しゃぼん玉(愛する兄妹へ)
noteをご覧の皆様、遺書です
これは、20代のすべてを大阪という街に捧げた愚かな弟が、賢い兄へ謝るためのポストです
ポストとは違うのか
まだこのやり方がまどろっこしいですが、
気休めになるかも知れませんから読んでみるのも一興かと思います どうせ、ここまで読んでしまったのだし。供養になると思って。
ではいきます。
兄さんへ。
ここを観てくれてるという事は僕は愛する妹の所へ行けた訳ですね。嬉しいです。最期まで迷惑かけてすみませんでした。あなたが僕の兄弟で、本当に良かったと思っています。
今日は妹との事を書きますね。想い出がパラパラとページが風で文庫本めくるみたいに
僕と兄さんは、一緒に暮らしていたよ。
僕が16歳でバイト帰りに、
貴方は久しぶりに大阪から帰省してて、少しだけお話しをしましたね。そのときの、兄さんの顔がとっても淋しそうで、なんだか草臥れて感じられたものでした。僕は、助ける、とは大袈裟だが、
『兄の近くで兄の力になりたい』
と、そう、感じたものです。いい気なもんだ。
それから大阪で2人が暮らし初めて、
それから6年後、か、7.8年あとに、我が家にやって来た可愛いヨークシャテリアの事を、書こうと。 そこのページがめくれたから。
彼女が家に来た時、すごく怯えて震えていましたね。保護犬だった妹は、その施設で素行がとっても悪くて、いつも、お仕置き用のケージに入れられて、脚も悪くなって、悪い人に断尾されてて、10歳も越えていました。
そんな妹を、優しい兄さんがどう感じたか。
『昔から、ヨーキーを飼うのが夢やったねん』
と兄さんは笑いました。僕らの幼い頃、近所の老夫婦の家にヨーキーが居て、親も友達もない僕らはよくそこへ行っては、懐かしい、ダンって言うその子と遊んでいましたよ。
その、真っ暗闇な生活の中の幽かな楽しい記憶を、兄さんは忘れられなかったのですね。
妹は、すぐに僕らの最愛の家族になりました。
彼女が家に来て1週間、家のドアを開けると
『おかえり!』って言ってくれたそのときから
兄さんも僕も、妹をとても可愛がったよね。
お酒に酔っては、人間の食べ物をあげようとしたり妹を持ち上げて回転させようとしたりするお茶目な兄さんに、僕は『妹をいじめるな!』とよく怒ったものですぁ、おばぁ、あー、あの頃が、人生で、唯一、と言って良いほど、幸福でした。
ありがとう。兄さんが、妹に逢わせてくれたおかげで、僕の人生には楽しかった想い出があったのです。
散歩もできない、オモチャでも遊べない、寝て食べているだけの彼女に、僕は初めて愛する他人に出逢えた喜びでした。
もうすぐ彼女の命日ですね。
(いま令和6年7月2日です)
あの日、病院に半日いて、死んだ、そのときに、
『バンビ(妹の名前)は、俺らが病室に来るまで待っとったよな?』
と、兄さんは震える声で、言いました。
『俺らが来るんを待っとったよな??』
思えば、物心ついてから、初めてあんな泣いてる貴方の顔を見た気がします。
チューブに繋がれて眠ったようなバンビの姿とで、僕は十重二十重に胸が裂けたような気持ちでした。
妹の亡骸を持って歩いて帰って、次の日に葬儀とか火葬とか、兄さんは哀しさを、堪えて、色々、手配します。なにせ情け無い弟は泣いてばかりで何も出来ないのですから。
晴れた朝、バンビの骨壷を抱いて環状線で家に帰ると、
『おかえり!』
という、あの声が、聴こえた気が、しなかった
何も聴こえなかったよ
兄さん、バンビは死んじゃったよ
もうこの世で逢えないのだよ もういくら家に帰っても、彼女は『おかえり!』って言って無い尻尾を振って出迎えてくれないんだよ
僕はその事を気付いてしまって悲しいのがやっと分かったよ
僕は泣きながらスタジオへ電話をかけました。
外ではゴミ収集車がオルゴールで"しゃぼん玉"
を流していました。
"しゃぼんだま とんだ
やねまで とんだ
やねまで とんで
こわれて きえた
かぜ かぜ ふくな
しゃぼんだま とばそ"
偶然だけど、この曲の哀しさに、何も無かった妹を、曲として遺してやりたいと思いました。
その時に出来た『しゃぼん玉』という曲は、
僕たち家族の大切な曲だから、いつか兄さんには聴いてほしいな。
この曲を書くのに、人生ぜんぶをつかったよ。
彼女は、もう苦しく無いし、脚も悪く無いし、
暑いとか寒いとかもない、素敵な所で、オヤツもいっぱいあってさ、また、昔みたいに、僕の上で寝ています。僕も、またまた昔みたいに、寝返りがうてなくてツラいのを喜んでいます。
僕は死んでようやくまた幸福になりました。
愛する妹とまた逢えたから。
兄さんは、生きて幸せを掴む事ができたから、
またいつか。もっと、たくさん幸福になって下さいね。もう迷惑かける弟もいないし、心配なんていらないよ。
バンビと逢わせてくれてありがとね。
お兄ちゃん、出逢ってくれて、ありがとう。
バイバイ。