こんなクオリティは「冗談じゃない」。アニメ『メタリックルージュ』感想
TVアニメ『メタリックルージュ』を、先日全話見終えた。
僕は、2024冬シーズンのアニメの中でも本作には『勇気爆発バーンブレイバーン』に並んで期待を寄せていた。
単純に制作しているBONESの作品が好きという理由もあるのだが、大きな理由として、ひとつは、以前のnoteにも書いたが僕はいわゆる「マイオナ」の傾向があり、世間が強く注目している作品にはどうしても食指が動かないという悪癖がある。なので、2024冬シーズンでも『魔法少女にあこがれて』『俺だけレベルアップな件』といった世間の期待度が高い作品群よりも、あまり注目されていなかったメタリックルージュに惹かれていた。
もうひとつは、令和の世に直球の『ブレードランナー』オマージュをするその姿勢に興味を惹かれたこと。後述するが、本作はストーリーの面で強くブレードランナーをなぞっている。いまやブレードランナーの影響を受けていないSFのほうが少ないとは思うが、ここまで豪速球のオマージュは近年だと例がなく、チャレンジブルで面白そうに感じたのだ。
そんな強い期待を寄せていたメタリックルージュだが、結論から言えばその期待は裏切られた。本当に、あの名作『ラーゼフォン』『宇宙戦艦ヤマト2199』制作の主要人物であった出渕裕が関与しているのかを疑ってしまうほど、本作に対する落胆は大きかった。
このnoteでは、なぜ僕がメタリックルージュを受け容れることができなかったかを記していきたいと思う。本作が気になっている人の参考になれば幸いだ。
逆に、本作を支持している人は気分を害する可能性が高いので、ブラウザバックを推奨する。
◆美少女ブレードランナー
本作の舞台は2128年。
かつて太陽系には人類に敵対の意思を持たない「来訪者」と、侵略を目的に訪れた「簒奪者」と呼ばれる異なる2つの種族の異星人が訪れ、来訪者の助力を受けた人類と簒奪者との戦争が行われた。
人類は来訪者の技術供与を受け、人造人間「ネアン」を中心とした彼らの技術を使った兵器で簒奪者に対抗。戦いを拮抗状態に持ち込むことに成功する。
簒奪者との戦闘行為が停止して数年。ネアンに関する事件を管轄する政府の組織「真理部」に所属するエージェント、ルジュ・レッドスターとナオミ・オルトマンの二人はある任務についていた。
その命令とは、ネアン開発の最初期に生み出された、現在人類の管理下にない9人の初期型ネアン「インモータル・ナイン」の破壊と、彼らの動力源「イド」の回収。現行のネアンに標準搭載された管理プログラム「アジモフ・コード」を持たない彼らは、人類に反旗を翻す危険性を秘めていた。
兄であり真理部における上司であるジーンの命令通りにインモータル・ナインを破壊していくルジュだが、戦いの中で彼女は敵対するインモータル・ナインや、アジモフ・コードに縛られたネアンの解放を訴える人々に出会い、戦いに疑問を持つようになっていく…
というのが本作のあらすじだ。
あらすじを読めば分かる通り、本作は「人造人間の製造技術が確立した世界で、故障して人類に反旗を翻した人造人間を処分するために専門の捜査官が人造人間を追う」という、直球のブレードランナーオマージュの物語をやりつつ、古くは『ダーティペア』、最近では『リコリス・リコイル』『裏世界ピクニック』など人気作のような女性二人のバディ要素を加えた作品になっている。
◆よかったポイント
本作の素晴らしい点と言えば、アニメーションだろう。
特に戦闘シーンはボンズらしく気合が入っており、第2話でルジュが戦闘形態「グラディエーター」に変身する際の「平成のボンズアニメ」感が強く出たアニメーションから始まるバトルには興奮した。
ルジュが戦闘に入る前の、わずか数秒の地味な戦闘シーンにやたら気合が入っていたりと、力の入れどころに疑問を浮かべる部分もあったものの、最終盤にはいわゆる「板野サーカス」もあり、作画・アニメーションに関しては楽しめた。
それを彩る音楽も素晴らしく、オープニングの「Rouge」とエンディングの「Scarlet」はアニメーションも含めて2024冬シーズンのアニメの中でもお気に入り。
OPのサビ部分の、ルジュとインモータル・ナインたちが戦闘するアニメーションを初めて見たときは期待に胸を膨らませたものである(先述の通り、その期待は裏切られてしまうのだが)。
また残念なことに使用回数は少なかったものの、ルジュが戦う際に流れるアップテンポな戦闘曲「Crimson Lightning~Action」も非常によかった。
また登場人物に関しても、ダブル主人公であるルジュとナオミのバディの、信頼を置きつつも「百合」になりすぎない程よい空気感は良かった(筆者はあんまり濃いめの百合は苦手なタイプである)。戦場とは思えないユルいやりとりは「戦友」感が出てたし、エージェントとして合理的な判断をしつつも、結局はルジュに引っ張られてフォローに回り、いつの間にかルジュに感化されていくナオミのキャラ性は好きだった。
◆主人公チーム以外全員キャラが薄い
だが残念なことに、メタリックルージュは上記以外の要素は殆どが残念なクオリティと言わざるを得ない。
先程、「ルジュとナオミのバディは良かった」と述べたが、裏を返せばそれ以外の登場人物はほとんど印象に残っていないということだ。
ルジュの兄であり、真理部における上司であるジーンや、中盤からルジュたちに協力・同行する捜査官のアッシュ、享楽的な刹那主義者で敵味方問わず状況を引っ掻き回すジャロンなどはいいものの、それ以外の面々はあまりにキャラが薄い。
キャラが薄く感じる理由として真っ先に挙がるのが、登場人物が1クールアニメとしては多いこと。特にルジュたちが主に敵対する、武力でネアンの自由を勝ち取ろうとする過激派組織「アルター」と、そこに属するインモータル・ナインの面々は主要人物にも関わらず、文字通り9人もいるせいで(そのうち2人は本編開始前に死んでいるのだが)ひとりひとりの印象が薄い。
これに拍車をかけるのが劇中に出てくる勢力の多さ。
メタリックルージュの劇中には、以下のような様々な勢力が登場する。
このように登場する勢力が多いせいで各キャラクターの出番が分散されてしまい、ひとりひとりの印象が更に薄まってしまっている。
身も蓋もないことを言えば、上記に加えて登場人物の造形も単純に下手だ。
「二重人格」という設定を持て余して、最後まで「何がしたいのかわからない人」にしか見えなかったアエスとアリス、口を開けば「ネアンの解放!自由!」しか言わないせいで、「アルターの首魁」という重要人物でありながらいまいち人間性の見えてこないジル、ネアンに生まれて苦しんでいたことはわかるがセリフが抽象的でいまいち何を考えていたのか見えてこないアフダル、「ジルの選んだ道が間違いであると知りながらも彼女を支える、詩人にして高潔な武人」というカッコいい設定を持っているのだが、出番が少なく掘り下げがまるで足りないグラウフォン、「幼児の無邪気さと、その裏返しの攻撃性を持ったキュートな危険人物」という使い古されたパターンから抜け出せていなかったシアンなど、登場人物のことごとくが描写のどこかに「惜しさ」を抱えている。
また、主役であるルジュにもちょっと問題がある。
ルジュは当初は兄・ジーンからの「世界の平穏を乱し、僕らの父さんを殺したインモータル・ナインを討伐するんだ」という命令を盲信していたが、ストーリーで述べたように様々なネアンや、謎の第3勢力「移動カーニバル」の主「人形遣い師」と出会ったことで「インモータル・ナインを討つことは本当に正しいのか?」と悩み、最終的には自分の意志で「ネアンと人間の自由を守る。けど、間違ったやり方でネアンを解放しようとするジルは止める」と決断する。
だが、この「ネアンと人間の自由を守る」という決断は兄であるジーンの「ネアンと人間が共存できる世界を作る」という理想のためであり、ジーンの存在ありきのもの。これには「真に『自分の意志で決断した』とは言い難いのでは?」と思ってしまい、燃えさせようとしているのだろうがノれなかった。
中盤でルジュがこの決断をしたときは「これはジーンのために言ってて、最終盤とかで自分ひとりの意思でネアンを守ろうと決断するんだろうな」と思っていたが、結局ルジュはこのまま最終回まで突っ走ってしまい、「今までジーンの命令を盲信してたときより少しマシになっただけでは?」という疑問が最後まで残った。
◆ペース配分が雑
上記の薄味な登場人物と悪い方向にシナジーを起こしているのが、物語のペース配分の雑さだ。
本作は重要そうな部分を早足で進めたり、逆にどうでも良さそうな部分に時間を割いたりと、ペース配分がメチャクチャなのだ。
よく言われるのが、1話の開始時点で「インモータル・ナインをすでに2人倒していて、これから3人目を倒しに行く」という状況なせいで、1話の時点でルジュとナオミの関係がある程度作られてしまっていること。このため物語に入り込みにくくなっている。
これ以降も変なペース配分は続き、1クールというタイトな時間制限があるのに6話では特に今後につながっていかない「旅客船に紛れ込んで快楽殺人を繰り返すジャロンと追いかけっこをする」というギャグ回をしたり(一応アエスとアリスの存在を示唆するという伏線を敷いてはいるが)、「アルターたちが待ち構える金星に行く」というだけで1.5話ほど時間を使ったりと、本作は時間の使い方が下手だ。
このペース配分のアンバランスさと前述のキャラクター関連の描写の薄さが嫌なシナジーを起こした結果、SNS上では「2クールアニメの2クール目だけ見せられているみたい」などと評されていたが、まさにそのとおりだと思う。
◆グダグダな終盤
上記した欠点のしわ寄せを一手に背負ってしまったのがクライマックスの最終話。
実は、インモータル・ナインとルジュにはネアンにアジモフ・コードを実装したことを悔いていたネアン開発者の一人・エヴァによって、アジモフ・コードを解除するプログラム「コード・イヴ」が10分割されて各人のイドに組み込まれていた。
ジルは元から信用していなかったジャロンと、ジルを止めようとするルジュを下して2人分のイドを回収、コード・イヴを起動しようとするが、ルジュは自身もまたネアンであったナオミのイドを移植することで復活。ジルを阻止しようとする。
そこに現れたのは、裏で簒奪者に与していた人形遣い師。彼の正体は、インモータル・ナインに殺されたはずのネアン開発者の一人にしてジーンとルジュの父、ロイ・ユングハルト博士であった。
ロイは、オリジナルのロイはすでに死亡し、自身はその記憶を移植されたネアンであることを明かし、ネアンに「人類を超える新たな種になる可能性を見た」と語る。
その可能性を追求すべく、ロイはインモータル・ナインに人類に反旗を翻すようあらかじめプログラムして、ネアンと人類の戦争状態を作り出し、その中でネアンが進化する未来を見ようとしていた。同時にロイは、彼が作り出した世界の混乱の中で急速に自我を成長させたルジュを称える。
簒奪者に与するロイを受け入れられないルジュは彼と激突。ナオミのイドと完全に一体化し、2人分の力をぶつけることで最終的にロイを打倒し、コードイヴを起動するが、コードイヴには人形遣い師の側近・オペラによって、ネアンのコントロールを簒奪者に移管するウイルスが組み込まれていた。オペラは簒奪者だったのだ。
だが、それを読んでいたジーンの手によってすでにウイルスは無効化されており、太陽系にコードイヴが行き渡り、ネアンはアジモフ・コードから解放された。
物語はその数カ月後、侵略行為を再開した簒奪者の軍勢を前に、ルジュが立ち向かうところでエンドロールとなる。
上記の通り、最終回はメチャクチャ情報量が多い。上記の最終回のストーリーをさらに要約すると
となる。
これだけの情報が24分に詰め込まれているため、最終回はものすごい早足だ。「最後の最後で黒幕が出てきて、ペラペラ野望を語ってやられる」という、ダメなアニメでよくある最終回である。
自信満々に出てきたオペラの「コードイヴにはウイルスを仕込んでおいた!」宣言から一分も経たずに、ジーンが「大丈夫だ。ウイルスは無効化しておいた」と語るシーンは、あまりに「ソードマスターヤマト」みが強くて笑ってしまった。
そもそも、満を持して登場したロイ・ユングハルト博士がよくわからない。
「ネアンに人類を超える新たな種になる可能性を見た」と言いながらも、ジルやルジュが歯向かってきたときには手加減せず殺意バリバリで返り討ちにしているのがまずわからない。
ジルを返り討ちにしたのはいいとしても、ルジュに対して「この短期間でよく成長したね!(※要約)」と褒めておきながら、彼女が向かってきたらブッ殺すつもりで戦っている。そこは叶わないと知っていても一度は「我が子よ、戻ってこい!」とか説得を試みて、それからバトルする場面ではないだろうか。
そうしてその場のノリでルジュと敵対した彼はルジュによって打倒されるのだが、やられたらやられたで何故かジーンに「いつかお前も私のようになる」とか恨み言を吐いたり、いざ死ぬとなったら「一人は嫌だ…」と怯えてみたりと、キャラ性がブレブレで「作品を締めくくる最大の悪」としての魅力がまったくない。
ロイを倒した後の展開も疑問符だらけだ。
ルジュがコードイヴを起動するのは上述のとおりだが、これを静観しているジーンはネアンと人類の共存を理想に掲げつつも「コードイヴで全世界のネアンを解放すれば社会に混乱が生まれる」という現実的な考えから、首謀者であるインモータル・ナインを破壊しイドを回収しようとしていた。なのに最終回では、ルジュのコードイヴの起動を認めている。
これはジーンの父であったインモータル・ナインの一人・エデンが「ネアン解放こそが母さん(エヴァ)の意志だ」と言ったからではあるのだが、だからといってジーンが懸念した「ネアン解放による社会の混乱」がなくなるわけではないだろう。
しかも、エピローグでは「コードイヴ後のネアンはどうなったのか」という問題は「侵略活動を再開した簒奪者との新たな戦争」という問題にすり替わってしまい一切触れられない。
このように最終回はナオミと融合したルジュのアクションなど見どころもあったものの、あまりにもグダグダで、見終わった後の虚しさは相当なものだった。
◆総評
かつてnoteに書いた通り、自分は感想・レビューにおいて「欠点よりも長所を見つけて褒められる人間でありたい」というスタンスでいるが、本作に関しては「数々の名作を手掛けてきたボンズとは思えない駄作」と言うほかない。
いいところもあったものの、薄味な登場人物、いずれも魅力のない悪役たち、バランスのおかしいシナリオのペース配分と、欠点ばかりが悪目立ちする1クールはまるで「『ブレードランナー』を見て『俺もあんな作品が作りたい!』と思い立ったオタクが頑張って作った『ぼくのかんがえたさいきょうのえすえふ』」を見ているようで(「ディフォルム」だの「神祇官」だのやたら細かく専門用語が出てくる点もそれを助長する)、「本当にあの出渕さんが作ってるの?」という疑念ばかりが浮かぶ。
出渕さんと共同でシリーズ構成を務めている根元歳三氏も『宇宙兄弟』『ログ・ホライズン』『WIXOSSシリーズ』などの名作を手掛けている実績があるだけに、なおさらなんでこんな出来になってしまったのかという疑問は尽きない。
繰り返しになるが、24年冬シーズンの中では最も期待していただけに落胆は大きい。
ほんと、2話までは「これ絶対面白くなるやつじゃん!!」という予感しかなかったのになぁ…。
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