女性用広告が進化!生理用ナプキン訴求の変化を分析
私は、2024年の1年間、日本とイギリスの炎上広告を、市民の声を聴いてつくりなおしてきました。その数は60案以上になります。
私の専門は、広告に取り入れられにくい”一般市民の声”を聴いて、炎上リスクに対応することです。今回は生理用ナプキンを販売する花王のロリエの広告を題材に生理用ナプキンの変遷について書きます。
好感を持てる広告
二階堂ふみさんが生理について話す、国際女性デー限定で放映されたCMだそう。
花王 ロリエ 「ムリしない篇」
なぜ好感が持てるのか
1.ありのままの感情を認めている
ロリエの広告「ムリしない篇」は、女性の「(生理中は体調や気持ちが)いつもと同じじゃなかったりする」「無理しないことを大事にしたい」という気持ちをそのままストレートに表現しています。
この描写は、ハッピーになれない気持ちを受け入れる姿勢がある、という点で過去の多くの広告とは異なります。
ありのままを受け入れる広告は女性に寄り添っていると感じられます。
この『生理中は頑張らないでok』、
普通に思えるかもしれませんが、
生理用品の広告では、
近年やっと出てきた言葉です。
今までの生理用品の広告と言えば、「生理中も明るくハッピーでいれる!」「いつもと同じように過ごせるようにこのナプキン!」というように、生理期間も幸せに過ごせることを強調した訴求が主流でした。
ざっと過去10年分の広告を見たところ、
「喜びの朝」「明るく」「気分上げ上げ」「嬉しい」「ハッピー」などの言葉が使われ、多くの広告がパステルカラーを映していました。そして女性が(生理期間中に)笑顔で生き生きとする描写がほとんど。
しかし、どのナプキンを使っても、薬を飲んでも生理中は気分が上がらない消費者にとっては、半ば生理期間にハッピーでいること強制されている感覚があったかもしれません。
そんな消費者からすると、
今回のロリエの広告は、内なる感情を代弁したものになっており、共感できると思います。
2.機能と感情を分けている
ありのままの感情を認めた上で、
「生理用ナプキンには何ができるか」という製品の機能を伝えています。
この点も、過去の多くの広告と異なる点でした。
過去の広告は、生理用ナプキンによって気分まで明るく、ハッピーに生理期間を過ごせる、と訴求したものが多い。
これは広告の情緒訴求であって、競合と差別化するために使われる王道の戦略です。(飲み物で言うと、飲んでおいしい、だけでなく、すっきり&前向きになれる、などの情情緒訴求があります)
しかし、生理は重い腹痛、頭痛やその他の体調不良を伴うことが多く、
ピンク色のかわいいナプキンを見た/使ったからと言って、広告の情緒訴求通りに、消費者の気分が変わることは少ない、というのが語られぬ状況でした。
一方、今回の広告「ムリしない篇」のスタンスは、
「生理で気分が落ち込むことは仕方ない」
「その感情や辛さにはなにもしてあげれないけど、機能としてはこれがあるよ」と、感情と機能を分けて伝えています。
こうすることによって、
消費者は、自分の気持ちを無視して
ハッピーになることを広告が押し付けてくる、と感じにくいです。
過去の炎上キャンペーンと比較する
2022年、「ムリしない篇」という素敵な広告を出したロリエですが、2020年には『生理は個性』というキャンペーンを行い、批判を集めた過去もあります。
炎上した過去のキャンペーン
炎上要因
このキャンペーンが批判された理由は多くありますが、
主に、生理と消費者の感情への理解がされないまま、
キャンペーンを作ったことが批判の要因でした。
ツイッターでの批判を見てみます。
・生理が重い場合は、個性でなく病気の可能性もある
・女性同士だけで生理について話しても男性優位な社会は変わらない
・生理への感情がずれている
今回の広告と何が異なるのか
過去炎上したキャンペーンの生理現状に対して意味付けを行ったことが、
「無理しない篇」と異なる点です。
批判を集めた広告キャンペーンは、
キャンペーン作り手のブランド戦略的な意図が強かったと思います。
とにかく「意味付け」をしないと、
生理を話す雰囲気を作って社会貢献しないと、
生理についての印象を変えて企業イメージを向上しないと…
ある現象に新しい意味付けをして製品訴求をすることは、
悪い事ではありません。
しかし、生理を意味付けする、というのは嫌悪感を起こしてしまいました。
ここが、生理に不要な意味づけを行わず、ありのままの感情を表現して
好意的に受け取られた「無理しない篇」と異なります。
意味付けする対象
”痔は個性”
”尿漏れは個性”
”鬱は個性”
こんな新しい意味付けがあったら、
皆さんはどう思うでしょうか。
追記:なぜたった数年で改善したのか
2020年に花王の生理は個性キャンペーンが炎上した際に、
笛美さんが、広告主を思いやりながら丁寧に提案を記しています。
このように、ただ炎上広告を批判するのではなく、
丁寧なコミュニケーションによって今後に期待を示す、
広告主はそういった声を真摯に受け止めて改善する。
そういう姿勢が、社会を少しずつでも変えてきたのだなぁ、と感じました。
実際に、2020年にキャンペーンで炎上してしまった花王ですが、
批判を受け入れる姿勢を見せ、
2022年には「ムリしない篇」広告を制作しているのです。
消費者に受け入れられる広告をつくるために
広告炎上や批判可能性を把握すること、メッセージを適切に伝える、適切に市民のリアルな声を聴くには、
社会背景や、ターゲットの傾向、感情など様々な要因を理解する必要があります。
広告評価や海外での広告展、市民参加型炎上広告のつくり直しプロジェクトを行った経験を活かし、企業向け支援を行っております。
もし自社広告、発信内容に不安がある方はお役に立てますので、ご連絡ください。