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市民広告プロジェクトについて

広告炎上チェッカーとして、広告倫理について発信を行っている中村ホールデン梨華です。2024年上半期、炎上広告を市民の声で共感を集められるような広告に作り直すプロジェクトを行いました。


この、広告に一般市民の声を入れる「広告の民主化」の形態が、イギリスの教育、学術研究、公共の連携を促す機関国立市民参加連携センターで紹介されました。
この記事では、
・イギリスで評価された理由
・プロジェクト概要
・市民とは誰か
について書きます。



炎上広告の課題

炎上を予防するシステムがない

イギリスの広告審査機関(ASAとCAP)は炎上広告の審査と撤去を担っています。2022年だけでも、31,227件の広告に対して修正・撤回指示が出されました。これは、消費者が”見たくない””悪影響だ”と感じる広告がたくさん存在ということです。
また日本では、広告の文化表象を焦点として撤去するシステムがなく、だからこそ、アダルトサイトに誘導する広告が公共の場に掲載されたままになってしまいます。


さらに、広告業界の担当者は炎上がおきた時、批判を恐れ、改善のために炎上広告について議論する事例はほとんどありません。

したがって、次の広告の炎上リスク管理につながらず、消費者の意志にそぐわぬ広告が再生産され、炎上するのといったことを繰り返すばかりです。

広告制作の場に多様性がない

そもそも、炎上する広告が世に出てしまう一因として、広告業界に入れる人の属性が限られているということがあります。これによって、広告業界は閉鎖的だと指摘されています。特に大手企業・広告代理店にお勤めの方々は都内出身で比較的裕福な家庭で育った人や有名大学を卒業し、普段その属性の人としか関わらない人が多く、そうでない属性の人が何に悩んでいるかを想像しにくいです。これは英国も日本も同じ。

しかし、多様化した社会では、客観的な倫理の「正解」はなく、広告業界は広告がその時々の社会の規範や価値観に合うよう、一般市民の声を聞く必要があります。

新!炎上広告への市民主導型解決策

市民広告Towards Changeプロジェクトが行ったのは、この炎上広告が作られてしまうことへの挑戦で、今まで広告業界のベテランが作っていた広告を、市民の意見でつくり直す市民参加型アプローチをとりました。

概要


2024年1月、小規模なワークショップから始まった市民広告Towards Changeプロジェクトですが、2024年4月にはマッキャンワールドやWPPグループといったイギリス現地の大手クリエイティブ・エージェンシーやマーケティング支援会社、広告主、社会活動家、大学教授、社会団体の代表者などから協賛やサポートを頂き、イギリスと日本にまたがるプロジェクトになりました。

有識者の皆様


市民広告Towards Changeプロジェクトは、炎上広告を単に批判するのではなく、より社会責任ある広告を目指しました。

市民参加で「広告の民主化」

「広告制作プロセスにおける市民参加」の市民広告Towards Changeプロジェクトは、2つのステップで構成されています。
1つ目は市民に開かれたワークショップ、
2つ目はワークショップで制作された市民広告を紹介する展覧会です。

1.炎上広告の代案づくりワークショップ


ワークショップは、意識の高い消費者になるよう促すことを目的としていました。それは、普段広告制作に関わらない参加者が広告について考え、広告における表現とその影響を認識する体験を通して、長期的に働きかける社会教育的コンテンツの側面もありました。
例えば、10年前のプロテインの広告は、モデル体型の白人女性を見せ、「Are you Beach Body Ready?(ビーチ向けのカラダ、できてる?)」というキャプションを添えたもの。


ジェンダーのステレオタイプを強化するとして批判があがり、広告審査機関ASAに撤去指示を受けて撤去されました。

この広告について日本とイギリスでワークショップを行い、市民の声で代案を作りました。

ワークショップでの議論をまとめたもの


2.炎上広告ビフォアアフター展示会


ワークショップでの議論をもとに、炎上広告の代案をデザイナーや、イギリスの代理店と一緒に本格化し、有識者のコメントと一緒に展示しました。
展示会は、炎上広告について批判ではなく、建設的な対話のためのオープンスペースに多様な聴衆を集めることで、社会的インパクトをねらいました。
展示についてはこちらをご覧ください。

展示されたイギリスの広告ビフォアアフターの一例


市民とはだれか?

「市民」という言葉を使うとき、生じる疑問は「具体的には誰なのか」です。
市民広告Towards Changeプロジェクトは、4つのグループを特定し、各当事者に役割を割り当てることで、包括性と多様性を確保し、単なるTo Doリスト的な市民参加活動の枠を超えて、本質的な市民参加を行いました。

  1. 一般市民: 広告に興味がある、広告の規範と慣行について考えたい一般の人々。多くは広告業界外で働く社会人、または学生。

  2. 社会セクター: 主に女性や関連する社会的地位の低いコミュニティに関わっている社会団体。

  3. 各分野の専門家: 各分野の専門家:各分野の学識経験者、実務家。

  4. ビジネス部門:事業会社 商品・サービスを制作・提供し、広告に直接関わる代理店・企業。

1.一般市民と2.社会セクターへ提供した、広告ワークショップの流れは下記です。

①分析:禁止された広告や物議を醸した広告を参加者に見せ、その広告が批判を受けた理由を考える。
②ディスカッション: 参加者に広告主の意図や、その広告が倫理的・社会的に及ぼしうる影響について意見をだす。
③クリエイティブ・ブレインストーミング: クリエイティブとAIソフトウェアを使って市民の納得できる代替広告をリデザインするために、どんな広告にするか詳細のアイデア集め


ジェンダー・ステレオタイプを扱った炎上広告については、Bristol Women's VoiceWomen's Equality Partyといった女性エンパワメント団体と特別ワークショップを開催しました。これは、特に広告に反映されにくい女性の意見を直接聞き、女性の表象を含み物議を醸した広告を、代表的で尊重されるものに作り直す機会となりました。
ワークショップ参加者の声:

「クリエイティブなスキルと消費者インサイトを身につけるために参加しました。たった40分で、ダイバーシティとインクルージョンのアイデアを学べました。」
「広告がどうに作られているのか、広告主がいかに美の基準、例えば、肌がきれいであることと美を同一視するなど、問題ある美の基準を宣伝すると学ぶことができました。」

3つめのグループ各分野の専門家には、ビジネス、マーケティング、社会学、政治などの専門家や実務家を招き、物議を醸した広告に対するフィードバックや批評をいただきました。これは、より包括的な社会のために継続的な対話を可能にするために、本プロジェクトがオープンであることを約束し、異なる視点を歓迎することを示すものでした。


専門家からは、クリエイティブという点でまだ改善の可能性があると指摘もいただきました。例えば、市民の作った代案では、広告主の意図よりも、社会的側面が強調されることが多く、大手広告代理店のクリエイティブ・ディレクターからは、より効果的なメッセージの伝え方について貴重なアドバイスが得られました。
さまざまな分野の専門家が参加することで、ビジネスと社会の両面を考慮した広告を作り、炎上広告を元に企画提案の改善点を見出すことが可能となりました。

4つ目のビジネス部門では、クリエイティブ・エージェンシーやマーケティング・エージェンシーなど影響力の大きい企業にスポンサーを募りました。企業は、営利を追求する傾向が強いものの、社会の進歩を支援し、貢献する能力を持っています。企業からの支援は、大きく、経済界からの注目を集める事でメディア露出に貢献しただけでなく、プロジェクトの質を高めてくれました。例えば、展示会場や印刷費のスポンサーになってくれたり、来場者を楽しませることができたり、プロフェッショナルな社会的広告プロジェクトとしてのインパクトを出してくれたりする代理店もありました。

なぜイギリスで評価されたのか

イギリスで、炎上広告を多角的かつ具体的に議論するモデルを提案した点が評価されました。
イギリスでは悪影響のある広告を規制できるシステムがあるのですが、その代替になる可能性がある、と評価を頂いています。

特に評価されたのは、

イギリスの広告審査機関のように「第3者が規制するか決める」のではなく、
・ワークショップを通して市民の意見を直接集め

炎上広告に対する具体的な代案を提示した
市民が代案を提案して終わり、ではなく多様な分野の専門家が代案を評価

このように、「広告の民主化」が、広告規制の新しい形として注目していただきました。

社会的責任のある広告を  

チームと有識者と

日本とイギリスでグローバルに注目を集めた4か月間のTowards Change市民広告プロジェクトは、多様な市民や専門家の対話で、広告業界に本質的かつ持続的な変化を促すことができました。

企業でも、このように多角的に広告表現について話し合える雰囲気と多様な視点を取り込むシステムを整えられるとよいですね。


情報:
イギリスのTowards Change市民広告プロジェクトについてはウェブサイトをご覧いただくか、イギリスの炎上広告のビフォア&アフターを掲載した60ページのプロジェクトレポートをお求めの場合はinfo@ad-lamp.comまでお問い合わせください。

Towards Changeプロジェクトメンバー:
ライシャ・ジェスミン・ラファ、中村ホールデン梨華 


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