井澤寛延

データガバナンス、ビジネスリスクの分野を領域とする企業内中小企業診断士です。行政書士登…

井澤寛延

データガバナンス、ビジネスリスクの分野を領域とする企業内中小企業診断士です。行政書士登録申請中。専門はデータプライバシー、リスクマネジメント、インテリジェンス、データサイエンス(統計学)。修士(経営科学)。前職は航空自衛官として軍事情勢や情報収集・分析の業務に従事。

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  • ビジネスリスク& インテリジェンス プライマー

    リスクマネジメントと経営情報、ビジネスインテリジェンスが専門分野の中小企業診断士として、ビジネスリスクへの向き合い方をご説明します。

  • L’eau qui coule 流れる水のように

    日々の雑感を、時にまじめに、時に飄々と綴ります。

最近の記事

企業経営とGRIC(4)インテリジェンスと戦略の関係

今回は、前回の続きであり、かつリスクマネジメントからやや離れたトピックですが、戦略とインテリジェンスの関係について解説したいと思います。 前回の記事で、インテリジェンスには8つの意義があると述べました。おさらいすると、 敵や脅威の特定(Enemy/Threat Identification) 敵や脅威の弱点の特定(Identification of Enemy/Threat Weakness) 敵や脅威の能力の評価(Enemy/Threat Capability As

    • 企業経営とGRIC(3)企業経営とインテリジェンス

      今回は、GRICのIであるインテリジェンスについて解説します。 企業経営における守りの要素として、ガバナンス、リスクマネジメント、コンプライアンスについて解説しました。これらはまとめてGRCと呼ばれていますが、その枠組みを準備するだけではGRCの実現は達成できません。その理由は、GRC実現にはさらに2つの要素が必要だからです。 一つは「戦略」です。戦略とは何かと聞かれて、明確に答えることができますでしょうか?実際、学術界でも戦略の定義は研究者によりさまざまに定義されていま

      • 企業経営とGRIC(2)リスクマネジメント体制の構築

        前回は、リスクマネジメントにおけるリスク認知の基準について述べましたが、リスクマネジメントプロセスに欠けているもう一つの柱である「リスクマネジメント体制」について触れたいと思います。 マネジメントや組織運営で「タイセイ」というと、「体制」と「態勢」の二つの同音異議語があります。前者は「組織や仕組み」であり、後者は「姿勢や準備状況」を意味します。前職の自衛隊では前者を「からだ体」、後者を「クマ(熊)態」と言い分けていましたこの二つの関係ですが、マネジメント的には「体制」を作っ

        • 企業経営とGRIC(1)リスク認知の基準

          久々のnoteアップです。これまでこのnoteでは、ビジネスリスクマネジメントのプロセスを中心に書いてきましたが、ここからは、リスク管理の3本柱であるGRC(ガバナンス・リスクマネジメント・コンプライアンス)に、それを支えるI(インテリジェンス)を加えた「GRIC」について述べていきたいと思います。ちなみに、GRICは私の造語です。 企業経営のリスクマネジメント実現は、リスクマネジメントプロセスだけでは不十分です。その理由は、リスクマネジメントプロセスには、リスク認知の基準

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        記事

          ハラスメントリスクの根本原因と対応

          ここ最近、本業が期末で忙しかったため、更新が遅くなってしまいました。毎年同じようなサイクルですが、うまくマネジメントしようとしても、外部環境が急変して、そうはいかなくなることの方が多くなっています。リスクマコンサルタントとして、まだまだ修行が必要です。 ハラスメントの原因さて、リスクマネジメントの一つの分野として、人事リスクがあります。中でも企業にとって悩みの種となっているのが、ハラスメント対策でしょう。以前所属していた自衛隊でも、最近になって多くのハラスメント事例が報道さ

          ハラスメントリスクの根本原因と対応

          有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の分析と処理の原則(2) 先行性

          前回取り上げた、情報の分析と処理の原則のうち、先行性について考えましょう。 先行性とは「インテリジェンスの活動が、状況判断や意思決定に先立って実行されること」説明しました。行動すると意思決定する際は、事前に情報を集めて分析・処理し、行動すると決めることが適切かどうか判断するのが常です。その反対側にあるのが、犯罪報道などでよく使われる「カッとなって」でしょう。とはいえ、カッとなるにはそれまでの状況の積み上げがあったはずなので、広い意味では本人の中で情報の収集、分析、処理が行わ

          有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の分析と処理の原則(2) 先行性

          ベイズと童話

          リスクマネジメント研究の一環でベイズ統計を学んでいると、特に日本の入門書(大学テキストではないもの)で引用されるのが、童話「オオカミ少年」です。 退屈を紛らわせるために羊飼いの少年が、羊を襲うオオカミがいないにも関わらず「オオカミが来たぞ!」と嘘を叫びます。村人は、最初のうちは少年の叫びを正しいと思いオオカミ退治にやってきますが、少年が嘘を重ねるにつれ、少年の叫びを信じなくなり、最後には本当にオオカミがやってきて、村の羊が全部やられてしまうというものです。話によっては、羊飼い

          ベイズと童話

          リスクマネジメントの多層性と多様性

          3月のオンラインセミナーに向け、現在鋭意準備中です。ということで、大学院研修の頃に筑波大学で講師をされていた吉川肇子先生のこの本を読み返し、さまざまな学びを得ました 吉川先生は心理学がご専門で、本書も内容の多くがリスクコミュニケーションやリスク認知に関するものでした。結論から言うと、リスクマネジメントやリスクコミュニケーションにはなんでも当てはまる(one-size-fits-all)な手法はないこと、社会的リスクと個人的リスクは対応アプローチが異なること、そしてリスク対応

          リスクマネジメントの多層性と多様性

          有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の分析と処理の原則(1)

          これまで3回にわたり、ビジネスリスクインテリジェンスにおける情報収集について書いてきましたが、ここからは分析と処理の原則的なことについて考えていきます。 なお、情報分析のスキル的なものについて知りたい方は、この道の先輩の以下の書籍がおすすめです。このnoteでは、インテリジェンススキルに関する言及は必要なものに限ることとし、主にビジネス上の状況判断や意思決定のためのインテリジェンスの考え方を取り上げることとします。 さて、物事には原則があるとすると、インテリジェンスの原則と

          有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の分析と処理の原則(1)

          現状認識の難しさ JAXA記者会見を例に

          ここ1週間、H3ロケットの打ち上げ中止会見の記者の発言が大きな議論となっています。打ち上げ中止は「失敗」と言わないJAXA側に対し、質問した記者が「それを一般に失敗と言います。ありがとうございました」と発言したことに、ネットを中心に多くの非難が起こりました。 この事態をどのように認識するのが良いかを、リスクマネジメントの視点で考察してみます。ISO31000では、リスクアセスメントプロセスをリスク特定、リスク評価、リスク対応の3段階に分けています。ロケット打ち上げのような巨

          現状認識の難しさ JAXA記者会見を例に

          有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の収集と理解(3) 情報収集における「理性」と「感情」

          noteを中小企業診断士キャリア上の情報発信手段の一つとするために、実名公開することにしました。発信情報のクレディビリティを担保することを自らの戒めとするためのものです。誤りについてはご指摘いただけますと幸いです。 いつものサボり癖で、次を予告してから一年近くになってしまいました。今回は、ビジネスインテリジェンスにおける「知性」と「感情」について書きたいと思います。 確証バイアスという言葉をお聞きになったことはありますでしょうか。確証バイパスとは、仮説や信念を支える情報ば

          有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の収集と理解(3) 情報収集における「理性」と「感情」

          なぜリスクを取れないのか

          この連載は、リスクマネジメントを中心テーマとしています。リスクマネジメントとは、その名のとおりリスクを管理することであり、言い換えればリスクにどのように対応するかということです。詳しくは別稿で解説しますが、リスク対応はリスクを取り除く「リスク除去」、リスクの影響を小さくする「リスク低減」、リスクを避ける「リスク回避」、リスクを自分以外の別の主体に付け替える「リスク転嫁(またはリスク移転)」、そしてリスクを受け入れる「リスク受容」に分類されます。 これらの対応を実行した後に、

          なぜリスクを取れないのか

          リスクマネジメントに何が必要か

          リスクマネジメントとは何か特別のことのように思われる方が多いと思いますが、決して特別なことではありません。例えば、朝起きて朝食に何を食べるか、何時の電車に乗るか、今日は残業しようかと言うふうに、私たちは常に何かを決断しています。今日は朝食にパンを食べたいと思ったけどご飯しかなかった場合、いつも乗る電車が15分も遅れてやってきた場合、そのような想定外の事態に遭遇した際、その影響をできるだけ小さくしようと考えて行動するでしょう。パンがなければ会社の近くの喫茶店でモーニングを食べよ

          リスクマネジメントに何が必要か

          リスクマネジメントとしてのセレモニー

          安倍元首相の国葬儀(国葬)が終了しました。賛成と反対の議論が挙行直前まで繰り広げられましたが、式自体は整然と執行された印象です。勤務先が武道館からほど近いため、警備が物々しい印象でした。 セレモニーは誰のためのものか?人生にはさまざまなセレモニーの場面が存在します。一例ですが、誕生後はお宮参り、端午の節句や桃の節句、七五三、成人式や結婚式、そして最後を締めくくるのがお葬式でしょう。そのほか、卒業式や記念式典など含めると、セレモニーと呼ばれるものに酸化する機会は数え切れません

          リスクマネジメントとしてのセレモニー

          有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の分析 分析の「軸」

          ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、有事のビジネスインテリジェンスについて書き始めてから4本目になります。前回までは情報の収集と理解について書きましたが、今回からは情報の分析のフェーズに入ります。 分析フェーズの1回目は、分析の「軸」をどう設定するかです。 前職の航空自衛隊では、災害派遣、海外派遣、航空事故などのミッションにおいて、質量ともに限られた情報の中、確実で安全な任務遂行を第一に、情報の収集分析に従事しました。 2003年12月に開始されたイラク派遣空輸や、2016

          有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の分析 分析の「軸」

          有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の収集と理解(2) 情報を理性と感情のどちらで捉えるか

          前回は、有事で自分が下す意思決定や状況判断を起点として情報を収集・理解することの意義について述べました。今回は「理性」と「感情」の視点で観察してみましょう。 観察の前に、そもそも情報とは何なのかという考察を避けるわけにはいきません。日本語の「情報」が意味する範囲が広く、英語であればData、Information、Intelligence、Signなど、目的と具体性に応じた多様な単語が存在します。ただ、それらの単語全てに共通する特徴は、人の理性、感情に作用する無形物であるこ

          有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の収集と理解(2) 情報を理性と感情のどちらで捉えるか