見出し画像

映画「オッペンハイマー」を見てきました

こんにちはRYUです。唐突ですが、皆さん映画って見に行きますか?私も映画はもっぱらNET FLIXで見る機会が増えたのですが、月に一度くらいは映画館に足を運んでいます。今回は話題作「オッペンハイマー」を見に行ってきたので、こちらの報告をしてみたいと思います。

ちなみにこの映画は「史実」に基づいて進行するので本来「ネタバレ」はないのですが、主人公であるロバート・オッペンハイマー(以下ロバート)について「全く知らない!」という方には、映画を見た後に以下を閲覧いただけたらと思います。

アメリカ国内では最高レベルの評価

さてこの映画、とにかく評価が凄いんです。「TENET テネット」「インセプション」などで知られる(らしい)クリストファー・ノーランが監督したこの作品、第96回アカデミー賞で過去最多となる13部門にノミネートされ、同じく最多となる7部門を制覇したそうです。

ただ、私がこの映画を見ようと思った動機は「評価が高いから」ではありません。ご存じのとおり、この映画の主人公であるロバートは第二次大戦中に原子爆弾を開発した「マンハッタン計画」のリーダー。彼が所長を務めるロスアラモス研究所で製造された原子爆弾は広島・長崎に投下され、膨大な数の犠牲者を出しました。

「トリニティ実験」の核爆発(当時撮影)

ジェノサイド(大量殺戮)の当事者をテーマとした映画の、いったいどこか高評価になったのか?

私がこの映画に対して抱いた関心はこの1点でした。結論から申し上げると・・・喜ぶべきかどうかは分かりませんが、ほぼ私の予想通りでした。

史実を伝えるリアリティが秀逸

まず、私から見たこの映画の優れた点は、原爆開発に至るまでの史実がリアリティをもって描かれていることです。機密保全のため、何もないニューメキシコ州の荒野に急造された「ロスアラモス研究所」が大規模なセットによってリアルに描かれています。わずか数か月で数千人が暮らす街や、高度な設備を要する研究所施設を作った!当時のアメリカの国力に驚かされます。

ロスアラモス研究所のリアルなセット

そして、一言に「原爆を作る」といっても・・・当時、コンピューターはありません。現在ならスーパーコンピューターが瞬時に行う計算を、研究者が膨大な時間をかけて手作業で行う・・・という当時の状況が映画中でも描写されます。当時の理論物理学がどんなものであったか?も垣間見れる映画です。

こんな感じの数式が描写されます(こちらはイメージ画像)

豪華な配役

そして出演している俳優も、大作にふさわしい顔ぶれです。まずはロバートを演じる主演のキリアン・マーフィ(以後、俳優名は敬称略)。ノーラン監督作品の常連で、戦時中の困難な状況に立ち向かう精神的な強さと、核開発にかかわる道義的憂鬱を好演していました。

たぶん「笑顔」は一度も無かったと思います

ロバートに敵対する悪役を好演していたのが、こちらのロバートダウニー・ジュニア。「アイアンマン」などで活躍した頃と比べると、ずいぶん渋くなりましたね。ちなみに私と同い年でした💦

こちらはロバートと対照的に、感情を露わにして好演

どこかで見たと思ったら・・・こちらはマット・デイモン!「オーシャンズ11」から既に20年以上が経過して現在53歳。貫禄が出て存在感もイイ感じになりましたね。

カッコいいオジサンになりました。

私生活については十分な描写がなかったのですが、ロバートの妻を演じたエミリー・ブラントも、ストイックな夫に負けないタフな女性を好演していました。史実では、この方も生物学者であり研究者同士の結婚だったようです。

「ストイックな妻」にピッタリ

変わったところではこんな方も。アルバート・アインシュタインを演じたトム・コンティは御覧のとおり、風貌が似てます。

似てますね・・

ロバートとアルバートはどちらもユダヤ人であり、研究者だけでなく、同じユダヤ人としての親交もあったように描かれています。

戦後の「失権」から日本人が知らない領域に

さてこの映画の後半では、「ロバートが失権した戦後」に長い時間が割かれています。このあたりは日本人があまり知らない部分で、かつ違和感も感じる部分(後ほど説明)です。最初にお伝えした「私がこの映画で知りたかった部分」の核心に、徐々に近づいてきました。

ヒーロー??だった頃のロバートの描写

第二次大戦の終了後すぐに、戦勝国であるアメリカとソビエト連邦は対立が深まり、アメリカ国内ではレッド・パージ(共産党シンパの排除)が始まります。

ロバートは戦後の水素爆弾の開発に反対したことや、妻や弟が過去に共産党員だったことから、結果的にソビエト連邦の諜報活動に関わった疑いが持たれ、戦後9年を経た1954年に「公職追放」という重い処分を受けます。「原爆の父」と賞され、アメリカの戦勝に貢献した英雄??から公職追放への転落ですから、本人にとっては「天国と地獄」と言えるでしょう。

戦後取り調べを受けたロバートとキティ(妻)

実はロバートの公職追放はごく最近、2022年12月16日に取り消されているんです。タイミングから見て、これが映画製作開始の動機になったことは間違いないでしょう。実際、映画の中でロバートは「愛国者」「核兵器を製造した道義的責任を感じていた科学者」として好意的に描かれており、「20万人以上の日本人を殺戮した中心人物」とは描かれていません。

原爆に対する「アメリカの本音」が見える

この映画を最後まで見ると・・・「原爆を使用した過去を反省し、核兵器を根絶しよう」というメッセージは全くありません。ロバートがトルーマン大統領との会見で「核兵器開発に関わったことへの後悔を述べた」ことが逸話として示されていますが、これが事実だったのか?後世の創作なのか?は分かりません。ロバートが水爆開発に否定的だったのも、「平和のためではなく単に技術者同士の主導権争いだった」可能性もあります。

アルバート・アインシュタインとロバート・オッペンハイマー

ロバートは本作で描かれているような、「原爆製造に関わったことに道義的に苦しんだ、良心的な科学者」だったんでしょうか? 私見になりますが、それは余りにも楽観的な考えではないかと思います。

ロバートは戦後の1960年に来日していますが、この時訪れたのは東京と大阪だけ。1962年に亡くなるまで、広島と長崎に足を運ぶことはありませんでした。これが全てだと、私は思います。

結局のところ、この映画が最も主張しているのは「アメリカの戦勝に貢献したロバート・オッペンハイマーの名誉回復であって、「核兵器に対する反省」ではありません。まして「数十万人の日本人が亡くなったこと」については、アメリカが「そんなの大した問題じゃない」と考えている本音がよくわかる映画です。映画に対する批判を避けるために、多少「反省したふり」は入っているんですけどね。

「核兵器に対する道義的・倫理的な反省が無いこと」や「アメリカが日本に対して根源的に持っている人種差別意識」は、ひょっとすると当時と現在で全く変わっていないんじゃないか?と感じたのが私の結論です。
この映画を見た皆さんは、どのように受け取りましたか?(RYU)



この記事が参加している募集