あるプレイヤーの『咲うアルスノトリア』の雑感【世界を救うのは周回のあと】
ニトロプラス原作、グッドスマイルカンパニー配信、NextNinja開発のスマートフォンゲーム『咲うアルスノトリア』の配信開始から約一か月が経過した。
ヲタク業界の二大ビッグネーム、ニトロプラスとグッスマが組んでのビッグバジェットIPの本作ではあるが、界隈における注目度は高いとはいえず、各種SNSの我がタイムラインでは「アルスノトリア」の「ア」の字も見かけない、というのが現状だ。
無論、Cygamesが長きにわたる沈黙を破って送り出した『ウマ娘 プリティダービー』や、アルスノの一か月前にサービスを開始した『アズールレーン』のYostar発の新作スマホゲー『ブルーアーカイブ』のサービス開始と被ったという理由はかなり大きいだろう。
だが、実際にプレイしてみると、「『ウマ娘』『ブルアカ』とリリース時期が被った」という一文に収まらない「『アルスノ』が流行らない理由」というのが見えてきた。
というわけで、自分でもこのゲームを復習する意味も込めて、個人的な『アルスノ』評を述べていきたいと思う。これからプレイしようと考えているプレイヤーの参考になれば幸いだ。
あくまで「個人的」なのであんま鵜吞みにはしないでね。
内容の説明に際して、他のスマホゲームとの比較が多くなることに注意。
あと、「ゲームエンジンを流用している」とNextNinja側が明言しているスマホゲー『グランドサマナーズ』は未プレイなので、それとの比較は少なめです。
◆世界観の作りこみは流石のニトロ
数々の名作PCゲーム・アニメなどに携わってきたニトロプラスだけあって、世界観の作り込みは秀逸で「ゲーム部分のおまけ」にとどまらない魅力がある。
ストーリーごとに明かされる「大『瑛』帝国が世界の覇権を握った並行世界」「本作の最重要キーワードである『魔法』の正体」などの要素はストーリーへの興味を掻き立ててくれるし、シジル(詳細は後述)、料理などの各種アイテムに設定された細かなフレーバーテキストは、「ずっと真夜中でいいのに。」のMVなどで有名なWaboku氏のビジュアルもあって、しっかりとこのゲームにしかない「ムード」を形作っている。
普段、この手のスマホゲーでは「世界観の埒外の存在」とされがちな「ガチャ」も、「ストーリーにおいてキャラクターに出会ったり、『守人』(大ボス)を倒すことで『大目録』に記された未来を更新して『未来において出会う可能性』を生み出し、ストーリーで出会ったキャラクターをプレイヤー(ウィズさま)のもとに呼び出す」というひとつの「迎典」という設定に昇華しているあたり、世界観に対するこだわりは強い。
◆ストーリーは今後次第
ストーリーはまだ初期も初期で、ポピュラーなところで例えるなら「『FGO』で第1~第2特異点(オルレアン~セプテム)を救った」ぐらいの進行度。ゆえに、ストーリーに関しての評価ははっきりとは下せない。
ただ、テキストに関してはしっかりと世界観を作ろうとしていることは伝わってくるものの、シナリオ面では、重厚なテキストが敬遠されがちなスマホゲー界では異例の、文庫本数十冊分のボリュームを持つ『FGO』や、巧みな演出で「スマートフォンの向こうに存在する『並行世界の2016年』」とそこに存在するヒロインの魅力を丹念に描いた『拡張少女系トライナリー』ほどテキストに関しては振り切れておらず、
世界観を重視しつつもスマホゲーの「テキストは極力短く」という呪縛から抜け出し切れていない感がある。
このため、序盤における世界観の説明部分などを筆頭に、「詰め込んでいる」「性急」と感じる部分もあり、「界層」「守人」「天人の大目録」など、説明不足のままに終わってしまうキーワードもいくつかある。
繰り返しになるが、現段階では良くも悪くも「今後次第」である。
◆バトルシステム
筆者が今までプレイしてきたスマホゲームの中では『デスティニーチャイルド』に近い半自動タイプのゲームシステムは、流用元の『グランドサマナーズ』が数年の運営期間を積み重ねて完成されているだけにツッコミどころは少ない。
ギフト(他ゲーでいう「クラス」「ロール」)間のバランスにおいて、補助系のギフト「アクセラー」が若干強めなのが気になるものの、逆に言えば気になるのはその程度。
敵の必殺技を回復や防御で凌いだり、必殺技を撃たれる前に敵に状態異常をかけて必殺技を不発させるなどの駆け引きは面白いし、下位のシジルにもしっかり使いどころを用意するなど、シジル間のバランスが考えられているのも好印象だ。
ボス敵に設定されている第2のHP「BREAKゲージ」を削りきると、ボスが一定時間無防備になり殴り放題できる、というシステムも古典的ながら爽快感がある。
◆演出は微妙
さて、ここからは気になるポイントだ。
演出面は、「半自動的なゲームシステム上、派手な演出がしにくい」ということを差し引いても地味。
戦闘画面を見るとチビキャラは結構細かく動いているのだが、攻撃のエフェクトとダメージ表示が乱れ舞うゲーム中にそれを確認することは難しく、そもそも戦闘画面は縦持ちスマホの上半分よりちょっと大きい程度のサイズしかないため、どうしても演出はこじんまりしてしまう。
『スパロボX-Ω』や『デスティニーチャイルド』などの同じ半自動タイプのゲームのように「戦闘をいったん中断して、全画面を使った派手な演出を差し込む」という手法はいくらでも取れたと思うのだが、『グラサマ』『東方ロストワード』のころからそうした派手な演出手法を取らないところを見るに、NextNinjaは演出面への興味が淡白か、あるいは演出面のノウハウが不足しているのかもしれない。
Live2Dを使った演出もホーム画面やペンタグラム画面の地味な動きにとどまっており、年々アニメの派手さ・エロさ・美しさに磨きをかける『アズールレーン』や、アズレンで得たL2Dのノウハウがいかんなく発揮されている『ブルアカ』とは比べるべくもない。
もちろん、これら演出面の問題はゲーム性には一切かかわらないことではあるのだが、ゲームも人間もファーストインプレッションが大事なわけで、訴求力の面では『ウマ娘』や『ブルアカ』に対して大きなディスアドバンテージを負っていると言わざるを得ないだろう。
◆育成が地獄
本題はここからである。このゲーム、育成が地獄だ。
まずこのゲームには、戦闘を行うキャラクター「ペンタグラム」と、ペンタグラムが装備する、RPGでいう武器・防具のポジションを担当するアイテム「シジル」が存在し、両方に育成要素がある。
ペンタグラムには
・ペンタグラムの「レベル」
・シジルの装備枠増加、Luck値(高いほど、戦闘後のドロップアイテムが増える)に影響する「限界突破」
・自分以外の味方を支援するスキル「連携」
・他ゲーで言う「パッシブスキル」「アビリティ」にあたる「特性」
・レベルキャップを緩和し、同時にスキル・秘術の性能を上げる「進化」
シジルには
・レベルに当たる「感性」
・シジルの効果「シジルスキル」
・シジルのCT「シジル速度」
これら計8つの育成要素があり、戦闘で得る経験値によって育つシジルの感性を除くと、それぞれ強化・開放するために別個のアイテムを使用する。
これだけでもちょっと目眩がするが、本題はこの後。
この中で、個人的に地獄ポイントが高いのが
・シジルの装備枠増加、Luck値に影響する「限界突破」
・レベルキャップを緩和し、同時にスキル・秘術(超必殺技)の性能を上げる「進化」
の2つで、地獄というより「面倒」なのが
・ペンタグラムの「レベル」
・シジルの効果「シジルスキル」
の2つだ。
ここからは、できるだけ簡易に、これらがなぜ地獄・面倒なのかを説明していく。
1.シジルの装備枠増加、Luck値に影響する「限界突破」
これは他ゲーにもままある「同名ユニット/キャラクターを合成してキャラを強くする」要素だ。
ただ、このゲームは後述する理由でガチャがハチャメチャに渋いため、相当に課金しない限り同名ペンタグラムで限界突破するのは現実的ではない。
そこで、このゲームの独自要素である「メインストーリーの各種ステージでドロップする『(ペンタグラム名)の欠片』を集めて『(ペンタグラム名)の魂』に変換し、『魂』を消費して限界突破を行う」というシステムが出てくる。
これだけ聞くと「ガチャを引かなくても限界突破ができるだなんて良いシステムじゃないか?」と思うかもしれない。だが、そうは問屋が卸さない。
まず、一つの「魂」を変換するのに必要な欠片が50個。ステージクリア一回ごとに手に入る欠片は0~3個。ここまではいい。
問題は「魂」の必要数で、このゲーム、限界突破は最大5段階なのだが、限界突破段階が上がるごとに「魂」の必要数が一個増えていく。
つまり、5段階限界突破を目指す場合、ガチャによるダブり突破がない場合は15個の魂、750個の欠片が必要になる。
…だが、これは無心で何かのついでに周回していれば長い時間とスタミナはかかるがいずれは達成できるし、「魂」の代替となる汎用アイテム「開花石」も存在するため(ただし開花石による限界突破には「ペンタグラムのLuck値が向上しない」というデメリットがある)、後述する「進化」よりはまだいい。
2.レベルキャップを緩和し、同時にスキル・秘術の性能を上げる「進化」
ペンタグラムには2段階の進化があり、星3ペンタグラムは2段階、星4ペンタグラムは1段階の限界突破を経て、最終的に星5・最大レベル100までキャップを緩和できる。
星3→星4の進化は容易なのだが、星4→星5までの道のりは遠く険しい。
進化には専用の「進化素材」を用い、進化素材はいわゆる曜日クエストで入手できる。
だが、進化素材の5段階のレアリティのうち、上位レアリティの「進化の秘石」「ギフト別専用秘石」は、曜日クエストでは手に入らない。
ではどこで手に入るかというと、上級者向けコンテンツである「大型ボス」クエストをクリア…もっと言えば周回する必要がある。
この大型ボスは難易度にもよるがかなり難しく、ハンパな育成では太刀打ちできないし、シジルや秘術の使用タイミングも考える必要がある。
つまり、現在のアルスノは「強敵を倒すために『進化』させたいが、それをするには強敵を倒さないといけない」という矛盾を抱えてしまっているのだ。
その上、現状のアルスノはガチャの渋さ故に大型ボス用にパーティを最適化することが難しく、上位の大型ボス攻略に必須と言われるギフト「ウォールダー」「アクセラー」のペンタグラムが手持ちにいない場合などは、フレンドがよっぽど充実していない限りはかなりの苦戦を強いられる。
更に厄介なことに「ギフト別専用秘石」は文字通り6種のギフト別に種類が分かれており、5属性の違いまである。購買塔(所謂ショップ)のラインナップに並ぶことを祈ろうにも、この仕様が邪魔をする。
(購買塔では進化させるのに必要な数ピッタリの専用秘石を売ってくれる、という最後の良心的な仕様はある)
今後のアルスノに最も望んでいるのは「進化の難易度緩和」だ。
3.ペンタグラムの「レベル」
アルスノはステージクリアでペンタグラムに経験値が入る代わりに、所謂「経験値アイテム(林檎)」系の曜日クエストに入場制限がある。
この入場制限が「専用のアイテム『鍵』を消費する」というもので、この鍵がとにかく手に入らない。
なので一気にレベルを上げるのが難しく、強敵で詰まるとゲーム進行が長く停滞しがちだ。
一応鍵をたくさん入手する方法はあるのだが、有り体に言えばそれは課金。
正直、このやり方は悪辣だと思う。
4.シジルの効果「シジルスキル」
シジルスキル強化には例によって専用のアイテム「魔液」「秘液」が必要になり、「魔液」「秘液」には5属性の違い+レアリティの高低が存在する。
さらに、シジルには属性と「タイプ(物理攻撃、回復などシジルごとの役割)」の他に「種類」という隠れたカテゴライズ(シジルのイラストのモチーフで区別されており、現状シジルの多くはペンタグラムが描かれた「ペンタグラムシジル」だが、このゲームのボス敵である「騎士」「守人」の描かれたシジルは別カテゴリーになっている)があり、このカテゴライズごとに違う「魔液」「秘液」を使わないと強化できない。
更に、シジルスキル強化の終盤になると「絆」という特殊なアイテムが要求される。この「絆」はシジルのイラストに描かれているペンタグラムごとに用意されており、例えば、ペンタグラム「パウリナ」の描かれたシジル「陽だまりの書架」を強化する場合には「パウリナの絆」が必要。
要するに、「絆」はペンタグラムが実装されている数だけ存在し、それは購買塔で各種リソースを払って購入するか、地道にドロップするステージを探して掘るしかない。
◆ここ数年で最悪の闇鍋ガチャ「迎典」
現状のアルスノ最大の問題の一つが、スマホゲーの根幹とも言えるガチャ「迎典」だ(以降「ガチャ」で統一)。
このゲームも昨今のスマホゲーの例に漏れずペンタグラムとシジルが同一のガチャから出る「闇鍋」系ガチャなのだが、オブラートに包まず言えばここ数年の闇鍋ガチャの中でも最悪と言ってもいい内容だ。
なぜなら、ペンタグラムの出現率が異様に低いからである。数値にして3%。
…「SSRキャラの出現率を合計して3%」ではない。ガチャから出現する全てのペンタグラムを合計して3%だ。
『FGO』のような「サーヴァントは最低一枠確定」なんて有情な仕様もなく、課金して購入したガチャ石でガチャを回すと「星5シジルorペンタグラムが確定」という恩恵があるものの、星5シジルorペンタグラムの確定枠は星5シジルの出現率が70%。ペンタグラムを引かせる気がまるでない。
お情けのように「一日一回単発ガチャが無料」というシステムがあるものの、この確率では何の救いにもならない。
そしてガチャが渋いおかげで、アルスノではパーティの編成難易度が異様に高い。
なんせ、このゲームのペンタグラムは星3か星4しか存在しないため、他ゲーでは常套手段というべき「本命のキャラが引けるまでのつなぎに低レアキャラを使う」「特定のクラス・属性の敵に対応するために、数合わせの低レアキャラをパーティに入れる」という手法が取れないのである。
しかも、21年4月時点での実装ペンタグラム22人中、攻撃が得意なギフト「ストライカー」が8人を占めており、ゲームが進むごとに重要度が増していく防御系のギフト「ウォールダー」や、補助・回復系のギフト「アクセラー」「ヒーラー」はそもそも引くのが難しい。
3名がガチャを選ばず出るヒーラーはまだいいものの、常設の「ストーリー迎典」以外だとそれぞれ一人しか排出対象になっていないアクセラー・ウォールダーの入手は困難。
ボスのBREAKゲージを破壊しやすいギフト「ブレイカー」に至っては初期のストーリー迎典・各種ピックアップ迎典からは出現せず、ストーリーを進めてブレイカーのペンタグラム「メラル」出現のフラグを立てる必要がある。
何を思って令和の現代にこんな拝金主義なガチャを実装してリリースしたのか、理解に苦しむ。
◆総評
ここまで色々言ったけども、拝金主義がモロ見えな闇鍋ガチャを除けば致命的にヤバいポイントはなく、スマホゲームとしては遊べる。
「周回する時間さえ確保すれば、強力なシジル・ペンタグラムがドロップ品で手に入る」という点は嬉しいし、育成がある程度進んでさえいれば脳死で周回できるので「なにかのついで」に遊ぶ、所謂「サブゲーム」としての適性は高い。
それを見越したであろう、「3分に1回」と速いスタミナ回復のペースや、「係活動」と呼ばれる放置・自動系コンテンツをしっかりこなせばスタミナを回復する「ポーション」が一日に複数個手に入るといった、周回をストレスフリー化しようとする試みも好印象だ。
ただ、この出来で『ウマ娘』『ブルアカ』といった同期のビッグなスマホゲームと戦えるかといえば間違いなくNOだ。
先に言ったとおりグラフィック・演出面では大きく水を開けられているし、シナリオという点でも未だ「旅の途中」であるアルスノは、実際の競走馬の歴史と絡めて重厚なドラマを作り上げつつ、キャラクター性の深堀りをしている『ウマ娘』などと比較して訴求力が弱い。
身も蓋もない言い方をすると、今のアルスノは地味なゲームだ。
決してつまらなくはないが、胸を張って「面白い!」「おすすめ!」とは言えない。
誰かに「『アルスノ』ってどんなところが面白いの?」と聞かれて、即答できる自信がない。
数々の人気スマホゲーの影に隠れ、爪痕を残せずサービス終了してしまうだろう…そんなヴィジョンがありありと想像できてしまう。
だが、なんだかんだ言ったが、アルスノはまだリリースから一ヶ月程度のよちよち歩きのタイトルだ。
ここからの改善はいくらでも望めるだろうし、まだまだ「生まれては死んでいく凡作スマホゲーの一つ」にカテゴライズしてしまうのは早計だろう。
開発側の掲げる「かわいいVSカッコイイ」「魔法(かわいい)は、負けない」といったキーワードにキュンと来た自分としては、ここからの改善を大いに期待したい。
…というわけでまず、あの拝金主義を煮詰めたようなガチャやめにしません?
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