パステルシングル
夢を見た
夢の中で、母は絵を描く人だった
現実の母は 絵を描くどころか鑑賞することも無い人だったのに
ともかく これは夢の話だ
母が好んで使うらしい支持体は
パステルシングルと呼ばれるものだった
要はシングルサイズのパステル専用の紙、
ということなのだが
(勿論そんなものは現実に存在しない)
夢の中で 私は母の作品を見ていた
その作品は 下からのアングルで白いバルコニーの上にチラ見えする
地元の祭りの太鼓打ちの衣裳を着た子供の後ろ姿だった
真っ青な空を背景に 祭りの白い衣裳の上に色とりどりのたすきをかけ、水玉模様の鉢巻きを巻いた勇ましい姿は
白いバルコニーで九割がた隠れている
白いバルコニーの線と 青い空の背景に
その子の姿は挟まれていて 本当にほんの少ししか見えない
後ろ姿のその子の肩から背中にかけてたなびくたすきの色は 赤 青 黄色の混合で
潔く晴れ渡った春先の青空にとてもよく映えていた
母の描いたその子供が 私だったのかはわからない
ただ 我が家で祭りの太鼓打ちに出たのは私だけだったので
そうなのかもしれない
姉は稚児行列に出た
顔を真っ白に塗られ、ちょこんと点のような眉毛を描かれ、唇には赤い紅を差した女の子たちが、豪華な衣裳に繊細な金箔細工の冠を被った姿で町を練り歩く
私はお稚児さんには決して出してもらえなかった
不細工な子供は見映えが悪いと判断したのだろう と思っている
私は決して可愛い女の子ではなかったから
姉は稚児行列に出た
私は太鼓打ちに出た
美しくはなかったけれど
元気に舞って見せたよ
母の描いたあの太鼓打ちの子供は
私だったのか
それすらもわからないけれど
その夢を見た朝は
気分のいい目覚めだった