他人に興味を持たない人が「他人に興味を持っているかのように振る舞う」ための手法

当たり前のように他人に興味を持っている人には信じられないことかもしれないが、集団で生きているはずの人類の中でも他人に興味が著しく低い人がいる。社交辞令で仕事の話や趣味を聞いたところで、滅多に接触機会がないと忘れてしまうし、取引先の人の名前も異動する度に「顔はわかるけどこの人誰だっけ?」となってしまう人がいて、しかもそんな人が”営業”をやっていたりするのだ。

だが、生きていく上で他人に関心を持つことは必須のスキルでもある。そこで、「他人に関心はないが物事の事象には興味がある」という理科系タイプの性格の人に向けて、「他人に興味を持っているかのように振る舞う」コツを共有したい。残念ながら「物事の事象には興味がある」(例えば、花火を誰と一緒に見るか?よりも、どんな炎色反応を使ったのか?あの形はどうしたのか?に興味があるタイプのことだ)という人に限定したテクニックではあるが、参考になる人も多いと思っている。

人を動かすに於いては「気にかけてもらっている」と感じることが重要

有名な『人を動かす』にある通り、リンカーン大統領は会った人のフルネームを必ず憶えていたと言う。本書では、社交辞令やテクニカルなことをマスターする前に「他人に関心を持つ」ことが重要だと説いている。

同じく、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、エリック・シュミットがコーチとして仰いだビル・キャンベルも、とにかく「気にかける」ことを重視していた。

組織の中でメンバーに動いて貰うにしても、社外の取引先の人に動いて貰うにしても「気にかけて貰っている」と感じさせることは、仕事を円滑する上で欠かせないことだ。

しかし、「他人に関心があるフリはバレる」

『人を動かす』にある通り、表面的なテクニックではなく本心から他人に関心を持つことが重要だ。急に名前で読んでみたり・急に褒めてみたり・急にご家族の心配をしてみたりしても「関心を持っているか持っていないか」は案外バレてしまう。何故なら、本当に興味がない場合には同じことを2回質問してしまったりするのだ。「この話するの2回めですよ?」とやたら不機嫌な顔で言われてしまうだろう。

「この人は、関心がある風を装いたいだけで、本当は自分のことを道具だと思っているな」と思われると、寧ろ信頼関係はより悪い状況になるので、本心から他人に関心を持てない人の場合、他人に関心を持つ適性をもった社会適合者の高度なスキルをそのままトレースしようとしても失敗する。

「他人に関心を持つ」のを諦めて「他人の思考に関心を持つ」

他人に関心はないが事象に興味があるタイプでも、打合せ中に他人に関心があるかのようにファシリテートすることはできる。

例えば、「本件、○○については△△さんのご意見も聞きたいところです」と言えば、本当は自分は事象の分析にしか興味がない(「○○については、△△さんがプロだし業務上も主担当であろう。何か有意義な情報があるに違いない」という知的好奇心)のに、いかにも相手を気遣ったような発言になる。実際、話を振られた側も「(この人はちゃんと自分の役割を理解して配慮してくれた、期待に応えよう)」とモチベーションを上げさえもする。

或いは、「今、△△さんが仰ったのは、例えば~~ということで理解はあってますでしょうか?」と言っても同様の効果がある。本当は、「(今の話、もうちょっと理解しとかないとズレが発生したら困るな)」という身勝手な動機なのだが、相手方は「(この人は、私の意見を尊重してくれたぞ!)」と思ってくれる。表面的に「いやーほんとご指摘の通りですよね。承知しました。」と「(コイツ本当にわかったのか?)」と怪しくなる返答をするより、咀嚼して言い直した方が、理解のズレがないことも伝わる。(当たり前のことだが、ここであたかも自分の意見だったかのように横取りしてはいけない。必ず相手に「~という理解であってます?」と返すのだ。)

「事象を解決しよう」という意識は応用範囲が広い

事象に興味を持つこと、より厳密には「事象を解決することの優先順位を高めること」は、他にも効果がある。

「他人に嫌なヤツだと思われたくない」「自分たちがバカなヤツだと思われたくない」という自己防衛本能が先に動いてしまう人は、取引先にもっと深く目的や意図や方向性の絞り込みなどをヒアリングしなければならない状態なのに、「そうですよね。わかりました!」と共感する態度を見せて持ち帰ろうとしてしまう。しかしヒアリングが不十分だと提案を考えるメンバーは情報が足りずに困ってしまうし、次回の提案物のクオリティが下がり工数もかかってしまい、取引先に迷惑がかかってしまう。目の前の感情の対立を避けることで、後で失望させてしまうことになる。

しかし、そういうときも「この問題を解決しよう」ということを優先していれば、相手方がイライラする寸前までヒアリングすることが可能になる。(たまに注意が必要だが、そもそも余り考えずに発言している人には深堀りのヒアリングをするととても傷つけることがある。そういう人はキーパーソン足り得ないので最終的に無視して良いのだが、わざわざ傷つけて良いことは無い。)

或いは、メンバーが失態をしでかしてしまったときに「(大事な取引先の前で恥ずかしい!)」と自分の率いるチームと自分のメンツを気にする人は、取引先の目の前でメンバーを叱ったりするものだ。しかし、「この問題を解決しよう」と思っていれば、叱ることはなく「それは~です。」とサポートをするだけで、重々しい空気にすることはない。

名著に書いてあることが実行できるのであれば、それに越したことはないのだが、出来ないことを無理にやって失敗するよりは、似たような効果を得る別の手段で対応すれば良いのだ。人は自分の性格の善し悪しを自覚することはできても変えることは容易ではない。