15年越しの『グラディエーター』
初めてグラディエーターを見たのは中学生のころ。
みんなでTSUTAYAでレンタルして、ばかデカいテレビがある友達の家でお菓子を食べながら並んで見た。
みんな主人公マキシマスのカッコよさに胸を打たれて、見終わったあとは「熱いね!カッケーね!」と言葉にできない気分の高まりをブチまけた。
それから15年経った2024年現在。
グラディエーター2の公開を前にして1作目の4Kリマスター版が劇場公開されている。
昔の熱い気持ちをもう一度……!という気持ちで映画館に足を運んだが、中学生の自分とは違うキャラクターに胸を打たれたので感想を残しておこうと思う。
同じような気持ちになった人がいたら嬉しいです。
憎たらしい表情のコモドゥスが大人になった自分にブッ刺さりました
結論から話すと、皇帝コモドゥスに胸を打たれた。
ホアキン・フェニックスの演技力もあり、彼はずっと憎たらしい表情をしている。
小物感を無限に放ち、取り巻きの元老院からはハブられ、結局誰からも愛されない悲しい人物だ。
ただ、この憎たらしい表情は顔つきの問題ではない。
彼の性格から滲み出てきた憎たらしさだ。
じゃあなぜ、彼が作中のほとんどで憎たらしい表情をしているのか。
その正体はマキシマスへの劣等感だ。
全部持ってるスーパーつよつよ人間マキシマス
主人公のマキシマスは、コモドゥスが持っていないものをすべて持っている。
作中では皇帝に必要な「徳」として、正義・知恵・不屈・自制が挙げられているが、そのほかにも
人から愛されるカリスマ性
周囲を巻き込む行動力とそれに見合ったパワー
信頼できる仲間
愛する家庭(コモドゥスに消されたけど)
など、カッコいい要素をすべて持っていた。
また、マキシマスは復讐に燃える男であることに違いはないが、復讐に溺れない人間としての強さがある。
中学生の私たちにとって、すべてを持っているマキシマムは、まさにヒーローだった。
ただ、大人になった自分にとっては少し眩しすぎた。
まぁとにかくカッコいいスーパーつよつよスペシャル人間なのだ。
身の丈に合わない大きすぎた青い野望
物語を通して彼は冷酷非道・至らないバカ息子・シスコン・クズ・ゲス・ザコ・唇野郎・よわよわ人間として描かれている。
ただ、彼が皇帝になりたかった理由。
それは退廃した共和政を解体し、民に愛され自らも民を愛する皇帝になること。
彼の野望は、少なくとも腐った元老院が目指すものよりも青くて綺麗なものだった。
ただし、その野望は彼の身の丈に合わないほど大きすぎた。
腐敗した元老院を排除しようとするも孤立していき、愛していた姉から恐れられ枕を濡らす。
皇帝に即位以降、彼がやろうとすることすべてうまくいかない。
さらに追い討ちを掛けるように、処刑したはずのマキシマスの帰還を知りストレスがとんでもないことになってた思う。
大人になって出会った社会のコモドゥス
社会に出てから身の丈に合わない野望を抱く人を大人になってからたくさん見てきた。
新卒で入社した会社の社長は、取引先を飛ばして会社で酒を浴び、泥酔しながら涙を流し、誰からみても無謀な夢を語ってた。
「俺はGoogle facebook Apple Amazonと肩を並べる会社を作りたい!〇〇もそう思うでしょ!ねえ!」
もちろん思わないし、彼に心底呆れて軽蔑した。
彼は賢いけれど人間と関わる点においては小学生、園児以下である。
おそらく頭がいい分、子供の頃に学ぶべきことを学んでこなかったはずだ。
何かと周りを見下し、人より先に進んだつもりでいるけれど、他と比べて根本的な「徳」が欠如したまま大人になってしまった人間。
社員から煽て上げられ、いいように使われていることに気づいていない哀れな社長。
普通の幸せじゃ満足できない、身の丈に合わぬ大きな野望を掲げた小物の末路があの泥酔した姿だ。
と、コテンパンに書いてみたが、おそらく彼は周りから向けられる目に全部気づいていたと思う。
全部知っていた。そこまでアイツはバカじゃない。
眩しすぎる光が暗すぎる影を生む
実は自分もどちらかといえばコモドゥス側の人間だ。
少なくともマキシマスのようなスペシャル人間ではない。
隣にいると劣等感を感じてしまうほどマキシマスは眩しすぎた。
過剰な表現かもしれないが、人間誰でも持ちうる劣等感を丁寧に誇張して描いたのがコモドゥスというキャラクターだ。
コモドゥスはグラディエーターに成り得るのか
結果的に、彼がクズでシスコンで狡猾で冷酷な小物であることは間違いない。
ただし、彼はゲスでバカで至らぬ息子だが、青さだけは最後まで一貫していた。
彼にはマキシマスを消せるタイミングが幾度なくあったが、殺すことができなかった。
本人は「殺したら責められ立場を失う」と咽び泣いていたが、女子供を殺すまで冷酷になれる人間に本来迷う余地なんでないはずだ。
それでも、彼は無意識にマキシマスを卑怯な方法で殺すことを拒んでいた。
彼は物語のラスト、(少しハンデをもらうが)マキシマスとタイマンを張る。
ハンデがあるとはいえ、誰からみても無謀な戦いを挑み孤独に死んでいく。
勝てない戦いに身を投じて、周りから冷ややかに見られることも、命を落とすことも、彼は全部わかっていた。
そして、戦わなければ、ここで勝たなければ、本当の意味での野望は叶えられないことを理解していた。
すべてわかったうえで、すべて失う覚悟で、すべてを賭けて戦いに身を投じる彼も、もう一人のグラディエーターだ。