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思考を止められないACT#5 無意識の思考が引き起こす悪循環を防ぐ方法

日常生活の中で、ふと「また考え込んじゃった」と気づく瞬間はありませんか?私たちは常に無意識的に思考を巡らせており、そのこと自体にほとんど気付くことがありません。

思考を止めることはできない

「考えるのをやめよう」と試みたことがある人は、その難しさを知っているでしょう。実際、思考を完全にストップさせることはできません。むしろ、意識的に思考をやめようとすればするほど、思考の渦に巻き込まれてしまいます。たとえば、「白クマのことは考えないでください」と言われると、どうしても白クマのイメージが頭に浮かんでしまいます。このように、考えないようにしようとするほど、その考えが強く頭に浮かんでしまうのです。

なぜ思考は止まらないのか

では、なぜ私たちの頭の中では、絶え間なく思考が続くのでしょうか?
それは、基本的に私たちを危険から守り、生き延びるために脳が自動的に作動しているからです。脳は「分類」「予測」「判断」などのプロセスを繰り返すことで、日々の生活で危険を回避したり、効率的に行動したりすることを助けています。そして、その行動がどんな結果をもたらすかを評価します。これは人類の歴史の中でずっと行われてきたことであり、これからも続いていくでしょう。
あなたが好きか嫌いかにかかわらず、頭の中では朝から晩まで、出来事を関連付ける「言語生産マシーン」が動き続けています。

無意識の思考に振り回されるリスク

しかし、この自動的な思考プロセスは常に正しいわけではなく、時には誤った結論や思い込みに導かれることもあります。私たちが無意識に行っている思考は、過去の経験や感情に基づいており、それが自動的に「正しい」と信じられてしまうことが多いのです。

たとえば、友人からの返信が遅いという単純な状況に対して、「自分は嫌われているかもしれない」という思考を抱いたとします。その思考を真実だと信じてしまうと、不安や怒りが生まれ、友人に冷たく接してしまうかもしれません。その結果、実際には何も問題がなかったのに、関係が悪化してしまうことがあります。このように、無意識の思考に振り回されることで、現実とかけ離れた結論に至り、自分にとって望ましくない行動を引き起こすことがあります。

無意識の思考が「正しい」と感じられる理由

では、なぜ私たちは無意識の思考が絶対的に正しいと感じてしまうのでしょうか?ここにはいくつかの理由があります。

1. 自動的な思考の習慣

脳は過去の経験をもとに、反応を素早くするためのクセを持っています。以前に「返信が遅いと嫌われている」と感じたことがあると、それが習慣化し、次に同じ状況が起きたときも同じように感じやすくなります。脳は「前にこう感じたから今回も同じだろう」と判断し、迅速に結論を出そうとするのです。この習慣は、同じことが繰り返されるたびに強化され、だんだん「正しい」と思い込むようになります。

2. 認知バイアスの影響

認知バイアスとは、自分の思い込みや信念が強くなりすぎて、現実を正しく判断できなくなることです。一度「返信が遅い=嫌われている」と思い込むと、その思い込みが強化され、次に同じ状況が起きたときも自動的に「やっぱり嫌われている」と感じてしまいます。これは、事実に基づいて判断するのではなく、自分の思い込みが勝手に反応してしまうからです。

3. 生存本能による即断

私たちの脳は、危険や不安に迅速に対処するよう進化しています。何か不安なことが起こったとき、即座にその思考を信じて行動するようになっています。たとえば、「友人が返信をしない=何か問題がある」と感じると、その思考をすぐに信じてしまうのです。これは、危険や問題を未然に避けるための本能的な反応です。

思考による自己概念化とは? シンボル機能と認知的フュージョンの影響

シンボル機能

私たちの思考には、「シンボル」として何かを象徴する役割があります。たとえば、「自分は失敗者だ」と考えると、「自分=失敗者」と信じ込んでしまいます。このように、特定の思考が自分を象徴することをシンボル機能と呼びます。

認知的フュージョン

さらに、この「失敗者」という思考があたかも絶対的な事実であるかのように感じられ、その考えと自分を切り離せなくなることがあります。これを認知的フュージョンと言います。こうなると、思考をただの考えではなく、真実だと信じてしまうため、その思考に沿った行動を取りやすくなります。

自己概念化

この二つが組み合わさると、「自分はこういう人間だ」というイメージを固定的に持つようになります。これを自己概念化と言います。
たとえば、「自分は内向的な人間だ」と思うと、その自己イメージに従って人前に出るのを避けるようになります。

評価が生む制限

自己概念化された思考は、私たちの中で「評価」として働きます。「失敗は避けるべきだ」「不安を感じてはいけない」といった評価が加わると、失敗や不安を感じる可能性がある状況を避けようとします。このため、自然に回避行動を取るようになります。

回避行動の具体例

  • 「自分は失敗者だから、新しい挑戦をしてもうまくいかない」と思えば、挑戦そのものを避けてしまいます。

  • 「自分は内向的だから、社交の場は苦手だ」と考えると、パーティーや集まりに参加しなくなります。

回避行動がもたらす影響

これらの回避行動は、一時的には安心感を得られるかもしれませんが、長期的には自分の可能性を狭め、行動範囲を制限し、問題を悪化させることが多いです。避ければ避けるほど、その問題や感情への不安が大きくなり、さらに避けたくなるという悪循環に陥る可能性があります。

例えば、試験が不安で勉強が身に入らず、代わりにYouTubeを見たりゲームをしたとします。その一瞬は不安を回避できますが、次の日になると「昨日勉強しなかったから、もう挽回できないかも」とさらに不安が大きくなります。そうなるとまた勉強が身に入らず、結果的に不安がもっと強くなってしまう、という悪循環が起こります。

次に進むために

大切なのは、苦しい感情や思考を避けるのではなく、それに対する自分の反応に気づくことです。実際の思考や感情そのものではなく、それに対する「評価」や「自己概念化」が、あなたの行動を制限していることがあります。苦痛から逃げるのではなく、それに向き合うことで、自分の本当に望む生き方に近づくことができるのです。ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、このような自己概念化や評価から離れ、回避せずに自分の価値に基づいた行動を取ることが重要とされています。

まとめ

  • 思考は止められない:止めようとすると返って強まることがある。

  • 無意識の思考を「正しい」と感じてしまう:間違った思い込みが多いので注意が必要

  • 認知的フュージョン: 思考と自分を混同し、その考えに縛られてしまうこと。

  • 評価と自己概念化: 物事を良い悪いと判断したり、自分を固定的なイメージで捉えることが、回避行動の引き金になる。

  • 回避の悪循環: 苦痛を避けようとすると、一時的には楽でも、長期的には問題が大きくなる。

  • 行動へのヒント: 苦痛に対する反応を見直し、避けずに向き合うことで、より豊かな人生を送ることができる。

自分の思考や感情に気づき、それらと上手に付き合うことで、新しい一歩を踏み出してみませんか?


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