短歌を読みながら、いまだに人との距離感がわからないことを考える
雑談が上手くなりたい。
特に、美容院での雑談が上手くなりたい。行く前から緊張して、座って緊張して、どうですか?と仕上がりについて聞かれて緊張して、お金を払いながら緊張してしまう。
美容院の外に出た時にやっと息ができた。そんな感覚になる。こんな疲れるなら来るんじゃなかったなんて思ってしまったりも。
こんなにも美容師さんとの会話が苦手なのは自分だけなのだろうか、と思ってしまうこともある。
でも、そうじゃなかった。この主人公もきっと美容院が苦手なんだろうと勝手に仲間意識を持ってしまう。
言えばいいことを言い逃してしまう。言うタイミングはいくらでもあったはずなのに、なぜか言えない。
そんなモヤモヤを抱えながら、すっと白い布がはずされた。これでおしまいの合図だ。あとは、お会計をして、挨拶をして、別れるだけ。そして、美容師さんはこの主人公が引っ越したことを知らないまま。
もしかしたら、こんな会話もあったのかもしれない。
これからどこかお出かけですか?
いえ、もう帰るだけです。
そうなんですね、じゃあ、セットも軽めにしておきますね。
ありがとうございます。
帰るときに、引っ越しの話をすればよかったと思いながらも、もう手遅れ。いまさら、実は引っ越しました、なんていうほどの引越しでもない。
(同じ美容院に来れているので、きっと近くでの引っ越しだったのだろう)
言いたくないわけじゃない。言ってもいいなと思っている。ただ、自分から言うほどでもない。かといって、相手が「引っ越しとかしました?」なんて質問がするわけないのもわかっている。
そんな一人で脳内に作り上げた迷路で立ち往生をしているだけ。そんな会話の下手な主人公に、共感を覚える。
そんな悩みのことを美容師は知らずに、白い布をパッと外す。その白い布がマジシャンのそれで、引っ越しをしていたこと、もしくは言えずにいる悩みを暴いてくれたらいいのだが、そんな魔法はどこにもない。
主人公は結局このモヤモヤを抱えたまま、家に帰るしかない。それも、美容師が想像している方ではない家へ。