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アフリカにビジネスで関わる?それとも国際協力?

資源価格の高騰が背景となり、アフリカ経済の成長が今世紀以降加速している。日本においても、ここ10年程度で、「アフリカには援助ではなくビジネスが必要」との論調が高まりつつある。この意見は全くの正論だが、アフリカ某国の大使館で専門調査員として企業支援に携わるうちに、アフリカビジネスに対する解像度が上がり、自分の見識も変わった。アフリカビジネスとのかかわり方について、独断と偏見を交えて知見を整理したい。

要旨
・民間・公的機関どのプレーヤーでアフリカビジネスに関わるかは重要。アフリカにもたらせるインパクトだけでなく、待遇やアフリカ駐在の確実性などはプレーヤーにとって大きく異なる。
・JICAや中規模ベンチャーは個人的におすすめできるが、大使館・中小企業・小規模ベンチャーはおすすめできない。
・ビジネスと援助に優劣はないため、自分の価値観を見極め、心が躍る方を選べばいい。

こんな人におすすめ
アフリカビジネスに関心があるが、どのように関わりたいか検討中の大学生や20代社会人

公的機関でアフリカビジネスに関わる場合

大使館
大使館も企業支援を重視しているが、各大使館の職員にビジネスコンサルティングなどの専門性はないため、政府機関との対話の場を設定する程度しかできない。例えば、現地の日本企業が、不当な徴税を税務機関により強いられた場合に、税務機関のトップと対話の場を設けるなど。加えて、法や投資制度などについても専門的な知見を有する人材はいない(その点はJETROやJICA専門家がカバーしている領域)。人事政策が不透明なので、アフリカビジネスに関わりたいと思って外務省に入るのはお勧めできない。

JICA
JICAも企業支援を重視している。JICAは色々と地方での要人(政府機関地方支部の長など)まで含めて対話の場を設定してくれるので、企業からすると大使館より役立つ存在かと思う。また、日本企業支援だけではなく、カイゼンなどを通じて現地の中小企業支援にも携われるので、その点では大使館よりもインパクトはでかい。企画調査員というポストの中には、中小企業やスタートアップのビジネス支援を専門分野としているポストがあるので、それで採用されるのがベストか。

JETRO
自分がいた国ではJETROのプレゼンスが皆無だったのであまりよく知らない。法制度などの分析をしてくれるとHPで記載しているが、なにせアフリカでの事務所はサブサハラアフリカ7か国にしかなく、かつどの事務所もかなりの小規模人数なので、提供できるサービスの幅にかなり制約があると思われる。

民間企業でアフリカビジネスに関わる場合

中小企業
何かしらの技術で一芸があり、アフリカに事務所を置いている地方の中小企業のイメージ。商社が手掛ける電気・インフラ系のビジネスを除き、自分がいた国では、ほとんどの中小企業が自転車操業すぎて、「アフリカに良いインパクトを与える」云々の前に、資金繰りに必死。また、直接雇用できる人材は大学を卒業したエリート人材なので、貧困層に雇用を創出するまでに及ばないのが現実(これはほぼ全てのアフリカビジネスに当てはまる)。ジョブローテーションがあるので、アフリカビジネスがやりたくて新卒で入社するというより、中途でアフリカポストに応募するのがよいかも。待遇はJTCには及ばない。

JTC・大企業
食品・メーカー・商社などの大企業駐在員のイメージ。給料は抜群だが、駐在員になれたとしても(そもそもアフリカビジネスで有名なヤマハでさえもアフリカ駐在員の数は驚くほど少ないため、駐在員ポストを得ることが難しい)、ジョブローテーション制度により数年で現地を去る必要がある。高給志向の人、根気よく5年から10年は待てるという人におすすめ。JTCは中途採用をしていない印象なので(特に商社)、新卒で入社するのがおすすめ。

零細ベンチャー(目安:日本人駐在員3名以下)
元協力隊員やビジネス経験が浅い個人によって立ち上げられたベンチャー企業のイメージ。「アフリカに良いインパクトを与える」云々を掲げるが、こうした企業のほぼ全ては資金繰りに必死であり、持続可能な事業を担保している企業をほとんど知らない。確実かつ早期にアフリカビジネスに関われるが、かなりの薄給である事は確実な上に、大したスキルが身につかない場合がある(アフリカならではのトラブルシューティングに終われ、マーケティングなどの能力が身につかないなど)ので、個人的にはおすすめしない。

中規模ベンチャー(目安:日本人駐在員5-10名程度)
ビジネススキルを日本で身に着けた30-40代くらいの日本人が創業して数年経った企業のイメージ。一部、日本人を10人程度抱えるベンチャー企業はあるので、そういった企業で働く事は自分の成長になる上に、確実かつ早期にアフリカビジネスに関われる上に、こういうところの日本人駐在員は、コンサルや商社での経験が豊富なので、スキルを学べる印象。ただし、給料は高くない。

自分のアフリカビジネスのかかわり方

どこまで参考になるかわからないが、自分とアフリカビジネスの関わりについて簡単に記載しておこうと思う。僕は留学やNGOでのインターンを学生時代にアフリカで経験した事もあり、新卒の就活ではアフリカで働けそうな会社・組織を軸に、JICA・開発コンサル・商社・メーカーを中心に(節操がなく)受けた(考えが至らず、アフリカのベンチャー企業はほぼ受けず)。

ありがたいことに内定をいくつかもらうも、色々あってビジネスコンサルタントとして働く事になった。個人的に給料は大事な要素なので、アフリカで働ける中でも(アフリカビジネスはこの時忘れていた…)給料が高そうな専門調査員を目指していたので、大学院の学費が貯まった3年目に退職。大学院卒業後はアフリカ某国の専門調査員として企業支援に従事する事になった。ビジネスコンサルでもITやDXを中心に企業支援をしていたので同じノリでアフリカビジネス支援に関わろうとしていたが、大使館はコンサルと違い、専門的なサービスを提供しない(かつ能力的にもできない)し、官僚的かつ本質的な業務でない業務が多く、モチベーションが結構下がってしまった…。


結局どのような形でアフリカと関わりたいか

若干話は逸れたが、アフリカビジネスに関する僕の所管を整理するとこうだ。アフリカにはビジネスや民間投資が必要だが、日本企業のほとんどは事業規模が中国や中東の企業と比べると小さく、事業インパクトや持続性に乏しい。また、そもそも日本のアフリカへの民間投資は、額と(日本から全世界に対する総投資額に対する)割合の双方で増えていない。

「持続的なのは援助ではビジネス」という意見には同意するものの、(日本の)アフリカビジネスの大半は自転車操業であり、ソーシャルインパクトを生むどころか、数年後の事業継続さえ不透明だ(中には素晴らしい日本企業もあるが)。

僕は学生時代から「真に課題を抱えている貧困層」に寄与したいと思っていたため、専門調査員を経て、アフリカビジネスというよりは伝統的な開発援助に魅力をより感じるようになった。

もちろん、個人の価値観に大きく依存するので、ビジネスという形でアフリカにかかわるのか、援助という形でアフリカにかかわるのかに優劣はない。結局は自分の価値観を見極め、わくわくするほうに行けばよいと思う。最後になるが、大使館の専門調査員として企業支援に従事する中で、少しでもアフリカに関わろうとする人の解像度の向上の手伝いを出来れば嬉しく思う。