【精神科講談(3)】 『華麗なるギャッツビー』
日本の古典芸能である話芸、講談でもって精神科の知識を啓蒙しております、自然対数乃亭吟遊と申します。「動機づけ面接」という治療に用いる技法のトレーニングのための集会、TNTの申し込みの際、「あなたは動機づけ面接のネットワークにどう貢献しますか?」という質問に対し、「動機づけ面接講談を作って世界に広めます」という解答をしてしまいましたので、本日はその約束を果たしたいと思います。世界初公開『動機づけ面接講談』でございます。お話は、『華麗なるギャッツビー』です。これは大変に長ーいお話でございますが、本日はそれを三分でお送りしたいと思います。
1920年代、世界恐慌を迎える前のアメリカは、第一次世界大戦の特需と、自動車産業の発展などにより、大変な好景気でした。一方で禁酒法が制定され、酒の密造によってマフィアが利益をあげ、世を支配していた時代でもありました。
ここは北アメリカのウェスト・エッグという街。立派なお屋敷が聳え立っておりますが、その中でもひときわ大きな豪邸がございます。ここでは毎晩盛大なパーティーが開かれており、そこの主はギャッツビーという謎の大金持ちでした。やがて人づてにこの屋敷に招かれたのが、デイジーという夫人でした。
「またあなたに会えて嬉しい」
そうです、ギャッツビーが戦争に行く前、二人は出会い、愛し合っていたのでした。
「デイジー、僕が戦争に行っている間、君は社交界の男性と結婚してしまった。でも僕は五年間で大金持ちになって、湾の向こう岸のあなたの家が真正面に見えるこの家に住み、毎晩毎晩桟橋に灯される緑の光を見ていたのですよ」
さあこの二人の恋心が再び燃え上がります。加えてデイジーの夫、トムは女癖が悪く、不倫のし放題。ギャッツビーは、「デイジーがトムといることは彼女の福祉に反するから離婚をして僕と一緒になるのがいちばんだ」という、臨床的には微妙な判断を下しました。
さて、とある日のこと。ギャッツビーはデイジーとトムに会います。
「ええい、なんだお前たち二人は。なんだか怪しいな」
「なによ。あなたなんか浮気ばっかじゃない」
するとギャッツビーは「そうだよね、デイジー。トムのことは、一度も愛したことはないよね」
「えっ?」
ちょっと考えてしまったのはデイジー。トムもまた驚きます。「え?一度もか?あの二人で旅行した日も?」
「あの…一度もってことはないわねえ」
そうです。ギャッツビーは強めに聞き返しをしすぎて、却ってトムの行動変容を妨げる維持トークを強めてしまったのです。
二人の恋は実らず、この後のギャッツビーの悲劇たるや、大変なことになりますが、今日は調度お時間となってしまいました。
フィツジェラルド作『華麗なるギャッツビー』の一席、これをもって読み終わりといたします。