「ドッグマン」“IN THE NAME OF GOD”逆から読めば“DOG MAN”ってなるかーい!
どうも、安部スナヲです。
そう言えば、フランス人で初めて好きになった映画監督がリュック・ベッソンでした。
最新作「ドッグマン」は予告編やプロモーション関連のビジュアル、そして犬小屋で育った女装男が主人公という時点で、もうツカミはOK!観るに決まってますやん!つーことで観て来ました。
【あらましのあらすじ】
ある夜、ボロンちょに負傷した女装姿の男が警察に逮捕される。
男が運転するトラックの荷台には十数匹の犬が乗せられていた。
拘留された男は、精神鑑定を担うエヴリン(ジョー・ジョー・T・ギッブス)に自分の半生を語る。
ダグラスという名前のその男(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は、子供の頃、凶暴な父親によって闘犬用の犬小屋に監禁され、それからの数年を、たくさんの犬たちと過ごしたという。
純真なダグラス少年は、如何にして犬とともに犯罪を繰り返す「ドッグマン」になったかが明かされていく…
【感想】
実話がベースという触れ込みを真に受け、この荒唐無稽なハナシの一体どの部分が実話なのか?ということに期待したが、動物と檻の中で育った人が実際に何人かいたことに着想を得ただけのようだ。
なので、ある種の社会問題を提起するような映画では全くなく、ドラマ的には大味だし、これまでのリュック・ベンソン作品のなかに置いても、まぁエンタメ寄りといっていいだろう。
異常な環境に置かれた人間が、行きがかり上身につけた特殊能力で何かと戦うという設定をとると、ベッソン監督作のなかでは「ニキータ」にいちばん近いかも知れない。
下馬評通り、ホアキン・フェニックスの「ジョーカー」に通じる点も多いことは確かだが、あのような陰惨さはなく、むしろ観終わったあと心温まる。
難ありと感じたのは、ダグラスの行動原理や動機づけ。
〈富の分配〉として盗みを働くところや、ギャングのみかじめ料に首を突っ込んだだけであれだけの殺し合いになるのは、ちょっとしんどい。
だいたいギャングのボス・ディエゴを先手で脅すシーンも、あんな半グレ格闘家みたいな集団をしたがえていて、たかが2匹の犬にアッサリ屈するの??弱っ!
あと“IN THE NAME OF GOD”を逆側から「DOG MAN」と読ませるのはナンボなんでも杓子定規過ぎるよ。気持ちはわかるが。
しかしながら、その程度の〈難〉は、主演のケイブレ・ランドリー・ジョーンズの熱演と存在感の前には取るに足らぬこと。
彼は元々ユニセックスなお顔立ちだし、女装姿も妖艶ではあるのだが、同時に野暮ったいオッサン感も含んでいて、そのバランスが絶妙だった。
あれがもしGACKTみたいに人間味を超越した綺麗さだったったら感情移入の余地がなくなり、ドラマ自体がシラけてしまう。
現実に居そうな、フツウの女装男がエディット・ピアフやマレーネ・ディートリッヒを歌うとウットリするほど輝く。そこにエモさがある。
何より、彼の顔や佇まいからは悲しみのオーラのようなものが放たれていて、それが最大の魅力だと思うのだ。
とにかく見てるだけで悲しくなる。
それは、不幸な生い立ちや、身体障害者であることとは別次元の、美意識の高い人特有の生きづらさ的なもの。
あの穏やかな表情や語りに、その生きづらさが滲み出ている。
どんなに着飾ってメイクしようが、それらを凌駕するほど、あの悲しみのオーラは強い。
悲しみとは、痛みと救いへの渇望だ。
ダグラスは〈人間より犬を愛する〉ように見せかけて、実は人の痛みがわかるのだ。
終盤のエヴリンとの対話のなかで、法的には不利になる事実を明かし、それに対する彼女の「何故私にそれを話すの?」という問いかけに、ダグラスは「(自分と)同じだから」と、正確ではないかも知れないが、そういうようなことをこたえる。
ダグラスはDVに苦しんできたエヴリンと痛みも救いも共有したのであり、他者への思いやりとはそういうことだよなと思った。
少年期に養護施設で出会ったサルマ(グレース・パルマ)との恋も、まさに甘く切ない。
不遇なダグラスが演劇と女装に生き甲斐を見出す、そのキッカケが恋というのは如何にもやがな!という感じはするが、幼少期の彼が唯一幸せを感じたのがヨーロッパのレコードを聞きながら料理をする母の姿を見ることだったことを思えば、彼がサルマの、それこそ母のように頼もしく大らかな愛情を感じながら、才能を開花させたことは素直に喜ばしい。泣くし。
ハイライトはやはり、「ヒーロードッグス」達の演技とアクションだ。
撮影、編集との連動も見事で、実写映画でここまでの犬アクションはなかなか見られないだろう。
クライマックスの〈犬VSギャングバトル〉における、犬の特性や体型を活かしたアイディアも、とても楽しい(鉄格子を擦り抜けるとことかナイス👍)
全体的にダグラスの内省に偏り過ぎて、ストーリーがやや破綻しているきらいはあるが、アート映画とエンタメ映画、双方の旨味を利かせた「決め絵」の数々は、これぞリュック・ベッソンであり、かつて「ニキータ」や「レオン」に夢中になった身としては、嬉しい映画でした。