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#008 わたしは夫を殺したの|ベッシー・ヘッドの言葉|Novel
She introduced herself and her companions: 'My name is Kebonye. Then that's Otsetswe, Galeboe, and Monwana. What may your name be?'
'Dikeledi Mokopi'
'How is it that you have such a tragic name,' Kebonye observed. 'Why did your parents have to name you tears?'
'My father passed away at that time and it is my mother's tears that I am named after,' Dikeledi said, then added: 'She herself passed away six years later and I was brought up by my uncle.'
Kebonye shook her head sympathetically, slowly raising a spoonful of porridge to her mouth. That swallowed, she asked next:
'And what may your crime be?'
'I have killed my husband.'
'We are all here for the same crime,' Kebonye said, then with her cynical smile asked: 'Do you feel any sorrow about the crime?'
'Not really,' the other woman replied.
(The Collector of Treasures, 1977)
彼女は自分と仲間たちを紹介した。「あたしはケボニェ。そっちがオツェツェ、ハレボエ、それからモンワナよ。あなたの名前は?」
「ディケレディ・モコピ」
「なんて悲しげな名前なの」彼女は感想を漏らした。「あなたのご両親は、なぜ<涙>なんていう名前をつけたの?」
「わたしが生まれたころ父が亡くなって、わたしは母の涙にちなんで名付けられたの」ディケレディは続けた。「母も6年後には亡くなり、わたしは伯父に育てられたのよ」
ケボニェは同情するように首を振り、スプーン山盛りのポリッジをゆっくり口へ運んだ。飲み込むと、質問を続けた。
「それで、あなたの罪状は何?」
「わたしは夫を殺したの」
「ここにいるあたしたちはみんな一緒。同じ罪よ」ケボニェは皮肉な笑みを浮かべて訊いた。「罪を少しでも後悔している?」
「そうでもないわ」彼女は答えた。
(『宝を集めるひと』より)
1977年に出版された作家ベッシー・ヘッドの短編集『The Collector of Treasures」より。
夫を殺した妻の強烈で悲しい、しかしあまりに美しい短編でもっとも印象に残る作品だ。このシーンは、夫を殺して刑務所に入ったばかりの主人公の女性ディケレディが、刑務所で同じ罪状の仲間と出会うところ。
村の中で、傍若無人に振る舞う男、家庭を顧みず酒を飲み愛人を作り、仕事をせずに金を使う男は、しかし嫉妬深い。どの女も、同じような家庭内暴力(DV)に苦しみ、最終的には夫を殺すという悲しい結末になる。
あまりにも強烈な物語なのだが、農村社会をよく表していてこの作家の手腕にため息が出る。
しかも、ディケレディは殺した夫の姓を名乗るところも心をぎゅっと掴まれる。(ちなみに、ご存知の通りベッシー本人は父親がおらず、会うことのなかった母親も彼女が6歳の頃に精神病院で亡くなっている)
悲しく衝撃的な物語だが、なぜ「宝を集める」ひとなのかがほんのすこしだけ触れられているくだりには、涙が出そうになる。直接的に「宝を集めるひと」というフレーズが書かれていないところがポイントだと個人的に思う。涙。
ベッシー・ヘッド作品の中でも、宝物にしたい作品のひとつだ。
肝心のもっとも美しいくだりはこのマガジンでは書かないことにする。できれば原書を見て欲しい。もし難しそうであれば、探せば昔出版された邦訳版がどこかの図書館などにあるはずです。
それよりも、わたしが訳して出版したい。
作家ベッシー・ヘッドについてはこちらのマガジンをご参照。
メインブログ『あふりかくじらの自由時間』
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