【落語(11)】 『女になるのだ』
「藤堂の兄さん、兄さん。俺、決めたんすよ」
「なんだ、竜。なにを決めた」
「いやねえ。ちょっと性転換でも、ってね」
「ああ、そう。性転換ね。…って性転換?お前何言ってやがる。そんなこと軽々しく言うことか。何だよ、いきなり」
「いやいきなりじゃないっすよ。エロい女性教師が書いた第二次性徴についての本を読んだんっす」
「エロい女の人が書いた第二次性徴の本?」
「エロいんすよぉ?名前からしてエロいんすから。シモーノケ・ボーボーデアールっていう」
「俺もそんなに学のある方じゃないが、それでも大学中退でな。もしかしてもしかするとそれはシモーヌ・ド・ボーボワールで本の名前は『第二の性』じゃないか?」
「ああ、そんな感じ」
「お前、それはエロい女性教師じゃなくて、偉い哲学の先生だよ」
「まあまあ似たようなもんです。なんせ性ですよ。性。もう俺なんか、中学生のときからずっと『性』って漢字を見るだけで興奮できますからね。理科って『酸性』とか『アルカリ性』とかって『性』の字が結構出てくるんですよ。だから理科の授業だけは大人しく興奮していましたもん」
「お前、医者行ったほうがいいよ」
「ええ、行こうと思うんですよ。性転換するために。性の転の換ですよ」
「あのなあ。性転換って簡単にできるもんじゃないぞ。そもそも第二の性がどうして性転換につながるかっていう説明をしていないだろ」
「ああ、兄さん。読んだことないんでしょ。ボーボーデアールが言うにはですね、『人は女に生まれるのではない、女になるのだ』ってことらしいんですよ」
「なんかそんな書き出しで有名だってのは覚えているような気がするなあ」
「だから俺、女になるんっす」
「は?」
「だから俺、女になるんっすよ。女になるのだ!」
「『女になるのだ』ってそういう意味なのか?」
「そうですよ。世の中の女ってのは、要するにそういうことでしょ?女になったんっすよ」
「お前、頭が弱いとは思っていたとはなあ。そこまでだったとは」
「そういうわけでいい病院教えてください。行ってきます」
「待て待て待て。そもそも、どうして女になりたいんだ?なってどうするんだ」
「そりゃもう、堂々と女湯に入りますよ。長年の夢が叶います」
「お前わかってんのか?女になったら、男として女に興奮することはないんだぞ?」
「いいんですよ。レズビアンとして、女に興奮しますから」
「それ、無理あるから。いや?どうなんだろう?昨今のその辺の事情は難しくてよくわからなくなってきているし。あるのか?」
「兄さんねえ。そのへんのことは俺が詳しいですよ。今の時代ねえ、性別は自分で選べるんです。選んだらそれに他人が文句言っちゃいけないんす」
「たぶんだけど、女湯に入るのが夢だった男が性転換して女湯に入った場合に限っては、文句を言ってもいいというか、袋叩きにしても大丈夫だろうな。下手すりゃ逮捕だ」
「いやあ、みんなそんなそんなもんですよ。俺にはわかっているんです」
「どうわかっているんだ」
「銭湯だけに、みな欲情します」
これを落語にせよ、という指令がさや香姉さんから下ったため、ネタにした。
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