そのとき人は泣き、笑い、シャッターは切られていた
note 企画 #読書の秋2021 光文社さんのラインナップが今年も素敵だ。というか光文社新書そのものが、どの本も手を抜いていないということか。良い本を推したいという編集者の思いがビシビシと伝わってくるので、この読書の秋企画は好きである。今回は『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』の感想。
これ、いい本だなあ。
先の戦争のことを含め過去に人がどう生きたかということについてはずっと気にかかっている。恐らく意外なことだらけであろうと常々思っていた。
我々は過去を歴史として知らされるが、それはステレオタイプな受け止め方に汚染されているように思う。今ある海外だってそうだ。ロンドンは霧の街で、青森と言えばりんごだ。
なら戦時中は?「悲惨であった」という心のフィルターがかかり、ひとつの偏見となって時代を捉える視野を狭く歪んだものにしてしまう。「この時代はこうであったのに違いないのだ、そうに決まっている」と。
355葉の写真が、そんな思い込みを雄弁に吹き飛ばしてくれる。白黒写真が現代の技術でカラーに蘇っているのだ。
気に入ったのを挙げていくと
・おもちゃや本を並べて自分は首だけ出して写っている子の写真ーーああ、これ、子供向けYouTubeチャンネルのノリじゃん。そういう写真を撮ってくれる家族っていうのがいい。明るい。
・移動講演隊の貯蓄奨励演説の写真ーー「欲しがりません 勝つまでは」のスローガンが掲げられている。これ、たしか小学生が作ったんだよなあ。日本人の貯金好きもこの時代に作られた。だいたい、演説家の風貌がかなりうさんくさい。ああ、こういうふうに人は騙されるんだなあというのと、それもある種のどかなことだなあ、というのと。
・三国同盟締結を祝う会に集った子どもたちの写真ーー鉤十字の旗が日本に飾られているのが新鮮。国同士が締結するのって、心強くて喜ばしかったのだろうね。これまで自分は三国同盟を「はいはいはい。三国が協定ね」と単なる字面としてしか捉えていなかったのだが、こういう写真を見るとそこに息遣いが感じられる。
・原爆投下から一年の広島の焼け野原を見ながらデートしているカップルの写真ーーそうだよなあ。デート、するよなあ。こういうところって。
とまあ、見事にタイムトラベルさせてもらえた。当時の「普通」が見えてきた気がした。
人というものはしたたかであり、陽気さをどこかに持っている。戦時中のモノトーン一色のイメージを吹き飛ばす一冊に、ひたすら感心した。
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