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当事者家族の葛藤

情報収集のためにClubhouseやLINEオープンチャット(以下オプチャ)を活用していましたが、一番具体的で心の支えとなったのは、当事者家族である及川さんの存在でした。彼は一流企業の役員経験を持ち、現在は起業家として活躍している方です。それ故に、私が直面する法律的な問題にも、サクサクと具体的な対処方法を示してくれたりと、多面的に支えてくれました。彼の感情論に流されることなく、淡々と問題解決に向き合う姿勢が、私には共感できたのでした。

一方、オプチャでは、当事者の方々から当事者家族である私に八つ当たりのように「当事者として家族に要望すること」がぶつけられていました。「なんでそこまで...」と思うような内容も多く、家族の負担の大きさを痛感しました。

この想定が、離婚を決断する要因のひとつとなったのかもしれません。


先輩当事者家族との出会い

及川さんとは、Clubhouseの知人を通じて出会いました。知人が「同じ悩みを抱えている知人がいる」と伝えると、及川さんは「僕でよければ、いつでも相談に乗ります」と快く申し出てくださいました。私はすがる思いで連絡を取りました。

及川さんのお父様はすでに亡くなられていますが、その生涯は壮絶なものでした。及川さんが中学生の頃、出張に出たはずの父親が突然行方不明となり、3ヶ月後、遠方の旅館で延泊を続けていることが判明。及川さんとお母様が迎えに行くと、サラリーマンだったはずのお父様はまるで社長のように振る舞い、お母様を「社長夫人」と呼んでいたそうです。多額のお金を使い果たし、その後の後始末に家族は大変な苦労を強いられました。こうした出来事は一度きりではなく、何度も繰り返されたそうですが、不思議なことに、お父様が鬱状態に陥ることはなく、及川さんは「父は躁病だったのではないか」と振り返ります。

及川さん自身は、当事者に対しても迷いなく対応する方でした。

「躁転したら、最低でも3日間しっかり睡眠を取らせるのが大事です。睡眠薬を使って3日間寝かせれば、随分と落ち着きます。僕たちは味噌汁に入れて飲ませていました。」

そうした実践的な対応方法を聞くと、及川さんはすでに多くの葛藤を乗り越え、「家族としてできること」を的確に実行していることがわかります。その姿勢は、私にとって大きな励みとなりました。

及川さんの話を聞くうちに、双極性障害の家族を支えることの現実が少しずつ見えてきて、「もしかしたらできるかも」と希望が持てるようになりました。

十人十色の症状が家族を悩ませる

もう一人、私の助けになってくれたのは、精神病院で臨床心理士をしている方です。この方ともclubhouseで知り合いました。多くの患者を見てきた経験から、双極性障害の多様な症状について教えていただき、モトットの性格に合う入院先の候補も紹介してもらいました。心理士の視点からの話は、とても勉強になりました。

LINEの当事者オプチャで「数百人の症状を見てきた」と話したところ、

「100人いれば100通りの症状があるでしょ?」

と言われ、その通りだと納得しました。

「双極性障害には家族の助けが必要。でも、大体の人は最初の躁転で離婚しちゃうのよねえ。」

そう言われ、改めてこの病気の難しさを感じました。当事者の様々な症状を観察していると、モトットの症状がどれに近いのか、躁転が何ヶ月・何年続くのか、その後鬱転して動けなくなるのかと、さまざまな不安が頭をよぎりました。また、オプチャで当事者による家族への愚痴を目にすると、子育てや仕事と両立しながらモトットを支えることの大変さを痛感しました。

「双極性障害の当事者を甘やかしすぎるのはよくない」という言葉も、今となってはよく理解できます。

発症時期でその後の人生が大きく変わる

オプチャで知り合う当事者の方々の話を聞いていると、発症した年齢とその後の人生には深い関連があることがよくわかります。

10代で発症した人は、大学進学が難しくなることが多く、そのまま就労経験を積む機会も限られ、生活保護や障害年金での生活を余儀なくされるケースが少なくありません。一方で、40代で激しく躁転した人は、すでに社会的な信頼を得ているため、数千万円単位の借金を抱え、離婚や経済的な破綻を経験することもあります。

モトットが、この時期に大きく躁転したのは、むしろ幸運だったのかもしれません。彼は大学卒業後一旦経験を積んでいましたが、比較的若かったため、多額の借金を作るほどの社会的信用はなく、深刻な経済的損失を避けることができました。

インターネットを通じて多くの当事者の症状に触れていると、双極性障害の怖さは、症状の強さや頻度だけでなく、発症のタイミングによって人生が大きく左右されることにもあると実感します。知れば知るほど、モトットとの今後の生活に不安を感じることもありましたが、逆に「幸運だったのかもしれない」と思うことも増えました。さまざまなケースを知ることで、結果的にモトットの状況を客観的に捉えられるようになったのは、とても良かったと感じています。

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