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#5 お金の価値=使っている人数×母体の信用

新しい時代のお金の教科書」が全文無料で読めるマガジン。前回は、「お金は稼ぐのではなく、実は〝創るもの〞である」というメッセージをお届けしました。

今回は、お金についてのシンプルな方程式について紐解きます。編集後記では、「"揚平さん"が考え始める時」についてを書いてみたいと思います。

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通貨の価値を決めるのは信用と汎用

 これまでお金にまつわる色々な話と、どうやってお金が出来てきたのかについて話をしてきました。人々は互いに大事なものをあげたり、もらったり、そしてそれを記帳していったこと、お互いの記帳と精算の歴史、そして王の権威と商人の信用がくっついて中央銀行が出来たこと。

 いよいよお金の本質に迫っていきます。

 お金をお金たらしめているたった二つの要素、それさえ知っていればあなたはお金のマスターになれます。

 お金、一般には通貨ですが、一体、その通貨の価値は何であるか? お金の価値を決める単純な方程式があります。

お金(通貨)の価値=使っている人の数×発行している母体の信用

 です。これがもっとも重要な方程式です。もっとシンプルに言えば、「信用」×「汎用」ということになります。

 お金とは外部化された譲渡可能な信用だと第一章で述べました。その定義に基づけば、円やドルなどの中央銀行通貨は万能ではなく、お金の価値を決めるのは、母体の信用×使っている人の数、に過ぎないということです。


信用とは何か?

 お金をお金たらしめている一つの要素は信用です。信用とは何か? 一言で言えば「(理由を)問い詰められないこと」です。お金の信用に関していえば、「価値があることの理由を説明せずにすむもの」のことです。その結果として人々の間で流通され、経済活動を高速化させる媒介になるのが通貨です。人が信用を創るには価値を積むしかありません。方程式でかけば、信用=Σ価値(信用は価値を積み上げたもの)となります。

 ではその価値はといえば、これにも方程式があります。価値=(専門性+確実性+親和性)/利己心です。

 ただこの本は価値創造の本ではないので、価値の方程式についてはまた別の機会にあらためてお話しします。もしご興味があれば拙著『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』(ダイヤモンド社)や『そろそろ会社辞めようかなと思っている人に、一人でも食べていける知識をシェアしようじゃないか』(アスキー・メディアワークス)をご覧ください。


お金と信用は離れつつある

 さて、現在、先進国では、各国ともどんどんお金を刷っています。もちろん日本もです。各国の金融政策の基本は輸出を増やすために自国の通貨を安くするということです。世界中の先進国が自国通貨を安くしようとその競争(希薄化という)が行われています。これは本当に不自然な現象です。

 母体の経済力を通貨安の政策によってあげようということですが、そうは簡単にはいきません。どんどん通貨を発行することで通貨単価あたりの価値が下がり、それを結局は、徴税か戦争、そのセットでケリをつけてきたのが国家通貨の歴史です。

 少し話を広げるとあらゆる古今東西の戦争の本質は経済戦争にあります。どんな王様も国も子供の喧嘩のようには戦争を始めないのです。戦争には経済的な動機が必ず背景にあります。NHKの大河ドラマのようなヒーローは表面的なものです。明治維新の立役者は坂本龍馬ではないし、日露戦争も秋山好古・真之兄弟の活躍だけが勝因ではありません。

 やはりなぜ戦争をすることになったのか、その経済的動機と、戦費をそもそもどうやって調達してきたのか、そこに目を向けなければ本質はみえてきません。最近、『お金の流れでわかる世界の歴史』(大村大次郎 KADOKAWA)など、戦争の背景にかならず潜むお金の話を書いた本も出てきているのでご興味があればぜひ読んでみてください。


〝ザ・マネー〟の拡大

 さて、実際、お金(数字)の量的・質的拡大は今世紀に入って急激に起こってきました。

 下の図は2003年と2013年の実体経済と金融経済を比較したものです。実体経済が約1.2倍の成長しかないときに、お金は197兆ドルから710兆ドル、つまり3.6倍くらいになっているのです。そして実体経済と金融経済の差額は約4.5倍から約14倍になっており、実態の裏付けがなく、お金だけがどんどん膨らんでいます。実体経済と金融経済の差が広がりすぎると、ぷつりと糸が切れ、バブルが崩壊し、実体経済が機能しなくなります。デリバティブへの規制強化の影響で2016年において差は約6倍へと縮まっていますが、乖離状態は依然として続いています。

 金融業とは、信用の卸業者のことです。決して信用を創るわけではありません。信用は、価値創造・一貫性・コミットメントをブレンドして発酵させた結果作られるものです。しかしながら金融業者が信用を土台とせず、お金をつくり続けた結果、このような事態になりました。

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 先程述べたように現在各国で大規模に金融緩和が起こっていますが、その結果金融破綻のサイクルはどんどん短くなっていきます。 

汎用とは何か?

 信用についてお話しました。

 今度は、お金を構成するもう一つの要素である「汎用」について細かく見てみましょう。汎用性とは「広さ」と「深さ」のかけ算、どれくらいの人が使え、何に使えるのかということ、そしてどれくらいの文脈を伝えられるかという二つの軸のかけ算で決まります。

 人間のコミュニケーションにはいろいろなメディアがありますが、その中に言語やお金などがあり、ボディランゲージなどもあります。このように考えれば、お金とは、汎用性が高く、文脈が浅いメディアといえます。お金は数字で表わされますから、誰でもその価値がわかるかわりに、その背景や文化・文脈を伝えるのが苦手なメディアです。

 私はお金が数値であるというこの一点が、実はお金をお金たらしめている所以ではないかと疑っています。数字は、世界共通ですから誰に対しても通じます。ここにお金のトリックがあります。人は数字で表現したとたんに、そこに意識が吸着していくというものなのです。

 私達は若い時から偏差値やランキングなど数字に対して強く執着し、固執してしまう傾向があります。しかし、その数字には本当にそれほどの意味があるのでしょうか? 私達はそこをあまり疑いません。それがお金のトリックです。人々の関心を引きつけますが、実体の価値がわからない、ということです。


お金の広がり

 信用の説明の際に、今起こっているお金の量的な拡大の話をしましたが、同時に、お金の質的な拡大も進行しています。

 お金の汎用性がどんどんと拡大していることにみなさんもお気づきかと思います。パスポートやビザなどはもちろんのこと、角膜などもネットで検索すれば普通に売っています。排気物のCO2、別れさせ屋、遺伝子、結婚もある意味お金で買えますよね。様々なものがお金によって入手できる時代です。倫理観(モラル)とはお金で買っていいかどうかを線引きをすることですが、気がつかないうちに私達の生活はお金にどんどん侵食されていきます。もしも「ちびまる子ちゃん」のクラスで花輪君がハマジにお金を渡して掃除当番を代わってもらったらどう感じるでしょう?

 私達は有機的な人間です。お金は無機的な存在です。お金と人間は本来、水と油のような存在なのです。しかしそれとは裏腹にどんどんとお金に触れる時間が増えていっているのです。

 さて、生物種としての人間をあらためて見たときに、矛盾するようですが多すぎるお金は適切なコミュニケーションの道具ではありません。繰り返しになりますが、人間の種としての生存戦略の本質は異なる個体の分業と交配による自立分散であり、一方、お金とはエネルギーの偏在を促進してしまう統一基準だからです。資本主義はパンデミック(生物突発死)の危機をはらみます。むしろ人間に合っているのは個々人の信用をもとにしたゆるやかで有機的なネットワーク社会なのだと思われます。


今の通貨の位置づけ

 次の図は主要通貨の信用度と汎用度について示した図です。

 国家の信用を便宜的に、政府債務/GDPの比率(=信用度)、利用者の人数(=汎用度)によって測定してみます。政府債務/GDP比率とは、国の中で生産された一定価値当たりの政府債務です。この値が小さければ小さいほど、信用度が高いといえます。(ただし厳密には政府債務だけが国の負債ではありません。)そうすると、USD(アメリカドル)などは世界通貨になっていますが、円は日本以外では非常に弱いことがわかります。

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 国家が発行する貨幣の利用者は主に国民であり、国民の増加は出生率に依存します。利用人数が増えると〝貨幣性が上がって〞いくとも言えるでしょう。

〝貨幣性が上がっていく〞という表現に違和感がある人も多いのではないでしょうか。貨幣は、「貨幣であるかないか」という風に分けられるものではなく、程度の問題です。貨幣は「お金だ」と考えるのではなく、「ちょっとお金だ」という「程度」なのです。

本文:山口揚平(「新しい時代のお金の教科書」)

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編集後記

お金(通貨)の価値とは使っている人の数×発行している母体の信用である。」というのが今回のメッセージです。お金とは、外部化された信用であるということを言い換えると、「お金=信用×汎用」というシンプルな方程式になります。

お読みいただいてありがとうございます!ここからは、有料です。「”揚平さん(周りの方々からこんな風に呼ばれています)”が考え始める時」について。

ある時「揚平さんはなぜ、お金について考え始めたのですか?」と尋ねた方がいました。

すると「違和感、かな。人との繋がりとか、時間とか。明らかにお金よりも大切なものがお金によって売り買いされていく。それを目の当たりにしながら働く中で、葛藤と向き合ったんだよ。」と話し始めたのです。

山口が携わってきたダイエーやカネボウなどの大型M&Aの現場では、製品や事業をROI(投下資本利益率:ざっくり言うとお金が基準ということ)で分け、売却します。

人が時間と想いをかけて育ててきた「企業」は一つの生命体なはず。それなのに、悪性腫瘍を除去する外科手術のように、事業の一部を切り分けて黒字化する。。このやり方に限界を感じていたんだとか。

そこから「お金とは何か?」について考え始め

金を構成する基本要素(お金のピラミッド)を解明した時に、執筆したのが「なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?」。歴史や未来などに考えが及んだのが今回の書籍です。

今回の書籍で、お金について考えることは一旦終わりだそうで、次に「生命とは何か?」ということを考え始めているようです。

執筆の過程で、揚平さんは「実践の中で感じた葛藤と対峙し、考え、乗り越える。そして言語化することで昇華し、体系化して広く社会へと還元する。」という生き方を選んでいるのだな、と感じることが多かったです。

そしてそれは、体力が尽きても徹底的に考え抜き、実践し、乗り越え、書籍や事業として社会に還元し、また徹底的に考え抜き、実践し、時に体調を崩して…というような、持てる体力と精神力を使い切るやり方でもあったりします。

お節介心で「矛盾も葛藤も持たずにいたら、身体を壊すこともないのではないか。揚平さんの抱える葛藤が早くなくなればいいのに。」と思ったりします。

しかし、葛藤があるからこそ、揚平さんの”考える”という仕事は成り立っている。葛藤や矛盾を乗り越えることを通して社会は進化していく。

だから、「どうか身体と心が安らかなまま、葛藤に対峙できますように。」と祈りに変えて、日々業務にあたっています。

いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。

「考えて何か新しいものを生み出す人は、何かしらの悩みや苦悩や、葛藤を抱えているよね。」という話を、偶然にも会社を経営している友人ともして、悩みや葛藤も愛おしいな、とちょっと思えました。

次回は、お金の変化を1枚の図で説明します。

編集後記: 大西

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