【短編C】出入り口が大嫌い 中編
【企画】#誰でもない誰かの話 に参加しています。
君が帰って来なかった日。
耳の下の、光るやつ。
あれを隠したんだ。
ご飯を作るところに、無造作に置かれていたあの日。
下に落として、それから足でえいえいって
端のほうまでやったら
高いところの裏の、暗いところに入っちゃって
届かなくなっちゃった。
(届けなくしたんだけど
後から、まずいな、とは思った)
「あっれえ、どこかなー」
君はずっとそれを探していた。
俺は、気にしないことにした。
あれがなければ、出入り口を出ても
君は早く戻ってくるかもしれない、と思ったから。
あれ、掴みたかったはずなんだよな。
でも、暗いところに入っちゃった。
いいよ、もう。
それより、見つけないでいて。
そしてそのままここにいればいいじゃないか。
「黒丸、行ってきます」
あー、行っちゃった。あれもないのに。
また1人だ。
ため息だ。
でも、ため息どころじゃなかった。
いつまでたっても、君は戻って来なかったんだ。
いくらなんでも、明るくなるまで戻らないことはなかったんだ。
俺があれを動かしたってことが知れて
怒ったのかな。
お腹が空いた。
寒い。
でもそんなことよりも
1人なのがいやだ。
俺はこのまま死んじゃうのかな。
俺といっしょにいるって言ったじゃないか。
いつのまにか寝ちゃった。
でも俺は、君が出入り口に来ると
俺はすぐに起きるのだ。
そういうものなのだ。
「ごっめーんよおぉ、黒丸」
よかった。よかった。
そのときにおいがした。
たぶん、ユージのにおい。
どくどく。
体が痛くなってきた。
見ると、耳の下にべつのキラキラがあった。
しまった。
俺が、前のキラキラを動かして見えなくしたから
こんなことになったんだ。
「お腹空いたよねー。はい。黒丸」
俺は耳を見て、顔を見た。
それからやっぱりご飯を食べた。
それからしばらく、動かないでいた。
すると、苦しくなって
毛といっしょにご飯を出しちゃった。
「黒丸!」
君が僕を抱き上げる。
なんとなくだけど
"先生”のところに行くような気がした。
いいよ。君の手の中にいられるなら。
あ、新しいキラキラを耳の下にしたままで
出入り口を出るんだね。
こちらの企画に参加しており
この作品の続きを書きました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?