う、美味い!!!
想像に反して焼き加減は絶妙で、肉は硬すぎず柔らかすぎず、パサつきもなくジューシーで、噛むごとに手羽元の肉汁と旨味が口の中にふんわり広がっていきます。その肉の甘みをオイスターの塩気と酸味が引き立てているのですが、さらに風味を引き立てているアクセントは…コショウだ! これは粗挽きのコショウだ!!
何ならもっと食べたくなる味でした。
肉に下味も付けずにいきなり焼き始めるなど、前戯もせずにいきなり挿入するに等しい愚挙…と、肉を焼く松真氏の姿を、ぶっちゃけ苦々しく眺めていたのですが、結果美味しいんだから驚きました。オイスターソース1本槍という豪快極まれる味付けに、あらびき胡椒で爽やかな薫風を添えるとは。何ていうか、憎いねコンチクショウ、って感じです。必要以上に優しくしなくてもモテちゃう系男子みたいな? 何だかイライラしてきました。
さておき、お次はライスの方です。
こちらは、元を正せば冷凍チャーハン。すでにしっかりと下味も付いていますし、正直、マズくなりようがない一品。ゼロから焼き上げた肉がこれほど美味いのだから、ほぼ完成形から炒め上げたライスはどれほどの味に仕上がっているのだろう。期待に胸を膨らませた僕は、皿の端を口元に引き寄せて、肉の旨味が心地よく停滞している口中に、箸を使って一気にライスをかき寄せました。
…………。
………………………。
食感はおこげ。というか、こげ。
味は……味はオイスターソースが強すぎる…。信じたくないことだが……冷凍チャーハンを炒める段階でアドリブでオイスターソースをぶっかけてしまっているようです。ここに来て料理初心者の怖さが露呈したといえましょう。
オイスターの酸味が、長坂橋で仁王立つ張飛の如く前面に立ち、チャーハンの風味も、米本来の甘みも、酸味の奥で頼りなげに立ち往生してしまっています。唯一の救いは、パプリカのシャキシャキとした小気味良い食感と、酸味を緩和してくれる甘みか。ちなみに空心菜は行方不明です。
どうしてこうなった?
ライスの方は一口だけ食った後、肉だけに意識を集中する松真氏。
「松真さん、チャーハンの方にもオイスターソース…」
「ガッツリいきました。パプリカとか空心菜を入れたから味がボヤけるかな…と思って」
「味がボヤける」なんて言葉は料理中級者以上じゃないと使っちゃダメなの! 何というか、非常にこう、小賢しいですね。芸人さんが作った滅茶苦茶面白いネタに客席から合いの手入れる素人さんみたいな痛さがあります。
ボケ「~~ってワケなんですわ」
突っ込み「なんでやねん!もうええわ!」
客「ホントホント!もうええわ!」
ヤメとけって……(涙)。
完食。いろいろ言いましたが、初めての料理にしては十分に及第点。なんだかんだ美味しく完食してしまいました。…悔しいっ。
とにかく手羽元は本当に美味しかった!
ビールやレモンチューハイなんかと一緒にツマんだら、このうえなくたまらない相棒となるでしょうね。普通に白飯とほおばっても、1本でご飯1杯は軽くイケちゃうんじゃないかな? ライスの方はもうこれ以上何も言いますまい。
カオマンガイを作ろうとした結果、見た目はジャンバラヤな料理ができましたが、もちろんジャンバラヤでもありません。これはそう、全く新しい……未知の美食です。
そうですね。この料理を新しく
マツマンガイ
と命名することにいたしましょう。
マツマンガイを食べたという経験は、単に一つの新しい料理を食べたこと以上の学びと意味がありました。
・自炊経験がほぼなくてもソコソコやれるタイプの人間がいる。
・カオマンガイを少ないヒントで作ろうとするとジャンバラヤができる。
・オイスターソースに頼りすぎると喉がめちゃくちゃ乾く。
松真氏が今回の経験でより素晴らしい料理人に成長できるとこを祈りつつ、筆をおきたいと思います。ただ、その成長を見守りたくはないので、第二弾は年単位で間を空けて頂けますよう、お願いしますね?
<本日のお料理と評価>
マツマンガイ……★★☆☆☆(★2つ)
<総評>
肉は絶品、ライスは欠品