【ショートショート】 『山岳フリマ』
「山岳フリマ?」
麻薬取締官のキトは、通報電話の内容を先輩から伝えられた。
「そう。裏岳の山小屋でヤバイ草を売るとさ。電話はカタギの声じゃなかった。目障りな素人の売買を山の上まで行って潰すのも手間だと考えた組員のタレコミかもな」
山間は県境が入り組み県警が介入しづらいから麻取なのだろう。
「ノテ組の取引がありますが」
「あっちはまだいいだろう。よし、登山しよう」
当日。慣れぬ山登りの末、小屋に着く。
だが、
「高山植物いかがですかー」
「あ、お前、県警の…。あ、あの声はてめえだったか!」
「おや麻取さん。登山とは悠長ですな」
キトは先輩に耳打ちした。「もしかしてうちらより先にノテ組のヤマを解決するためのガセネタを掴まされたんじゃ…」
「ハハ。とんだ『ヤマ』でしたな」
「くそー、タダじゃ帰れねえ」
「ほう、どうします? 高山植物取引の逮捕権でも売ってあげましょうか?」
「いや俺もシートを広げて、囮捜査権を売る」