ショートエッセイ:グンマ―の生活 (3)乗り間違いと干し柿と
高校の頃は、土曜日に授業が終わると、よく電車を乗り継いで祖母の家に泊まりに行っていた。新前橋で乗り換えて上越線(というローカル線がありまして)に乗ってコトコト沼田駅まで行くのである。
ある晩秋の天気の良い日、発車時刻に遅れそうになって、慌てて新特急「水上」に飛び乗った。乗り遅れると1時間は電車が来ないのだ。無事座れ、ホッとして本を読んでいたら、車掌さんのアナウンスが聞こえてきた。
「次は中之条~中之条~♪」
中之条!?
のぴょぴょ~ん!! それは上越線ではなくて吾妻線の駅ではないか!!
ザクっと説明すると、上越線と吾妻線は、渋川駅を起点に行く先がめっちゃ離れている。沼田が群馬北部なら、中之条は群馬西部だ。ど~やってリカバリーするんだよ、この失敗!!
しかし私の心の叫びも虚しく電車は西へと爆走していく。そうか私はいつも乗ってる新特急「水上」と間違えて、新特急「草津」(吾妻線を走る)に乗ってしまったのだな。
特急草津は途中どの駅にも止まらず中之条駅までまっすぐに着いた。
「お願い迎えに来て~」
と沼田の叔母に電話してみたものの
「車でそっちに行ったら1時間もかかるからや~だ。諦めて待ってなさい」
と鼻で笑われた。
次の上り列車が来るまで1時間。1冊の本で持つかなぁ…。
缶コーヒーを買って駅のホームのベンチに座り、ふと上を見ると。
たくさんの干し柿が、軒から吊るしてあったのである。
(なんて数だ。こんなに干して誰が食べるんだろう。出来上がりにはまだ早いっぽいけど、私も食べたいなぁ)
なんてことを考えていたら、1時間があっという間にたってしまった。
自分ながらアホかと思うくらいポエミーな私は、
(干し柿を見られたから、今日は素敵な日だ)
と思ってしまったのである。
這う這うの体で沼田にたどり着いた私は、祖母と叔母に散々笑われた。今でも笑われる。笑われた後、
「でもたくさんの干し柿を見たんだよねぇ」
とからかわれる。
中之条駅の干し柿は、毎年駅員さんが総出で吊るすんだそうだ。
で、通勤・通学で駅を利用する乗客、観光客などに1個ずつ配るのだという。
あの風景をまた見る日が来るだろうか。