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#10 モノからコトへ —人はもはや物を求めていない

「新しい時代のお金の教科書」が無料で1話読めるマガジン。前回は「お金を発行する主体は、国家から個人へと変化している」という話でした。

今回は、ビジネスの変化をみていきます。編集秘話では、ビジネスの定石と山口の経営する会社について紹介します!

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 空間から時間へシフトした後、次の大きな変化は、経済です。

 人間は、自然に生命の安全や食の欲求が満たされると、社会的承認の欲求を求めるようになります。いわゆる衣食足りて礼節を知る、というものです。今、先進国に住む人の欲求は生存欲求から社会的欲求へと急激にシフトしています。それに呼応して当然経済も変化しています。

欲求構造、財の形態は連動して変化する


 社会で求められる欲求が変化することで、それを提供する財が変化し、価値流通の手法が変化していきます。財とは経済学の用語で、経済で人々が求める価値あるモノやサービスを表します。今後の流れをこの図に沿ってみていきましょう。

 20世紀のビジネスでは、生存欲求を満たすものが多くありました。しかし21世紀に入ると巨大企業が独占し、インフラ化し、この欲求段階における財はもはやビジネスの中心ではなくなってきました。

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 最下位の生存欲求が満たされた我々はさらに上段の欲求、すなわち承認欲求へと変化していきます。欲求が変化するとそれを満たす財も変化していきます。実際に、私達の所得は減少傾向にあるにもかかわらず通信費は大きくなっています。

 2003年から2014年にかけて家計所得は320万から302万へと減少した一方で、家計に占める通信費は3.28%から3.77%へと逆に上昇しているのです 。生活保護世帯でさえ、これらの社会的欲求を満たすための財への支出はエアコンや食費等、生存に近い衣食住などの原始的欲求を削ってでも支出する項目になっています。これは、社会的尊厳を保つための出費です。

 社会的欲求を満たすこれからの財とは何なのかということを、今あるビジネスの例を見ながら考えてみましょう。またその財を流通させるための手段はお金からどのように変化していくのでしょう?

 まずは、20世紀までと21世紀からのビジネスをざっくりと比較してみましょう。

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 20世紀のビジネスの基軸は標準化・画一化・習慣化の三つでした。業務を標準化して効率を追求し、商品を画一化して世界中に送り込み、そして、顧客が継続して購買するように習慣化させようとしてきました。

 しかし、21世紀のビジネスは多様化・個別化・肯定化へと向かっていきます。

標準化・画一化の行き先


 私達の生活をよく見渡すと、衣食住などの基本的な生活インフラは余剰の状態にあり、お金を払って買うものではなくなっています。

 現に、国内の住宅の空室率は20%を超えていくという予測が有力ですし、乗用車の保有台数は、5000万〜6000万台で10年間変化がありません。これはつまり、家も車も余っているということです。20世紀は、生命保険と家は二大消費でしたが、今後は違います。余っているものをどのように運用させてもらうかが大切になってきています。

 衣料品に関しても同様です。

 ユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)は、売上高1兆8000億円、営業利益1700億円という巨大企業で、もはや単なる「アパレル」とはいえません。ユニクロが「衣」のインフラになりつつあると言っても過言ではありません。

 ユニクロは、ファストファッションと揶揄されていますが、18歳〜22歳の女性が衣料品にかける費用は1999年には15万円弱でしたが、2014年には半分以下の7万円弱まで低下しており、服にお金をかける時代ではなくなっています。服の「機能」という面に限って言えば「ユニクロでいい」という風に価値観が変化しているということです。

 若者にお金がないという話ではなく、シンプルなものが流行っているし、服においてアピールをしていくのではなく、肉体を鍛えたり、内面を強化する方向に向かっています。筋肉もファッションの時代なのです。

 食についていえば、セブン&アイ・ホールディングスは、掲げる「五つの約束」の中で「社会インフラとして、すべての人が安心して便利にお買物できる社会を実現します」と述べ、まさに「食のインフラ」を目指しています。

 同社が提供しているセブンプレミアムは、広範な食の定番商品を揃えていますし、最近宅配食や給食など食の〝ラストワンマイル(家庭まで)〞に進出しています。国内コンビニ業界におけるシェアも四割まで上昇し、寡占状態が強まっています。先ほどの「五つの約束」にも、社会インフラとしての自負が謳われている状況です。現名誉会長である鈴木敏文氏は、「日本では小さな店は成り立たないと言われたが、実際にやってみたら社会インフラになった。インフラというのは、それがあるからインフラなのではなく、無のところからでも環境がどう変わるかという見方をしていけば創り出せる」という風に語っています。

食に関してはこだわったらきりがありませんが、ただ空腹を満たすということに関してはコストがかからない時代になってきていると言えます。

 交通手段に関しても、コストは低下しています。

 航空業界でも、ピーチ、ジェットスター、エアアジアが日本に一斉参入した平成二四年を機に、国内でもANA/JALの牙城が崩され、価格破壊が進んでいます。移動以外のサービスを削ぎ落とすことによって、コストダウンを可能にしているのです。今後も世界中での移動コストはますます下がってゆくでしょう。

 以上のものをまとめると、あらゆるモノがインフラ化(無償化・低コスト化)する方向にあるということが言えます。

 これはすなわち、モノビジネスは終わりを告げているということに他なりません。生存欲求を満たす財(モノ)については、一部の大規模企業がその提供を独占していきます。そして上記の状況に加えデフレ状況下において生活物資が安価に抑えられている状況にあります。

 実際、政府の金融政策以上に、事業家による効率化とイノベーションの速度は速く、原材料の調達や消費者同士のシェアリングエコノミーを含め、モノの価格は低下を続けて限界費用を限りなくゼロに近づけていくでしょう。そしてメルカリのような二次市場(中古)を活性化させる企業がますます世界からモノの無駄な製造を減らしてゆくでしょう。

(本文:山口揚平「新しい時代のお金の教科書」)



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<編集秘話>
 今回のメッセージは「ビジネスはモノからコトへと変化している」でした。

 編集秘話では「ビジネスにおいて”定石”はあるのか?」という事と、山口の会社について少しご紹介します。


「事業創造も全体像がわかっていれば怖くない」のだそう。

👆 ダイヤモンドオンラインで連載をしているのでご興味あればそちらをお読みください!

 会社を作ったり、起業をする時に、主たるビジネスだけでなく経営を同時にやらなければならなくなる。
 たとえばファイナンスでは事業計画を作れなければならない。しかしそれは本当に起業家自身がやるべきことなのかと疑問に思う。特に資本政策は専門的で難しく、また一度実行すると後戻りができない。
 投資家のオファーを鵜呑みにはできないが起業家が自分で考えるには知識の面でも時間の面でも限界がある。
 中立的な事業創造のプロフェッショナルがもっと必要である。日本には技術や事業シーズがある。アーティストも職人もいる。志も金もある。足りないのはプロフェッショナルであり、それは報酬などの面からやむを得ない。


  山口は、「創造に力を与える」をミッションに、志ある企業に財務や人事、資金調達などの支援をする事で成長を促進する”アクセラレータ”という業種の会社(ブルー・マーリン・パートナーズ)を経営しています。

  山口揚平のやる事は、情報を広く収集し、それを巧みに加工・編集し(ビジュアル化、擬人化、論理構成)、知として再構成し、広くあまねく流通させること。

 本を出していても、事業を作っていても、山口のやる事は変わらないのだと思います。

 ちなみに、ビジネスについてのtweetで興味深いのがこちら。ブロックチェーンが時間を刻む技術ですから、それと呼応して新たなビジネスがまた生まれていくのでしょうか。山口からまたこの話を聞いてみたいなと思っています。


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