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遠隔診療の備忘録(3)『寝起きでも診察を』


遠隔診療の話の3回目、である。大事な話は今回ぐらいまでか。


ピザをオンラインで注文しようとした。だが、操作がユーザー本位でなく、ログイントラップに引っかかったり、一から入力をやりなおしたり。電話ならメニューを見て「これこれ」と言って住所を述べて一瞬で済むのに、便利さを目指したはずのネット注文がかえって時間がかかる。面倒すぎて、結局頼むこと自体やめてしまった。


オンライン診療も同様である。そう気安くできるようなものではない。システムを使うにも、様々なルールを守るにもハードルが高く、詳しく知れば知るほどに使う魅力が失せる。


新たなアクセシビリティの問題が生まれたということだ。受診行為が、デジタルツールにどれだけ詳しいかという個人の能力に大きく依存する。いや、案外能力の問題ではないかもしれない。プログラムが得意な人でさえ、これだけ面倒なシステムは触る気にならないかもしれない。


また、オンライン診療を導入した場合、こんな問題も考えられる。患者のほうが、運転しながら受診する、といったことだ。不適切な場所でのオンライン診療は中断するルールである。また、患者の近くに人がいるのもダメだ。駐車した車内から配信するYouTuberだっているくらいだ。自分だけの場所を確保するのが難しい人というのは、かなりいるだろう。

「診療をするにはふさわしくない場所なので診察はできない」と医師に言われたら、その日のうちに受診できるものと思っていた患者は不満を抱くだろう。医療における新たなクレームの火種である。



だが、オンライン診療は、「面倒になる」というだけでなく、手軽になる面もあるかもしれない。このシリーズでは、あえてオンラインの弊害をひっくり返して考えてきた。

「受診を支援する」というオンライン診療本来の意義を、深掘りしてみる。


そもそも病院に行く、というのが面倒なものでないか。行くまでの距離があるのは当然として、建物に入ってからの手続きもかなり煩雑である。東大病院などは患者がなすべきことがかなりたくさんあって(尿検査を自分でするとか。これ、けっこうスレスレだと思うんだけど…)、「ああ、ここは受診するにも偏差値が高くないといけないのだな」と思ってしまったほどだ。

また世の中には、声を出したくない人というのもいる。予約でもそうだし、診察も含め最初から最後まで人と話したくない人もいる。オンラインにはそれを補う余地がないだろうか?(ただ、チャットによる診察は認められていないが)


ジャルジャルのネタで、テレワークやオンライン面接を、実は寝ながらやっていた、というのがある。寝ながらでも受診できる、というのはかなり便利なことではないだろうか。朝どころか、昼に起きるのさえ困難な人だっている。


「あ、今、寝起きですか」

「あ、わかりますか?っていうか、起きてもいないですけれど。ハハハ」(それでも上の服だけはしっかり着ていたりする)

「いつもならまだ寝ている、というところ。今日は受診のために起きてくれた、と」

「すいません」

「いや、いいんですよ。昼夜逆転は続いているようで・・・」


なんてやり取りが考えられる。


もっとも、電話という、ネットよりもずっと人々の生活に馴染んだツールによる「電話診察」というものが、患者が医者にちょっとした質問をする、という程度にしか使われていないところをみると、ネットで診療が手軽になるというのも、そんなには期待できないかもしれない。



厚労省がオンライン診療に適する例としてしきりに挙げるのは、治療のモチベーションの維持である。ある程度治療が進み状態が落ち着くと、患者の気も緩み始める。通院治療がいい加減になるのだ。現状では、たとえ続けることが必須な治療を患者がサボった場合、わざわざ病院からは連絡しないのがほとんどだ。


「今日いらしてませんけれど大丈夫ですか?」


などと電話する医者がいたら(ちゃんとそうしている大学教授を私は知っている)、かなり珍しいと思ったほうがいい。


オンライン診療では、医者のほうから患者側に連絡を入れることになる。これまではなされなかった慣習である。こういうのが自然になるきっかけになるのではないだろうか?訪問看護・訪問診察と同じで、「お伺い」ができる。

かつて


「飲んでますか?」


という栄養ドリンクだかのテレビCMがあって、薬のチェックだけをする訪問診療を「飲んでますか訪問診療」と揶揄する人もあった。だが、外来で「飲んでますか?」をやるよりはずっと効果的だ。オンライン診療は、外来と訪問の真ん中くらいの関わりだ。やりかたによっては治療継続の割合をかなり高められるだろう。訪問診療よりコスト・バフォーマンスも高い。

監視するということの弊害についてはここでは論じないことにする。他人が直接話しかけてくれるというだけで、例えば薬を飲むモチベーションは確実に上がる。「飲んでますか?」だけでもばかにはできない。さらにもっとうまい関わりかたもある。


さらにオンライン診療では処方も可能である。必要な薬を病院に行かずとも手に入れられるというのは魅力的である。受診が面倒だという理由で薬を飲まなくなる人も多い。


オンライン診療が楽だ、と多くの人に一旦思わせてしまえば、もっと利用はされるし、普及もするだろう。そのような未来が楽しみである。


Ver 1.0 2021/6/22


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