誰のための正義か
昔なら悩むことなく道を譲っていた。
エレベーターを降りようとすると同時に、自転車を持った老婆が乗りこもうとしてきた。いや、降りる人が先だろ。そんな人に道は譲りたくないと、そのまま真っ直ぐ歩く。老婆も突っ込んできたので、自転車と腕が当たる。当たると同時にその人が持っていた自転車が倒れる。
時間がスローモーションになる。いや、スローになるというより、デジャヴのような感覚だ。この光景はどこかで見たような、ヌルい懐かしさを思い出す。見たはずがないんだ。これは、私の頭の中で想像された未来なのだ。こうなることを私の頭が勝手に予想していたのだ。
咄嗟に「あっすいません」と言い自転車を一緒に起こす。
この瞬間に私の心と体が分離する。
正義とかいうものは、私を助けてはくれない。
私のことは私が守らなければならない。