非色 有吉佐和子
青い壺、悪女について、ですっかり有吉佐和子さんに魅了されてしまった。本屋で次の本を物色していたところ、アンリ・マティスっぽくてかわいい表紙の本書を見つけて迷わず購入。(あとで調べたら本当にマティスだった)有吉さんの作品の中で有名どころという訳では無さそうだが、わたしは読んだことのある3冊の中では断トツに面白かった。
敗戦後、占領軍として駐在してた軍人と結婚した『戦争花嫁』と呼ばれる日本人女性が主人公。当時は4万人以上いたと言うのだから、それほど珍しい話では無かったんだろうが『日本人じゃない』子どもを連れて歩く事で受ける差別や好奇の目に耐えれず、夫のいるニューヨークに渡米する。露骨に差別的な発言をする当時の日本人の感覚にもギョッとする事ばかりだが、アメリカに渡った後の人種差別には更に驚かされる。
自分と異なる姿をした人、異なる環境で育った人、異なるルーツを持つ人、それぞれが互いを差別しあう社会の中で、主人公は自分が日本人であること以上に、夫がアフリカ系アメリカ人であることで、住む場所や働ける場所が限られていたり、同じ戦争花嫁の仲間からも見下されたり、やり場の無い絶望感を抱えながら逞しく生活していく。
これが60年前に上梓されたって本当?と疑いたくなるくらい、人種差別という問題に深く深く切り込んでいる。有吉佐和子さんがいかに先駆的で頭の良い作家だったのかがよく分かる作品だった。もっともっと彼女の作品が読みたくなる1冊でした。