SANUKIReMIXインタビュー「庵治石」
たぶん、加工。は新しい超石工アーティスト集団。讃岐石材加工協同組合「石栄会」所属。水晶と同程度を誇る「硬度」と、唯一無二の模様である「斑」や繊細な石質から生まれる「品格」、希少性などを兼ね備える「庵治石」。作り出されたものを「すごい」「かっこいい」と感じてもらえるのは「たぶん、加工。」だからです。
―まずは、ご自身のことについて教えていただけますか?
曾祖父の代から石屋さんで、創業は祖父の代になります。70年ほど続いていますが、石屋としては、庵治地区では歴史が浅いほうです。中には江戸時代から続くというところもあるように、石工の技というのは1000年以上受け継がれてきたものです。地域的に「石」は小学校の登下校中にも目にするような、すぐそこにあるとにかく身近な存在でした。
―石材店を継ぐという感覚はいつ頃芽生えましたか?
はっきりはわからないけれど、長男ということもあり、小さい頃から「後継ぎ」という言葉を耳にして育った気がします。社会勉強のつもりで異業種に就職はしましたが、大学を出るころには将来的に跡を継ぐ意思は固まっていたように思います。
―仕事に向いている性格ってあるのでしょうか?
雑すぎる人は向いていないので、手先は器用なほうがいいというのはあるかもしれないです。両親が意識したのかはわかりませんが、小さい頃からプラモデルなどをよく買ってもらっていて、自然とモノづくりが好きになっていました。
―石という素材は難しいと聞きますが、何が難しいのでしょうか?
庵治石は硬いと言われるが、それ以上にまだまだ硬い石の種類も存在します。難しいのは「硬さ」よりも「傷」が多いことで、もともと割れた状態で山に存在しています。中には、外からはわからない傷もあり、水で濡らすなど見つける方法はあるのですが、欲しい大きさが取れないことになります。コントロールできない自然のモノを相手にしている感覚は常にあります。また資源として限りはあるものですが、現在開発されている庵治石は全体の埋蔵量からするとまだ極一部です。
―いいモノってどんな石のことを言うのでしょうか?
加工の部分に関しては95点以上が前提で、石そのものがよいかどうかは人が関与できない部分です。きれいな石というと、好みはあるけれど「色が濃い、目が細い」が共通認識。ただし、それぞれの石の中での判断になります。庵治石に関して言えば、斑がランダムに浮いているものがよいとされています。
―たぶん、加工。ができた背景には何があったのですか?
10年ほど前から様々な広報活動に取り組んで「庵治石」を広める活動をしていましたが、何かをしないといけないと感じつつも正解がわかりませんでした。時代の流れによって墓じまいをする人が増えましたし、墓を作らないなど選択肢が増えていく中で、廃業をするところも出てきました。今こそ何かに取り組まなければ、もう時間がないところまで来ていました。
そこで、「たぶん、加工。」を結成し、様々なクリエーターとコラボして新たな「加工」の価値を生み出す方向へ向かおうと考えました。メンバーは、同じ地域で同じような仕事をしている、ライバルであり仲間。一緒にいると安心できる存在です。
参加した「SANUKI ReMIX」について
―たぶん、加工。として参加を打診された時はどうでしたか?
モリローさんとは同級生ということもあり、それまでにも「庵治石」をもっと多くの人に知ってもらいたいという思いは共有していました。イベントに関しても参加してほしいと言われた段階で断る理由はなかったです。何か新しいモノづくりをすることは楽しみでもありました。
―プロダクトデザイナーの花澤さんの印象はいかがでしたか?
最初はリモートで会議をしました。庵治石という素材について、加工としてできることや難しいことなどを伝えました。その後、工場に来て実際の加工現場や街の景観を見てもらいました。印象としては、穏やかなイメージです。突き詰めれば難しい部分もあるのかもしれないけれど、それを感じさせない魅力ある人だと感じました。
―マッチングイベントの日はどんな気持ちで臨みましたか?
記者発表の段階では何を作るのかはわかっていませんでした。最初はそんなに大きなものを作る感じではなかったのですが、エキシビションまでの日程を考えると、早くデザインを知りたい気持ちはありました。板材、いわゆる廃材を使って何か作れないかという思いもあったように思います。
―デザインを目にされた時は、いかがでしたか?
12月に入って花澤さんからおおよそのデザイン案が届きました。くびれのある形で強度を考えるとその細さがどれくらいか気になりました。庵治石の加工としてどこまでできるかを試されているようなデザインでもありました。自分たちではなかなかトライしようと思わない形で、想像していたより大きな作品を作ることになったのですが、どうやったらできるのかを考えるいい経験になりました。
―作っていく過程で大変だったことは何でしょうか?
2つのサイコロ状の石の中心を合わせて金属の支柱を埋め込んで接着してから、形を作る方法を採用しました。椅子としての強度を保ちつつ、くびれの美しさを最大限に引き出すことに集中したからです。最初は庵治石と言えば思い浮かぶ「細目(こまめ)」と、普段は表に出てこない「中目(ちゅうめ)」の2つを予定していたのですが、算出量がごく僅かな「錆石(さびいし)」も加えることになった時には少し焦りました。結果として、それぞれの良さを感じられるものが完成したと思います。
―完成した作品について教えていただけますか?
タイトルは「THE TIME」AJI-STONE STOOL時間の流れを感じる椅子です。砂時計型のスツールが屋外の公共空間に設置された時に、自然や世界、個人、そして心の「時間」について語ることができるのではないかと感じました。自分たちにとっては、挑戦する意義があった作品だと思います。世の中に出るはずのなかった作品がこのイベントを通して実現したという感覚です。
―会場の展示ブースについてはいかがでしょうか?
「精神と時の部屋」は真っ白な部屋に3つのスツールが映えて、存在感がありました。置く場所によって見え方も大きく変化するように思います。座って、じっくりと自分と向き合う時間を過ごしたくなるような柔らかさも感じることができました。今後は学校や美術館・博文館などスツールのある風景が増えていくと嬉しいです。
―SANUKI ReMIXを終えて、今どんなお気持ちですか?
一言でいうと、楽しかったです。同世代に近い世代が集まる中、伝統産業に携わる異業種の仲間に刺激を受けることも多かったです。それぞれの動きが気になりつつも、自分としてできる限りのものを作り出す集中力にもつながりました。伝統産業の中での成功体験を持つアーティストの存在も大きかったです。これからも受け継いでいくには「技術」だけではない何かをつかみたいです。「感動」があればこそ「価値」を手にとってもらえる機会は増えるはずだと考えています。
―伝えていきたいことはありますか?
思いはいろいろとあるけれどお客様にとって「よい製品」であることが一番。作り手の思いを一方的に伝えることは職人としてしたくないです。石は簡単な素材ではないが特性として素晴らしいところもあります。だからこそ「道具」として使ってもらえて、身の回りに置いてもっと身近に感じてもらえる存在に「庵治石」がなっていけたらよいと思います。
―今後の目標を教えていただけますか?
常に手探りです。不安はあるけれど、できること目の前のことからやっていくしかないと思っています。「庵治石」という文化が継続されていくためには、活動し続けることが大切。知ってもらうこと製品を作り出していくことを止めないことだと考えています。