学習理論備忘録(20) 動機づけ面接家による『新 コーチングが人を活かす』の感想文
勉強会が急遽中止になってしまった。そこで、さらにさらに学習理論から離れてコーチングの話をする。しかも『新 コーチングが人を活かす』という本の感想文である。
でも、学習ということとコーチングはとても関係が深いんだし、いいだろう。学問からは離れるが、実践的な知恵ではあり、臨床の観点からも意義を見いだせる。いっそ、動機づけ面接の眼鏡をもってこの本を読み、逆に動機づけ面接の姿を浮かび上がらせてみることにしようじゃないか。
そもそもコーチングにせよ動機づけ面接にせよ、その手のものに入れ込んでいる人はその視点でものを視る。その落とし穴として、他の領域でもとっくに言われているようなことを「これは動機づけ面接のオリジナルだ」などと平気で思って吹聴し恥をかく、なんてことがある。
動機づけ面接とコーチングは似ている。だから動機づけ面接のやり方がどれだけオリジナルではないか、それでも動機づけ面接独特な点はどこか、を考えるのにコーチングの知識は利用できるのである。
そこでまずコーチングとは何か、をこの本の中で探してみると…
定義は書いてなかった。とりあえず
" 問いを2人の間に置き、一緒に探索しながら相手の発見を促していくというアプローチ " ( p12 )
を取るものであることは確かなようだ。
さて、プロのコーチングやファシリテーションの仕事というのは私がよく言う「第4次産業」にあたるものである。コーチングというサービスにおいては、究極のマーケットリサーチとでもいうようなことを行なっている。いや、目の前の人物に対してだけ行うのだから、" 究極のテーラーメイド "と言うべきか。
その後が第4次産業らしく、相手に必要なものを探り出しても、商品は渡さない。商品を作り出すのもまた顧客なのである。
これは、人が自分の真のニーズにさえまず気づいていない、という前提があるので成り立つのである。
動機づけ面接でも始めの過程は、ほぼこれと同じことをやる。ここで述べられている「発見」というのは、動機づけ面接の概念では「共感」に関連することだと思われる。
すぐれた共感は、相手の思いに気づくだけでなく、相手が気づいていなかった相手の想いに気づく。それは言い当てるのではなく、一緒に探索することによってなされる。
この本のLESSON01では、「相手の自分の発見をうながす」とあるが、動機づけ面接ではこれに対し「2人の専門家」という言葉を使う。
「私は課題解決一般の専門家、あなたは自分自身の課題の専門家」
という意味だ。
だが私はこの言葉はあまり好きではない。「答えはもしかしたらカウンセラーが持っているかもしれない」と思わせる余地を残すからだ。それよりは、答えを「" きっと見つける ” と相手を信頼する」というコーチングのスタンスのほうが好きだ。
「2人の専門家」と言うのは、動機づけ面接が適切な行動へと誘導するためのものであるからだろう。
たとえば禁煙外来で動機づけ面接を使う場合、クライエントが抵抗していても、セッションの目的は禁煙だ。ここで医師は禁煙一般の専門家である。
LESSON02の、まずは「相手との信頼関係を築く」というのはコーチングや動機づけ面接に限った話ではない。それをしないカウンセリング技法のほうが珍しいくらいであろう。
LESSON03、「目標達成に目を向ける」は動機づけ面接では「引き出す」と言われる過程である。だが著者はコーチングで「引き出す」という言葉が適切ではない、と考えているようであり、こちらも再考させられる。
LESSON04、「視点・切り口を変える」これはLESSON03の延長だろう。先に進めるのが難しくなったときに使えるスキルである。「リフレーミング」という言葉を動機づけ面接では使うが、これも動機づけ面接だけで使う言葉ではない。
LESSON05、「主体的な行動をうながす」
主体的と言っておきながら「やってくださいね、絶対に」と言うのはコーチングではありのようだ。動機づけ面接では、「許可を得た説得」というのは許される。
まだまだ続くが、こうした相違点を考えながらこの本を読んだ。コーチングの良さもよくわかるし、動機づけ面接を見直すこともできる機会であった。
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