『ガンダムX』と『ちょびっツ』を悪魔合体。アニメ『SYNDUALITY Noir』感想
TVアニメ『SYNDUALITY Noir』を、先日全話見終えた。
現在開発中のゲーム『SYNDUALITY Echo of Ada』との2本柱を軸にしたメディアミックスを行い、プラモデル・アクションフィギュアを発売するなど、素人目にも予算がかかっていることがわかるが、その割にサブスク配信はディズニープラスのみというちぐはぐさが目立ち、いまいち注目を得られていない本作。
賛否両論を観測する以前にSNS上でも見られるのは関係者の発言や、本編を見ずにホビーの爆死だけを見た冷笑オタクの嘲りが多く、後者の冷笑オタクからは、数年前に爆死したロボットアニメ『境界戦機』『サクガン』と並べて「令和の爆死ロボットアニメ三銃士」などと呼ばれる有り様で、制作サイドの力の入れようと、世間の扱いの落差を見ているとかわいそうに思えてくる。
そんな『SYNDUALITY Noir』(以下、シンデュアリティと表記)だが、個人的には「名作」と言うには足りない部分も多かったものの、「これが爆死して、誰にも語られずに終わるのは惜しい」と思うぐらいには楽しめた。
このnoteでは、個人的なシンデュアリティの感想と評価を述べていく。本作が気になっている人の参考になれば幸いだ。
◆ロボットアニメと言うより平成ラノベアニメの系譜
本作の舞台は、「新月の涙」と呼ばれる大災害により文明が衰退した地球。
人類は「新月の涙」以降に出現した正体不明の怪物「エンダーズ」に脅かされながらも、かつて栄えた文明の遺物を回収・再現し、新たに社会を再建しつつあった。
人類の復興を助けたのは、人間を補助する人型ロボット「メイガス」と、メイガスとパイロットの2人3脚で操縦する戦闘ロボット「クレイドルコフィン」。主人公のカナタはクレイドルコフィンに乗り人々を守る「ドリフター」に憧れ、ドリフターの師匠であるトキオの活動を手伝っていた。
そんな中、カナタは主人を持たないメイガス・ノワールと出会う。ノワールと出会い、彼女のマスターとなったことでドリフターの資格を得たカナタは、胸に抱いていた「伝説に残る古代都市、イストワールを探す」という夢に向かって歩み始める…
というのが本作のあらすじだ。
これを読んだ人は「ああ、『ゾイド』とか『ガンダムX』とかのフォロワーね」と思うかもしれないし、それも間違いではないのだが、どちらかと言うと本作はそれら例に挙げたSFロボットアニメと言うよりは、平成のライトノベルの文脈で作られている。
恋に鈍感で真っ直ぐな主人公と主人公の熱さに感化されていく登場人物、ぽこじゃか出てくる多種多様なヒロイン、物騒な世界観の割に人死に少なめのソフトな作風…といった特徴は、まさしく『鋼殻のレギオス』『ストライク・ザ・ブラッド』のような、大ヒットした平成のボーイ・ミーツ・ガール系ラノベのそれだ。
なので上記したようなロボットアニメの先達よりも「ヒロインを魅力的に見せる」ことに重点が置かれており、ロボットの活躍は若干少なめ(特に1期)。「かっこいいロボットの活躍が見たい!」という気分で視聴を始めると、肩透かしを食らうかもしれない。
◆登場人物の魅力はピカイチ
ロボットアニメの主役であるロボット(クレイドルコフィン)の出番を犠牲にして見せるだけあって、登場人物はいずれも魅力的に描かれており、視聴を続けるうえでのモチベーションになった。
画面を彩るヒロインは粒ぞろいで、特にダブルヒロインのノワール&エリーは時にキュートに、時にかっこよく描かれ、物語を牽引し、視聴者を引き込むだけのパワーを持っている。
ノワールはいわゆる無口系ヒロイン。「綾波系」と言うよりは「ちぃ」やオグリキャップの系譜で、メイガス(ロボット)でありながら戦闘のサポート以外は不器用で、情緒も未発達の謎のメイガス。
自分を拾ってくれたカナタのことを信じ彼の役に立とうとする姿勢と、ロボットという設定を併せ持つ彼女は、令和に蘇った「ちぃ」そのものだ。
かつてちぃに萌え萌えしていたインターネット老人には理解してもらえると思うが、この手のヒロインは今も昔も変わらず強い。カナタのためになろうとして空回りし、未発達な情緒故に周囲のジョークをまっすぐに受け止め、そしてカナタだけでなく周囲の人々から愛され、成長していく健気な様子は、ベタだがかわいい。
2期に入ると彼女も情緒が発達していくのだが、あの無感情だった彼女が最終的には自発的に動いて人々を笑顔にし、理不尽に怒り立ち向かう姿を見ていると「あんなにガキだったあの子が!大人になって~!!」と自然と後方腕組保護者面オタクになってしまう。
エリーはカナタの幼馴染で、カナタのことを意識しているが、彼を目の前にすると素直になれない…という教科書的負けヒロイン。
カナタの一挙一動に心乱されるコテコテの少女漫画的ムーブにはこちらもベタな可愛さがあるし、ノワールを筆頭にする恋敵を変に敵視せずにむしろ友誼を結び、時に背中を押してしまう心根の真っ直ぐさや、戦いではドリフターの使命を守り無辜の市民のために最前線で戦う強さには、ノワールにはない涼やかさがあった。
カナタはノワール一筋ゆえに、残酷なことを言えば彼女の恋は始まってすらいないのだが「エリーがカナタに告白できた世界線が見たい」と思ってしまうぐらいには、彼女の恋路を応援している自分がいた。
冗談抜きで、シンデュアリティの功績の半分はこの二人のヒロインを生み出したことにある、と言っても過言ではない。
他にも、失われた宇宙進出の技術を追い求める技術屋のマリア、乙女すぎるエリーの一挙一動を楽しみ、戦いでは彼女を真剣にサポートするエリーの相棒メイガス・アンジェ、謎多き仮面の男に付き従うメイガス・シュネー、快活さの裏に影を秘めた歌姫・シエルと様々なヒロインが本作には存在するが、どのヒロインにもちゃんと見せ場が用意されており、多いヒロインを持て余していない。
二期から登場する辛辣系ツンデレヒロイン・ミステルも、一歩間違えば視聴者のストレスメーカーになりそうなところを、しっかりと「辛辣さ」と「可愛さ」のバランスが取られており、辛辣である理由も理解できるものとなっていて、最終的にはカナタと同じように彼女のことを好きになってしまう。
ヒロインだけでなく、カナタを導くと同時に彼から影響され前に進むトキオとカナタの師弟コンビなど、男性陣も「ヒロインの添え物」にとどまらない存在感をちゃんと放っており、見ていて楽しめた。
◆虚無虚無だったファーストシーズン
「登場人物が魅力的なのはわかったよ!そんな登場人物が織りなすドラマはどうなんだい?」とそろそろ画面の前の皆様は思っているかもしれない。
「魅力的な登場人物」という言葉に嘘はない。だが、ストーリーに関しては手放しで「面白かった!」と褒めることはできない。
その主な原因は、あまりにも内容のない第1期だ。
本作は分割2クール・全24話の形式を取っているのだが、前半にあたる1期がひたすらに虚無いのだ。
まず、シンデュアリティの物語には以下のような「物語の主軸」が存在する。
…が、1期は話がひたすら横道にそれまくり、これらシナリオの根幹にメスがほとんど入っていかない。
例えば1話~2話ではカナタとノワールの出会い~正式な契約が描かれるのだが、その次に「アニメ視聴続行の分水嶺」と言われる第3話で何が起こるかと言えば、「『カナタがドリフターになった記念』という名目でトキオに無理やり風俗街に連れてこられ、ドッタンバッタン大騒ぎ」というギャグ回が始まる。
一応、後にカナタと敵対する重要人物「黒仮面」と顔を合わせる回でもあるのだが、黒仮面もギャグをやるばかりで全く威厳が感じられない。
その後も上記の伏線をほっぽって美少女アニメあるあるの水着回をしたり(エリーとノワールが可愛く、楽しくはあったが)と、1期はとにかく話を進める気がない。
拍子抜けしたのは9話で、9話でカナタたちは旧時代の生き証人である伝説のドリフター・アルバと出会い、「旧時代を知る人物ならノワールの謎も解けるかもしれない」と考えてノワールをスキャンしてもらう。
これでようやく話が進む…と思いきや、結局スキャンをかけても「このメイガスにはブラックボックスがある」という僅かな手がかりが得られただけ、という期待外れの結果に終わる。「この回って何のためにあったの?」と思わず唖然としてしまった。
最終盤を除くと1期は概ねこんなノリで進む。
なので、最初こそヒロインの可愛さを楽しめても、徐々に「ヒロインが可愛いのはとてもわかりました。でも、そろそろ本筋を進めてもいいんじゃないかな?」という苛立ちがつのっていく。
一応、終盤には超巨大なエンダーズ「シルヴァーストーム」がカナタたちの住む街に襲いかかる、という盛り上がりがあるのだが、このシルヴァーストームは登場人物の誰とも結びついておらず、地震や嵐のような自然現象・天災に近い存在であるため、唐突さがあっていまいち盛り上がらない。
様々な人物との出会いを経て成長したカナタが奮戦し、死の淵から這い上がってきたトキオと共にシルヴァーストームを討つクライマックスはかっこいいものの、これまでの虚無い内容を補填するだけの感動があったとは言い難い。
こんな感じだったので、正直1期を終えた段階で自分の中では「これは爆死の匂いがする…」というあきらめムードが強かった。
◆セカンドシーズンで動き出す物語
視聴者に「待て」を言い続けた1期から一転、2期はシナリオ進行にアクセルがかかり、今まで伏せられ続けた伏線が一気に開示・解決され、物語もシリアスになって格段に面白くなる。
1期では控えめだったロボットバトルも格段に増え、ビジュアル的な魅力も増す。地面を走って戦っていたコフィンが最終的に空を飛んで戦い始めてしまったのは残念だったが、それを差し引いてもロボットアクションは見ごたえがあった。
意外なことに、ここに来て虚無い1期の「ヒロインかわいい」の積み重ねがボディブローのようにじわじわ効いてくる。
2期のノワールは、自身の肉体の本来の持ち主である人格・ミステルが登場したことで自身の存在意義に悩み始める。ミステルはノワールと違って前述のように主体性の強い性格で、生活でも戦闘でもカナタを力強く引っ張っていくし、さらにミステルはノワールが使えないメイガススキル(メイガスが使える魔法のような技)を使える。能力においてノワールの上位互換であるミステルが登場したことで、ノワールは「自分よりミステルのほうがカナタを助けている。自分はいらないのではないか?」と思い悩む。
そしてノワールはカナタのことをミステルに託し、彼女に肉体を返すことを決めるのだが、最後に彼女が選んだ行動は「カナタに手作りの食事を作る」という思い出を残すこと。つまるところ「終活」である。
視聴者にノワールの可愛さ、彼女のカナタへの想いをアピールし続けた1期の「なんでもない日々」の積み重ねのおかげで、彼女の終活を描く16話は精神的にクるものに仕上がっている。1期の積み重ねがなければ、16話はここまで心を打つものにはならなかっただろう。
この16話の演出には、「あの虚無い1クールも決して無駄ではなかったのだ」と、少し感心した。「だとしてもあの空虚さはなんとかならなかったのか」とは思うが。
最終決戦において「お前はミステルとイストワールが接触した際に生まれたバグが偶然意思を持ったものに過ぎない。お前は何者でもない!」と糾弾された際、ノワールが生きていく中で得た思い出を回顧し「私にはこの思い出がある。この思い出が今の私を形作っている」と果敢に言い返すクライマックスも、これまたベタだがよかった。
◆無視できないツッコミどころ
ここからは、1期の虚無さ以外の問題点を述べていく。
一つが、この物語の黒幕である悪の組織「イデアール」について。
イデアールは、旧時代において高度な技術を持っていた都市「アメイジア」の技術者の残党で、新月の涙を生き延びたアメイジアの生存者が生み出したデザインベイビーで構成されている。
彼らはデザインベイビーの中でも最優秀で、なおかつ人を惹きつけるカリスマを持っていた青年・ヴァイスハイトを首魁とし、イストワールへの到達とイストワール由来の技術によって人類の最盛期を再び到来させることを目的としている。
そして、ヴァイスハイトはメイガス全盛のこの時代において「メイガスは滅びるべき、人類にとって無用の存在」という信念を持っており、「なぜヴァイスハイトがメイガスを嫌悪するのか」は、2期における最大の謎となっていた。
イストワールをめぐり、カナタたちとイデアールが激突するクライマックス。
マリアがミステルのブラックボックスから得た知識で作り上げたカタパルトとロケットをヴァイスハイトは奪取し、宇宙に存在することが判明したイストワールに、イデアールの配下たちを置いて一人で飛び立ってしまう。
カナタとトキオ、そして相棒のメイガス・シュネーを大事に思うゆえにイデアールを離反した黒仮面は予備のロケットでそれぞれのメイガスとともにイストワールに向かい、ヴァイスハイトと対峙する。
イストワールの機能を使い、全世界のメイガスの機能を停止させたヴァイスハイトと、前述のように、厳密にはメイガスでなかったゆえに停止を免れたノワールとカナタのペアは、舌戦を繰り広げながら激突、最後にはヴァイスハイトを打ち破る。
そこで、カナタたちはヴァイスハイトに「なぜそこまでメイガスを嫌うのか。お前にもシエルという相棒がいたはずだ」と、視聴者も気になっていた最大の謎に対する質問を投げかける。
視聴者が期待する中、満身創痍のヴァイスハイトはイストワールを見つけて「メイガスのいない世界」を作り上げようとした動機を語る。
「気持ち悪いじゃないか。ただの機械のくせに人間の真似をして人間に寄り添うだなんて…」
………。
いや、そういう人間はきっとこの世界にはいただろうと思うよ。それに「壮大な野望を掲げていた悪役の根底にあったのは原始的な感情だった」ってオチもあるあるだよ。でも正直拍子抜けしてしまった。
「ヴァイスハイトは旧時代の人類の末裔で…」とか考えていた大多数の視聴者の予想を裏切りたかったのかも、とは思うが、「壮大な野望を掲げていた悪役の根底にあったのは原始的な感情だった」というパターンの先達と比べると、その思想に至った背景が薄すぎて、まるで感情移入できない。
これがクライマックスの盛り上がりに水をさしてしまった感は否めない。
というか、そもそもイデアールの掲げる「アメイジアとイストワールの技術を復活させての人類復興」というお題目にも納得できない。
ヴァイスハイトや黒仮面は「人々はエンダーズに怯え、生まれたネストから出られない者もいる。だからイデアールが導かねば」と野望を語っていたが、劇中のイデアール以外の登場人物たちのノリは基本的にお気楽で、彼らが世界の有り様に怯えて/絶望しているようには全く見えない。
1期を見る限り世界は吉原のような風俗街やスパリゾートができるほど復興しているし、道路もそれなりに整備されている。劇中ではある人物が護衛のドリフターを伴わずに2~3日かかる旅程を往復しているシーンすらある。
世界の脅威と言われるエンダーズも物語中でクローズアップされないゆえにいまいち実像が見えてこないし、シルヴァーストームを除くとドリフターにバシバシ蹴散らされているイメージしかなく、そもそも2期に入ると物語に噛んでこなくなるため、『マブラヴオルタネイティヴ』のBETAや『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のモビルアーマーのように「世界を滅ぼしつつある/世界をかつて滅ぼした」という説得力を感じられない。
一応、「外の世界を見ず、アメイジアの中で純粋培養されたイデアールたちには、世界の実情が全く見えていない」という演出であると擁護もできるが、黒仮面たちはイストワールにたどり着くための手がかりを探して世界中を旅している描写があるゆえ、その擁護もちょっと厳しい。
また、劇中で張られた伏線として
「人とメイガスはよく似ていても違う存在。真の意味でわかり合うことはできない」
という発言が様々な人間/メイガスからなされるのだが、これもいまいち機能しているとは言い難い。
「メイガスにも人間のように接するカナタ」を際立たせたくてこうした発言をさせたのだろうが、メイガスの殆どはマスターと友好関係をしっかりと築いており、「『わかり合うことはできない』?どこが?」と首を傾げてしまった。
◆総評
あまりにも物語にアクセルがかかるのが遅いという無視できない難点こそあったし、ヒロインの魅力に救われている部分も多かったものの、2期はそれを差し引いても結構楽しめた。
文中で何度も「ベタ」という表現を使ったことから分かる通り、本作は清々しいほど王道の物語であった。昨今の様々なコンテンツが、工夫をこらして視聴者を「不意打ち」しようとする中で、ここまで王道をやった本作は逆にチャレンジブルであったとさえ言える。
既視感のある設定。読めてしまう展開。だがそれでも見てしまう。王道にして不思議な作品であった。こういう王道をやっている作品が1クールに一つはあると、安心感がある。
楽しめただけに、ディズニープラス一本に限定された配信形態が惜しい。特にノワールとエリーのかわいさが、ディズニープラスという狭い世界にとどまっているのはあまりにも惜しい。このまま世間に「本編は知らないけど、なんか爆死したアニメ」と記憶されてしまいそうなのが悲しい。
個人的には「奇を衒ったアニメを見るのに疲れた」という人におすすめしたい。