【ショートショート】 『逢いたい菜』
トモル先輩から「相談に乗れ」と連絡があり、カフェで会った。
妻がめったに帰らないという。
「もしや男だ!」
「楽しそうに言うねぇ。男なら飽きたら帰ってくるだろうけどな」
先輩の妻のズミさんは、帰宅が面倒だと、大学近くに部屋を借り始めたという。哲学の研究者なのだ。
「先輩、帰らない妻を持つ夫向けに、いいものがあります。ジャーン『逢いたい菜』!」
「ぼくはのび太か」
「古いですねー。違います。街で迷い込んだ古ーい八百屋に売っていたんです。珍しい野菜が並ぶ中、恰幅のいい妙な言葉遣いのおかみさんが…」
元ネタが通じていないようだ。「とにかく注意書きには従ってください。ひと房分まるまる食べさせないと家に寄りつきませんよ」
「こんな蕾だらけのを? 肉と炒めれば食うかねえ。茎も固いからかなり火も通さないと…」
ぶつぶつ言っているが先輩ならなんとかするだろう。
大根の花を料理するにはちょいと工夫がいる。料理の腕は上がるはずよ。