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#15 仮想通貨の次に時間通貨の時代がやってくる?

「新しい時代のお金の教科書」が1話無料で読めるマガジン。前回は「資本主義経済は、時間主義、記帳主義を経て、信用主義経済に至る」という話でした。

今回は、時間主義経済をより具体的に見ていきます。編集秘話では、来るべき変化に備え、どんな準備をする必要があるのか?具体的なアクションプランについてご紹介します。

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時間主義経済とは何か?


 ここから、仮想通貨の次の時代である、時間通貨の時代、すなわち時間主義経済についてもう少しだけ詳しく見ていきましょう。

お金で買えないものを時間がカバーする  


 お金は、水などのコモディティには便利なのですが、一定のモノやサービスにしか使えません。例えば、芸能人の友達に相談するとか、自分が大学で講座を持って学生に講義するなど、それを可能にするのはお金ではなくて、信頼で結ばれた関係性つまりネットワークでしかないのです。では何がお金の代わりをするかというとそれは「時間」なのです。ここにきて時間が通貨として存在し始めます。

 人々の欲望が生存から社会的欲求へと変化すると、それをお金によって購入することは難しくなります。それを得るためにはお金でなく、時間が必要です。大富豪が大統領になるには社会的な信用や世間からの承認が必要ですし、裕福な家庭においても、子供を正しく育てるためにはお金よりも時間をかけなければなりません。効用に比例するものは貨幣ではなく、自らの時間だということです。

 社会的欲求の充足には人間関係・価値意識の醸成が求められ、それは時間によって生産・蓄積されるのです。お金が時間に変化し始めるのは自然な動きです。

個人に帰属する数学は時間しかない

 時間通貨を、エネルギーを閉じ込める資源という観点から見てみましょう。

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 なにかを起こすにはエネルギーが必要であり、エネルギーとは集約された資源のことです。 繰り返しになりますがお金の強みは、それが数字で表されるということです。数字というもっとも明確な膜の内側に信用と価値を閉じ込めることができます。

 一方、個人(individual)とは本来〝分け(dividual)〞〝がたい(in)〞という意味であり、信用の母体の最小単位となりえます。分かちがたい最小単位というこの膜の内側は、信用と価値を閉じ込めることができる最後の砦(とりで)です。

 高度に抽象化され信用の希薄化された現代の中央銀行発行通貨はそのコントロールが限界に来ています。一方で、時間とは国家や社会集団の信用ではなく、個人(individual)の信用に帰属する数字です。そして、この個人が〝発行〞できる外部化された信用こそが「時間」なのです。

 時間は、信用の最小単位である個人が発行できる最大の汎用言語である数字であることによって、最高に有効な通貨としての地位を担保できるのです。

 これまでのタテ社会の言語はお金(円・ドル)であり、これから到来するヨコ社会の言語は個人です。時間がお金になるというのは、社会の言語が「円」から「縁」へと変容しているという文脈からも明らかです。

 通貨としての時間が便利なのはその性質にもあります。

21世紀の財の生産に必要な資源は時間である


 社会的欲求を満たすための財の生産に一番重要な資源は、時間です。社会的欲求を満たす財の構築に必要なのは教育であり熟考であり、意見や価値観・文化の異なる人間同士のダイアローグ(対話)とそれによる触発であり、コミュニケーションです。それは お金という資本投下の量に比例せず、人々の使う時間の量とその密度にかかっています。

 時間は二つの意味で用いられる主要な生産資源です。

 一つは、自身の基礎的な価値基盤の形成と維持のために使います。例えば、自身の健康の増進や知識の吸収・ネットワークと信頼の構築のために使われます。

 もう一つは個別の仕事・プロジェクトの遂行のためです。それぞれの仕事・プロジェ クトにおいて価値を見出すためには、いかなる場合もある程度の期間が必要です。その目的と条件・状況の理解、企画、内外関係者との信頼関係の構築、コミットメントの醸成、資源の調達、そしてエグゼキューション(実施)にかかる期間が必要です。

 したがって、時間通貨は労働単位時間で精算されるものではなく、一定の期間、少なくとも3ヶ月〜3年、場合によっては7年、15年といった長期間にわたって契約され なくてはなりません。

雇用や労働から人々は離れ始め時間をより大切にする


 豊かさを最大化するもの、またそれを生み出すものはお金という資本でなく、時間であるということに気づいた時に、私達はどのような行動を取るのでしょうか?

 まずは、非生産的な労働の回避です。生存欲求を担保するための財が、インフラ的企業によって独占的かつ安価に供給され、ベーシックインカムが導入される中において、「実は生きるために労働時間を費やすことは、非効率なのではないか」と考え始め、人々は単純労働時間とそれに伴う心身のストレス・コストを削減しようとするでしょう。

 これまでの経済は「労働の商品化」を促し、社会規範として勤労、法令として労働の権利というラベル付けを行うことで、仕事(職業)を、社会の内部に取り込み雇用の体制を促してきました。朝から晩まで汗水たらして働くことが尊いという価値感でした。

  仕事の形は、より一層、近代がその秩序維持の中で創り上げてきた「雇用」から離れてゆきます。つまり、会社に所属し、非生産的な時間を固定的に販売するのでなく、その提供する価値の対価を多様な契約(コントラクト)形態によって提供し、希少性の高い時間は、心身の回復と人間同士の信頼関係の構築、時間価値の増幅のための学びや投資に充てられることになるでしょう。

 仕事の意味は個人や組織間の互いのコミットメント(期待とそれを満たすための活動)方式へと変わってゆくでしょう。そのようなコミットメント方式による組織との関わりをする人は現在ではIC(インディペンデント・コントラクター)と呼ばれ、米国では2030年までには40%を占めるまでになると言われています。

時間通貨はどのように生活に入ってくるのか


 時間通貨はどのように生活に入ってくるのでしょうか。おそらく時間通貨が私達の生活に入ってくるのにはいくつかの方法があると思われます。

 一つは、個人の時間が単に今の通貨(円やドル、ビットコイン)などに換算され、1秒あたり60円などでやり取りされる形です。

 もう一つは、個人の時間を総合的に預かる「時間銀行」なるものが出現し、時間をもとに新しい通貨単位(例えばT:time)に換算してそのTという通貨が使われるようになる、というものです。Tはいろいろな意味で便利でちょっと複雑です。

 例えば、今まで表現しきれなかった価値はTによって換算しやすくなります。アーティストの作品が1万円で売られていても100万円で売られていても普通の人にはわかりません。しかしアーティストがこれは1万T(つまり一万時間かけて構想・実行され た)といえば、「あー、なるほど。それだけの時間をかけたのだね」という風に価値を認知しやすくなります。

 もちろん、一人ひとりの時間単価には差があります。そしてそれは受け手にもよりま す。非常に高名で優秀な弁護士であってもクライアントの理解力がなければ時間は有効 に使えません(理解されえません)。その意味で時間通貨Tの価値は使う人、受け取る人によって伸縮します。

時間通貨はアメーバ的な性質を帯びている


 このように時間通貨Tの複雑さはその伸縮性にあります。

 時間通貨は、個人の年齢そして提供する期間(=かたまり)によって、単位あたりの価値(例えば1秒あたりの価値)が変化するという点で、一般的な通貨とは異なってい ます。

 具体的に見ていきましょう。まず年齢ごとのあなたの時間単価は成熟と成長に応じて変化していきます。働き始めの18歳や22歳の時の1時間は、成熟した40歳の1時間と価値は全く異なります。時間主義経済の時代では、成長と成熟に限界があることを意識することが重要になってきます。

 時間の価値が伸び縮みすることをもう一つの文脈で説明しましょう。

 提供する期間がどのくらいかということによって同じ人でも時間単価は変化します。 例えば、世界一有名な投資家のウォーレン・バフェットと元アメリカ大統領のバラク= オバマ、そして読者であるあなたの時間単価(1秒あたりの価値)を期間別に見てみましょう。最初に1秒だけの時間あたりの単価を考えた場合それぞれどのようになるでしょうか? 1秒だけであれば誰でも「あっ」と言うくらいのことしかできません。そうなると、時間あたりの価値はバフェットでもオバマでもあなたでも変わりません。

 しかし期間が30分あったとすると、どうでしょう? バフェットは株式投資についての深い知見を持っていますから、30分も時間があればひょっとすると数億円の価値のある話が聞けるかもしれません。するとこの場合単価は非常に高くなります。オバマ元大統領は、非常に多くの経験を有していますが、30分では法案等を通すことはできませんから時間単価はバフェットより低いかもしれません。あなたは自身の専門性を発揮しても今はこの二人には今はかなわないかもしれません。

 では30年ではどうでしょうか?(まことに遺憾ながら)ウォーレン・バフェットは30年後にはあの世に旅立っている可能性があります(笑)。オバマ大統領も影響力は持っているかもしれませんが現役を退いているでしょう。ところがあなたの30年後はわかりません。ひょっとすると三人の中でもっとも時間単価が高い存在になっているかもしれません。

 このように、時間単価は自分の提供する期間によって変動します。

 さらに、時間通貨ではその単位価値が伸縮します。提供する個人の年齢、提供する期間や提供相手との関係によって価値がアメーバのように複雑に変化します。100円と1000円の価値単価が比例係数の関係にある現在の通貨と時間通貨は全く異なるといっていいでしょう。この点が時間主義経済のもっとも面白く、かつ複雑な点かもしれません。

すべての人にとって公平な時間通貨


 さて時間が持つ公平性も、現代の通貨として時間が適している理由の一つです。貨幣はすでに偏在が激しく、世界の民主化が進む中でこのような富の偏在は不公平を助長し、結果として社会の不安を拡大し、経済の安定性を阻害しています。米国においてCEOの給料が一般社員の1000倍であり、金融機関の上級社員のボーナスを含む給料が一般企業の管理職の10倍である現状に対して、いまさら言及する必要がないほど、その価値対価と報酬の整合性が取れないのです。

 また富の偏在も大きく、貧国克服を目指す国際協力組織オックスファムの報告(2015年1月)によれば、世界の富裕層上位1%の所有する資産は2014年に全世界の48%に達し、2016年には50%を超え、残り99%の人々の所有資産を上回るものと見ています。富の世代間における格差も大きく、例えば我が国において、金融資産の80%以上が、65歳以上の人々によって占められている状況では、経済の新陳代謝が行われず、結果として国民全体とその未来に対して健全な状態ではありません。

 古き良き時代、安定的な通貨の持つ価値貯蔵機能は、現役時代に生産した価値を保全し、引退後にも経済的に困難な状態が起こらない点で有効でした。しかし世界の人口バ ランスが高齢化し、生産人口比が低下してゆくと、非生産者(多くは資産を持つ高齢者) に経済的権力がシフトしていきます。これは社会の新陳代謝や不均衡を増長させ、社会秩序にマイナスの影響を与えてゆくのです。

  これらの状況に対し、時間は公平性を与えます。人の時間は個別差こそ多少あれ、大きな差異がない。それゆえ機会について公平といえるのです。

時間通貨はつながりと物語を保全する


 最後は、貨幣の四つの課題の最後に挙げた「文脈の毀損」を防ぐ効果です。すでにみてきたように文脈価値は、貨幣化(数字化)によって損なわれます。貨幣取引によって文脈が断絶した財は、単に機能を価値としてもつ匿名の財となります。その ような既存の財は、既存の産業工程の中にとりこまれ、標準化・細分化されることでさらに価値が減ってゆきました。

 一方で、文脈価値は、時間(歴史・つながり)によって生産されます。そしてそれらの財は、通常、信頼のおける個人間(知識・社会的承認など時間をかけて紡いできた人々) の直接的な継承によって保全されます。つまり、時間を起点とした直接取引を行うことによって財のもつ文脈が保全されるのです。

(本文: 山口揚平「新しい時代のお金の教科書」)

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<編集後記>


今回のメッセージは「時間はこれから、ヨコ社会の通貨になる」でした。

 今回もここまでお読みいただきありがとうございます!

 編集秘話では「時間主義経済はどのように浸透してゆくのか?」についてお話しします。

 本を読んでくださった方で、「時間主義経済って、よくわからないな…」という声がたくさん聞かれました。


 「時間主義経済と言われてもさっぱり…」という方に向けて、時間主義経済で、時間通貨はどのように取引されるの? ということと、どんなサービスが流行るの?ということについて書いていきます。

資本主義というのはとっくに終わっていて、時間主義になっている。
今の時代、主体的に管理できる自由時間を持っている事がもっとも大事。時間は主体性、創造性、教養、健康、愛情の源泉。
今なら、もし選べるなら年収1500万のストレス満載で昼夜問わず働くより、年収500万で週休3日の方を選ぶべき時代。自分の今の時間を決して安売りしてはならない。もし今、お金をもっているならば、そのお金で買うべきものはすなわち時間に他ならない。(2014年 山口のfacebookより)


時間主義経済の片鱗をもっとも端的に表しているのは、労働や雇用形態です。

「長時間拘束されるくらいなら、非正規雇用で自由に休める方がいい。」という若者が増えていることが問題視されていますが、これは時間とお金の優先順位が変化しているとも言えるでしょう。

人々は自由に使える時間を確保することを好み、そしてむやみにお金でサービスやモノを買わず、時間を買う方向へと変化しています。


資本主義経済における為替や株と同様、時間は取引所で売買されていきます。


株式会社メタップスのTimebankや弊社のTIMESHAREなどがその先駆けですね。

(ちなみに弊社TIMEBANKは、事業開発者を募集しています…よろしければ。)

そして、その時間通貨を元にどのようなサービスが広がるかというと…


(文責: 大西芽衣)

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