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カサンドラの嘆き4 『アクセル踏んだり、ブレーキ踏んだり』


放物線、あるいは2次関数


タカシくんは八百屋になってりんごを売りました。

毎年売り上げは落ちて行きました。

来年には何個売れるでしょう?

    *            *            *

前回は、予測の中でもまだまだ簡単でだれでも分かる、「ひたすらまっすぐ」というものの予測の話であった。たとえば宝物が、今日に至るまでに


地点1、地点2、地点3、地点4、地点5、…


という具合に移動してきた事実があるとする。「ならば明日は6の地点にあるだろう」とは、小学生でも考えつくことだろう。

もう少し目で追える速さにしてみよう。速さとは、小学生は「距離 ÷ 時間」と習うが、もう少しだけ正確にすると「単位時間あたりの移動距離」ということになる。

床の上でボールを転がすのをイメージすると分かりやすいかと思われる。そのボールを取ろうとするならば、後ろから追いかけるよりは「このペースだと次にはここに来るな」と思って待ち構えるほうがやりやすいだろう。このとき我々はボールの動きを予測している。計算式を使わなくったっていい。計算と同じことを感覚的にやっている。


ここまでが前回の話だ。


今回はもう少しだけ複雑になる。


高い塔の上から手に持っていたボールを手放した。この場合、ボールは真下に落ちていく。今回はボールの移動距離を考える前に、まずはスピードを測ろう。

1秒後には、かなりざっくりした数字で表すが、秒速約10mになった。速い。短距離選手並みだ。2秒後には秒速約20mだった。3秒後は?そう、秒速約30mだ。


なんのことはない、ここにも比例の関係がある。前回は時間と移動距離に比例関係があったが、今回は時間(秒数)と速度(ここでは秒速で示した)の関係が比例だ。


では前回のように、時間と移動距離の関係を調べるとどうなる?何秒後にボールは、何m下にある?


これもかなりざっくりした数字で表すが、ボールは最初の1秒間で約5m下に落ちる。では次の1秒ではその2倍で10m下まで落ちているかというとこれがそうではない。20m下にいる。3秒後には最初の位置からざっくり45m下にいる。移動距離は比例よりもずっと速い勢いで大きくなっていく。


球技をやる人はこういったボールのコンマ数秒の動きを体で掴んでいる。ボールの動きを予測する、あるいはうまくコントロールする必要があるからだ。計算式を使わなくてもその軌道を把握できている。ただ落ちるボールだけではない。投げ上げられたボールの軌跡だって判る。


例えばバスケットボールだと、


「この角度でこのくらいの勢いで投げれば、こんな風にボールが飛んで行ってゴールに入るはずだ」


と、ボールの軌道を予測してゴールする。私はスカッシュをするが、壁から跳ね返ってきた後のボールが床にぶつかるまでの間の軌道は、簡単に予測できる。


「ボールはこの地点に落ちてくるはずだ!」


という予測ができるからそこに向かって行き、ラケットを当てる。野球ならキャッチボールでボールを取るときも、フライをキャッチするときも、同様の予想をする。逃げる動物を追うよりははるかに簡単な予想で済む。


投げ上げられた物体の描く軌跡を放物線と言う。真上や真下に投げたり落としたりするのではない限り、その道筋はまっすぐではなく曲がっている。


スポーツをせずとも放物線に親しむ方法はある。『アングリーバード』をやったことがあるだろうか?パチンコで鳥を飛ばすゲームだ。あれは放物線を予測するゲームと言ってもいい。初心者用に補助線を示してくれるモードを使うと、放物線の軌道を感覚的に覚えられる。ゲームばかりか現実のパチンコや、バスケットボールのゴールがうまくなる可能性だってある。


放物線は中学校で習う「2次関数」と呼ばれるものと同じ形のカーブになる。地球上では空気抵抗があるので、放物線は厳密には2次関数からずれる。ややこしくなるので、今はそのような細かい誤差は無視しよう。


2次関数の例

2次関数を描くものの例をあげてみる。


1. 「タカシくんは秒速50mで走らせていた自動車のブレーキを踏んだ。ブレーキを踏み始めた地点から測って、1秒後には45m先に、2秒後には80m先に、3秒後には105m先にいた。

2.「『1、4、9、16、…』次の数字は?」
1×1、2×2、3×3、4×4となっていることに気づけば、次は 5×5=25だと分かるだろう。

3.本物のパラボラアンテナは二次関数の曲線を描いている。


1.については、どんどん速くなるというのではなく、どんどん遅くなるというだけで、ボールを下に落とすのと本質的な違いはないと考えてよい。(ただ、ブレーキなので止まった後車が後ろにいくことはないから、5秒後には125m先でスピードがゼロになって止まったままとなる。グラフもそのまま平らになってしまう)


2.は数字の列、数学では数列と呼ばれるものだ。この数列については「1列目は高さ1の位置に、2列目は4の位置に、3列目は9の位置に・・・」といった具合に点を打ってグラフを描くと、各点は放物線のカーブの上に乗る。

出題者がこの後でたらめを言うと予測はできないが(数学的にも次が25以外の数字になるような数列を、数式を使って作れる)、ここは素直に「かける数字が1つずつ上がる」とした場合、次の数字だけではなく、1つ飛ばしたその次の数字も、そのまた次の数字も予測できる。なんとなればその先の何番目の数字であろうと、無限に予測できてしまう。

例えば100番目の数字は、100×100で10000だ。



3.については、電波を集めるのに2次関数の形が利用できるので、そのように人間が作ったというだけである。予測の話ではない。(ただし、パラボラアンテナもどきもあるので、その場合は放物線にはならないが)



予測を計算で出すには数式が必要だ。時間を  t とし、予測したいものの場所(位相)を x とする。x を t の関数としてあらわすことができれば予測は可能だ。


前回の予測では y = ax という関数、比例を使った。今回の式はそれとは異なる。2次関数は


y = at^2


となる。"t^2"をひとまとめに見ると「yはtの2乗に比例する」なんて言いかたもできる。


この式を簡単にするために、 a に1を入れると


y = t^2


となる。noteでは数式は書きづらく、2乗は右上に小さく2と書くのでなく^2 となってしまうので読みづらい。ちゃんと書けたとしても2乗となるとややこしく思う人がいるだろうから、ここはもっと簡単に


y = t × t


と書いてもいいだろう。2.で示した数列も、この数式に則っている。t番目の数字(= y )は t × t だ。


2乗が出てくるので式は「2次式」、曲線は2次曲線と分類される。



直線でざっくり考えるのではなく、曲線として考えることになった。

もし、グラフや軌道に直線の予測しかしなかったらどうなるだろう。大きく外れることもあるだろう。同じ増えるにしても、その勢いがだんだん緩やかになっていることもあるし、加速している場合もあるだろう。そこで直線ではなく、2次関数に寄せることにすると、見事に予測できることがある。すごいぞ、2次関数!


・・・と言いたいところだが、この予測でもまだ足りない場面はある。たとえばスカッシュのボールはあまり弾まないので、壁にあたった後ボールがどれだけ跳ね返るかを読むのはちょっとだけ難しい。そもそもバスケットボールとスカッシュの例をあげたのは、どちらも屋内競技であるからだ。屋外スポーツで風の影響も考える場合、放物線だけ読んでいてもダメだ。


また予測は外れるのである。

次回はさらに複雑な予測を立ててみよう。


    *            *            *


売れたりんごの数


「あれ?タカシくん。2021年は、マイナス500個くらいりんごが売れそうだね」

「そんなバカな!」

(ちなみに見出しのグラフに2次関数を引いてあるが、実際はちょうどゼロになるくらいだと予想できる)



Ver 1.0 2021/6/25



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