フランス・ギャル名曲選①アイドル(PHILIPS)時代編
※ヘッダー画像はgetty imageより
※だいぶ間が空いてしまったこともあり、予定を変更して記事を書いています。ご了承ください。
フランス・ギャルは1963年に16歳の若さで歌手デビューし、フレンチロリータのアイコンとして世界各国で一世を風靡しました。その後1970年代半ばには本格シンガーに転向し、フランスポップス界で輝かしいキャリアを築いた…ということはこれまでの記事で何度か紹介した通りです。
これからしばらくの間「フランス・ギャル名曲選」と題して、ヒット曲、名(迷?)曲、マイナーだけど個人的に好きな曲など、今までの記事で取り上げたことのない曲を中心に、一気にご紹介していきたいと思います。
フランス・ギャルの歌手活動はおおまかに「アイドル期(1963〜68)」「人気低迷期(1969〜73)」「本格シンガー期(1974〜1997)」の3つの時期に分けることができます。今回は1963年から68年までのPHILIPS在籍期間、日本で最も有名な「フレンチロリータアイドル時代」の曲をいくつかご紹介したいと思います。
◆Sacré Charlemagne(1964)
日本ではギャルのアイドル時代といえば「夢みるシャンソン人形」等セルジュ・ゲンスブール提供作品のイメージが強いと感じますが、実際のところ、ゲンスブールの提供曲はそれほど多くはありません。ギャルの父親で作詞家のロベール・ギャルをはじめ、「オー・シャンゼリゼ」の仏語版オリジナル歌手のジョー・ダッサン、「恋はみずいろ」等人気曲の作曲で有名なアンドレ・ポップなど、アイドル時代のギャルはゲンスブールのほかにも錚々たる製作陣に囲まれ、数々のヒット曲に恵まれています。
"Sacré Charlemagne"(シャルマーニュ大王)は父親のロベール作詞で、ギャルのアイドル時代を代表する曲の一つです。
こちらは65年にヴェルサイユ宮殿で撮影された映像だそうです。(余談ですがフランスでは60年代から今でいうMVのようなものが存在しており、大変驚きます)女学生達を従えてお嬢様ファッションで歌うギャル、さしずめ「歌のおねえさん」といった趣です。
曲の内容は要約すると「学校なんかウンザリだ、どうして勉強なんかしないといけないの?」みたいな感じです。学校も勉強も好きだったというギャルはこの曲のリリースを最後まで嫌がっていたそうですが、耳に残る童謡調のメロディと若い世代の共感を呼ぶ歌詞が話題となり、シングルレコードは200万枚もの売上を記録しています。また、この曲は「アンチ学校ソング」としてだけでなく「若者による反体制歌」としても度々用いられており、16もの言語に翻訳されて今でも世界中で親しまれています。
◆Jazz à gogo(1964)
ギャルのアイドル時代のディスコグラフィーにおいて、ゲンスブール提供曲と同じくらい外せないのが「ジャズっぽい」曲達です。元々彼女はアイドル志望ではなく、ジャズシンガーになることを夢見ていたそうです。そこで父親のロベールは、ジャズピアニストで編曲家として有名なアラン・ゴラゲールの協力の下、「ジャズっぽい」曲を娘のために提供しています。"Jazz à gogo”(ジャズ・ア・ゴーゴー)もその中の一曲です。
曲の内容は「とにかくジャズ最高!」という感じ。当時のギャルの歌声は可愛らしすぎて、本格ジャズかと言われると首を傾げるところですが、高音のスキャットはなかなか聴かせます。他にも"Pense à moi"(パンス・ア・モア、1963)、"Le cœur qui jazz"(ジャズる心、1965)など、アイドル時代の「ジャズっぽい」曲はすべて父ロベールの作詞です。
こちらの曲は椎名林檎さんもカバーしています。すごくオシャレなアレンジですね。
◆Christiansen(1964)
ゲンスブールの提供曲"Laisse tomber les filles"(娘達にかまわないで)が表題のシングルに収録されている曲です。当時のフランスでは1枚のシングルにつき4曲収録するのが普通だったようで、"Christiansen"(クリスチャンセン)はその中の一曲にすぎないはずなのですが、PHILIPS時代のベスト盤にはかなりの確率でピックアップされている人気曲です。
内容は「ノルウェーからやってきた男の子(クリスチャンセン)との淡い恋物語」といった感じ。アイドル時代のギャルは曲によってかなり歌い方や声の出し方が違うのですが、この曲は終始ウィスパーボイス(多分ほとんどファルセット)歌唱で、とても可愛らしい歌声が堪能できます。地声は高音が聞き苦しく感じたり音を外している曲も多く「ヘタウマ」という感じがするのですが、ファルセットはアイドル時代からなかなか上手だと思います。
◆La rose des vents(1966)
シングル"Bonsoir John-John"(ボンソワール・ジョンジョン)に収録されている曲です。同年の"Les succettes"(アニーとボンボン)騒動もあり、この頃からギャルのアイドル人気には次第に翳りが見え始めていたようです。
こちらはあまり知られていない一曲ですが、終始ウィスパーボイスの可愛らしい歌唱とマイナー調ながらも覚えやすいキャッチーなメロディが印象的な、個人的にとても好きな曲なのでご紹介しました。
"La rose des vents"は直訳すると「風の薔薇」ですが、英語でも同じく「ウインドローズ」と呼ばれる「羅針盤(の風配図)」のことを指すそうです。歌詞も「羅針盤の針が回る」ことを「風の薔薇(の香り?)を吸い込むと頭がくらくらする」などと例えている、不思議で幻想的な世界観の曲となっています。この頃のギャルの可愛らしさにピッタリの曲だと思います。
◆Bébé requin(1967)
先述の人気シンガーソングライター、ジョー・ダッサンによる提供曲であり、おそらくギャルにとって「アイドル時代最後のヒット」となった曲です。
この曲はゲンスブール作の"Teenie Weenie Boppie"(ティニー・ウィニー・ボッピー)と同じシングルレコードに収録されているのですが、結果的には"Bébé requin"の方が圧倒的に人気を博しました。(「夢みるシャンソン人形」に匹敵するほどの人気があったようです)そのためゲンスブールはジョー・ダッサンに敬意を払い、ギャルに曲を提供するのを辞めた……というエピソードがギャルの伝記には書いてあります(本当のところはゲンスブールは新しいミューズとなるジェーン・バーキンに出逢い、ギャルで遊ぶのに飽きたのではないかと思いますが)。
曲の内容は「私は可愛いサメの赤ちゃん、あなたの心を食べちゃうの」という感じの典型的「ぶりっ子アイドルソング」です。(邦題は「おしゃまな初恋」)上に埋め込んだ動画は口パクではなく生歌らしく、ところどころ音を外しています。しかし最後の"Bébé requin bébé velours, bébé requin bébé d'amour"の繰り返しの箇所では主旋律ではなくハモリを歌うなど、「カワイイだけじゃなくてちゃんと歌えるのよ!」とアピールしているように見えるのがなんとも可愛らしいと思ってしまいます。
◆24/36(1968)
PHILIPS時代最末期、既に人気が低迷してしまっていた時期の曲です。こちらも"Bébé requin"と同じくジョー・ダッサン作曲なのですが、同じくヒット…というわけにはいきませんでした。世間はすっかり「イエイエのロリータアイドル」に飽きてしまっていたのでしょう。
"24/36"とは写真のサイズのことだそうで、「写真を見ながら別れた恋人を想う」という失恋ソング。しかし曲調はイントロからノリノリで、ギャルの"Oh!"という可愛い叫び声?まで入っています。昔アイドル時代のギャルにハマってよく聴いていた頃はろくに歌詞も見ずに「何で失恋の曲みたいなのにこんなに明るいの?」と思っていたのですが、ちゃんと歌詞を読んでみると「ヴァカンス大好きフランス人のひと夏の恋」という感じでした。
この頃になるとずいぶんギャルの歌唱力も上がっているように思いますし、「シャンソン人形」の頃のような棒読み&舌足らず感はほとんどなく、表現のつけ方にいろいろと工夫を凝らしている感じがします。個人的にはとても好きなので、もっと有名になってほしい一曲です。
次は1969〜73年の「人気低迷期」の楽曲を特集したいと思います。
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