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「十一人の賊軍」封建社会の理不尽をブチ壊すカタルシスの一方、権威に仕える側の葛藤も…
どうも、安部スナヲです。
笠原和夫の原案を白石和彌監督が映画化!しかも時代劇!!
かつて日本中の男どもを極道かぶれにした笠原和夫の「東映実録モノ」を、初めて正統に踏襲できた映画が「日本で一番悪い奴ら」「狐狼の血」であることを思えば、これほど必然性のある企画はありません。
一方時代劇アクションは、三池崇史監督による「十三人の刺客(2010年)」以降、そのレベルが一気に引き上げられましたが、例えば「るろうに剣心」や「キングダム」といった漫画スペクタルではない、泥臭い路線で、且つアクションが充実した時代劇はまだ見たことがありません(原田眞人監督の「燃えよ剣」あたりはいい線行ってたけどあれは文芸作品寄りの印象なのでちょっとちがうかな…)
いずれにせよ、満を持して登場した、令和が誇る集団抗争時代劇の金字塔がこの「十一人の賊軍」です。
【あらましのあらすじ】
幕末の新潟・新発田藩。
駕籠屋の政(山田孝之)は、妻を陵辱した藩士を復讐のため惨殺、その罪によって投獄される。
刑場には、賭博、火付け、密航、姦通、強盗殺人等々…色んな罪状で収監された罪人たちが、牢にひしめき合っていた。
もはや死刑執行を待つのみというこれら罪人たちに、藩からある命令が下される。
その命令とは、藩の境界にある砦にて、迫り来る新政府軍を牽制せよというもの。
しかも、成功すれば全員を無罪放免にするという。
というのもー。
新発田藩は、目下激化する戊辰戦争の渦中、旧幕府派の奥羽列藩同盟と新政府軍の板挟みにあっていた。
城には連日同盟の使者が押しかけ、いい加減出兵せよと矢の催促。
幼い藩主に代わって藩政を担う家老・溝口内匠(阿部サダヲ)は、これら使者をのらくらり交わしながら、実は新政府軍へおもねるハラがあった。
そんななか、新発田藩を籠絡しようと動き出した新政府軍が、いよいよ明日にも新発田に到着するという報せを受ける。
このままでは同盟側と新政府軍が鉢合わせ、新発田は戦火に見舞われる。
窮地に立たされた内匠は、新政府軍を堰き止める作戦を立て、腹心の入江数馬(野村周平)に「決死隊」の結成を命じる。
結成にあたり、まず白羽の矢を立てたのが、下級武士で直心影流の使い手・鷲尾兵士郎(仲野太賀)。
未だ新政府軍と戦おうとしない藩に業を煮やしていた兵士郎は、この任務に使命感を滾らせる。
かくして数馬と兵士郎は決死隊を組織するべく、無罪放免を餌に10人の罪人たちを抱き込もうとするが…
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【感想】
少々意外だが、白石和彌監督による時代劇映画は、今年の夏に公開された「碁盤斬り」が初だった。
あれはあれでとてもいい映画だけど、古典落語の人情噺が原作ということもあってか、白石作品に期待したアクション/バイオレンスは控え目だった。
そこへ来ると今作はフルスロットル、こちらの期待も想像も遥かに超えた、血湧き肉躍るアクション/バイオレンスが目白押しだった。
とにかく斬り合いでも爆撃でも、首、四肢、脳漿があたりまえに飛び散り、これでもかと血のスプリンクラーを浴びせられる。
あのように、グロいけどどこかポップな残酷描写は、寧ろタランティーノとかジェームズ・ガンあたりの映画を思わせるところもあるが、あくまで日本の幕末期に使われていた武器弾薬のリアリティを逸脱し過ぎないのがミソ。
また、アクションというのは基本的に見る側が物理的にあり得ないと感じるとシラけてしまうものだが、そこだけに留まるのもつまらなかったりする。
その点この映画は、アクションの見せ場をより荒唐無稽に飛躍させるため「盛る」ところはちゃんと盛っている。
顕著なのが焙烙玉の攻撃力をアップさせるために油を混ぜるとこ。
いちおうの燃焼原理をいいことに、ただの焙烙玉がナパーム弾級の威力に化けてバンバン焼き尽くす。
いずれにせよ、このスケールの合戦シーンが実現したのは、やはり、先述した「十三人の刺客」の轍があったからこそだと思っている。
そしてストーリー。
当時の東映社長・岡田茂に却下されお蔵入りになったという、偉大な脚本家によるプロットは、ザックリした概要だけで既に面白い。
戊辰戦争末期に、奥羽越列藩同盟を欺いて官軍に寝返った新発田藩ー。
その史実をベースに、それこそ「仁義なき戦い」バリの思惑が交錯する泥仕合が超楽しい。
史実ベースのフィクションは、その裏側に蠢く陰謀説的な邪推を物語に反映させるほど面白味が増すのだと、あらためて思った。
真田十勇士のようなアクの強い、有象無象感溢れる賊軍メンバーも楽しいが、キャラクター構築として何よりも大事なのは、仲野太賀扮する鷲尾兵士郎が徹頭徹尾、「義」の人であるところ。
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ある意味ステロタイプな武士道や忠誠心を背負った人物ではあるが、こういう人が主人公に据えられていることで、他の登場人物それぞれにとっての「正義とは何か」が浮き彫りになる。
ある者にとってはただ明日を生きるため、ある者にとっては妻への愛のため…
なかでも、阿部サダヲ扮する新発田藩家老・溝口匠内は、より複雑で切ない。
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最大公約数の藩民を守るため、領土を焼け野原にしないため、彼はああするしかなった。無表情を貫き、情けを拒絶するしかなかった。
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でも「本当にそれでいいのか」という逡巡に、見ているこちらも苦悶を強いられる。
封建社会の理不尽をハチャメチャにブチ壊すカタルシスの一方で、権威に仕える側の葛藤も、鋭く突き刺さして来る映画である。
善悪をキッパリと分け、正義を安易に相対化する考えが如何に愚かしく、危険であるか。
その問題提起があればこそ、こういう人間描写になるのであって、それは取りも直さず笠原和夫が描き続けた人間の裏側でもある。
ラストは悲しいっちゃあ悲しいが、意外に爽快だった。劇中の兵士郎のように「これでいいんだ」という気持ちになれた。
立場の弱い者たちの反逆は、一矢報いることにしかならなかったかも知れないが、どうせやるならド派手な一矢で、ヤツらに泡吹かせてやろーぜという不屈の精神にこそ、こちらは力を貰えるのだ。
だから、もっとこういう映画が観たい!年一くらいで!
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