カオスから生まれる革新──アドインテ15年の軌跡と未来のビジョン(前編)
こんにちは。アドインテ代表の十河です。
アドインテという会社を創業してから約15年が経ちました。これまで弊社は、広告事業をはじめ様々な事業を展開してきましたが、サービスのPRは行っていたものの、会社そのものの発信はなかなかできていませんでした。先日ようやく会社紹介資料を作成したので、アドインテのことを知りたい方はまずこの資料をご覧いただければと思います。
今回、さらに興味をお持ちいただいた方に向けて、アドインテの歴史や目指すビジョンについてご紹介します。少々長いですが、初めて公開する内容も多いのでぜひお付き合いください。
アドインテ誕生前夜
アドインテの設立には、私の前職での経験が大きく影響しています。設立前にいた会社では、強いリーダーシップのもとで働く機会がありました。そのスタイルは貴重な学びでしたが、同時に「別のやり方もあるのではないか」とも考えるようになりました。
こんな経験から、私は「これからの企業経営には新たなアプローチが必要だ」という思いを強くしたのです。高度経済成長期のような上がり調子の頃とは異なり、社会や経済環境が急速に変化する時代では、より柔軟な経営が求められていると気づきました。
これが現在のアドインテをつくる原動力となったように思います。アドインテを設立する際、最も重視したのは「皆で考え、皆で一緒につくり上げる会社」の実現。カリスマ経営者一人が会社を背負うのも良いのですが、多様な視点を尊重し、社員全員の知恵と力を集めて会社を発展させていく姿を目指しました。
ゼロからの船出
と、威勢の良いことを言ったものの、2009年の会社設立は白紙の状態からのスタート。実を言えば、特定の事業をやりたいから会社をつくろうというわけではなかったのです(!)。しかし「社会の情報格差をなくしたい」という強い意志だけは持っていました。
当時、インターネットを使いこなせる人とそうでない人の間に、大きな情報格差が起きつつありました。スーパーの安売り情報といった日常的なものから、法改正のような重要情報までインターネットで発信されるようになっていたのです。
私たちはその格差を解消するために、誰もが簡単にアクセスできて興味のある情報を深く掘り下げられるサービスを提供したいと考えていました。この「情報格差をなくしたい」という思いは、形を変えながら現在でも私たちの事業の根幹にあります。
余談ですが、今日ではレコメンド機能の発達によって情報の偏りが生じるという新たな問題も出てきています。ユーザーそれぞれの「こうあってほしい」という情報以外は届きにくいため、多様な視点に触れる機会が減少しているのです。この「情報の偏り」の解消も、長期的には私たちが取り組むべき課題だと感じています。
広告事業の誕生と進化
少し話が脱線しましたが、創業後、私は以前の会社でも取り組んでいたガラケー向けの日記プラットフォームに目をつけました。その理由は、現在のSNSの根幹ともいえる、ユーザーが自ら日記を通じて情報発信をするという新しいメディアの形に強く惹かれたからです。特に、この日記プラットフォームでユーザーが自由な表現で文章を綴っていることにとても興味を持ちました。
そして、WEBの世界に見られる斬新な表現方法、独特の表記法、文章スタイルを分析することで新たな広告価値を提供できると考え、京都大学の研究室と協力して、若者の新しい言葉遣いを分析するためのデータ収集にも活用しました。これは言語学的な観点からも非常に興味深い取り組みで、例えば「サーバー」を「鯖」と表記するような当時の新しい言葉遣いが、どのような文脈で使われているかを分析していました。
大学との共同研究から生まれた技術を活用し、私たちは「凛」という言語解析エンジンを開発。このエンジンはユーザーが書いた文章を解析し、その内容を元にユーザーにとって本当に最適な広告を表示するというもので、これが現在も続いている広告事業のはじまりです。
実は日記プラットフォームの事業は、かつて在籍していた会社では日陰者の存在でした。その切り口を変えることで一つの大きな事業に成長したのです。私としても、アドインテとしても大きな成功体験となりました。世の中、何が当たるかわからないものですね。
その後、広告事業ではアドネットワークを運営していましたが、2010年代前半にDSP(デマンドサイド・プラットフォーム)事業に移行しました。アドネットワークが広告枠をパッケージ化して販売するのに対し、DSPは広告主が個々の広告枠をリアルタイムで入札購入できるシステム。この時、先駆的な企業が広告業界に金融の考え方を持ち込んだことで、業界全体でこのDSPの仕組みが広まり始めました。私たちもこの流れに乗りDSPに参入したのです。
クレーンゲーム開発からハードの世界へ
DSP事業に参入してしばらくしたころ、新たな展開としてクレーンゲーム事業を立ち上げました(注:現在は事業譲渡済)。新事業を模索していた2014年頃、CTOの藤野から「オンラインでクレーンゲームを操作できるシステムを作ろう」と提案を受けたことがきっかけです。私たちは中古のクレーンゲーム機を改造し、カメラを付けてオンライン化しました。
このクレーンゲーム事業で得た技術や知見が、後のAIBeaconやAIICOというハードウェアの開発につながっていると言えるかもしれません。AIBeaconの開発では、Raspberry Piという超小型コンピュータで試作機をつくり、従来のビーコン技術を応用してより使いやすく詳細な店舗分析を可能にしました。また、自動販売機のAIICOではコロナ禍の非接触ニーズに応える形で発展させて、現在はサンプル品の配布などにも活用されています(AIBeaconやAIICOについては後編でご説明しますね)。
「人間」を中心に据えた技術開発
アドインテの技術開発の根底にあるのは、「本当に人々の役に立つものを作る」という考えです。単に最新技術を追い求めるのではなく、その技術が人々の生活をどう改善するか、社会にどのような価値をもたらすかを常に考えています。
そして、現在アドインテのビジョンは「IoTとAIで小売・機械・農業を科学する」です。私たちは広告配信事業からスタートし、その後クレーンゲームやリテールメディア、AIBeacon、AIICO、農業事業など、様々な分野に展開してきました。一見すると関連性のない展開のように見えるでしょう。当初はそうでした。しかし事業を続けていくと、不思議と「人々の生活のために」という軸でこれらが繋がっていくようにも感じています。
では、 私たちのサービスが今どのように社会を変えようとしているのでしょうか。後編では、現在取り組んでいる具体的なプロダクトや事業についてお話しします。
(後編へつづく)