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ヴィランからの解放

X DAY

ー11月9日

30歳になってしまった。

この日が来るのがとても怖かった。それまでは、30代という年代が本当に存在するのか、幻なのではないかと思っていた。20歳になった時でさえ実感が湧かなかったのに、大人2周目なんてもっと湧かない。10代を引きずりながら20歳を迎え、20代を引きずりながら30歳を迎えた。

X DAYが近付くにつれ、思うことは日に日に増えていった。不安だけじゃなく、わくわくも少なからずあったが、明確な30代のヴィジョンを想像することはできなくなっていたのだ。20代の未来をなんとなく想像することができていたのは、自分はまだまだ若くて輝かしい未来が待っていると思っていたからかもしれない。

でも、そう思っていた20代の大半を夜の世界で過ごしたことは大きな誤算だった。夜の世界に入るまではそんな職業や遊びなんて汚らわしいと思っているタチだったし、28歳くらいまでは結婚して幸せな家庭を築いているだろうと思っていたからだ。

1番の誤算は、22歳で自分の最大の夢を諦めざるを得なかったこと。大学で上京するのとは別に、私には女優になるという夢があった。演技のレッスンを受け、それなりにチャンスが掴めるフェーズに行けそうだったが、あることをキッカケにその夢を追う士気がなくなってしまった。いわゆる、業界の闇。

人生に厚みを得た今の私ならそれなりに咀嚼して頑張れたかもしれないが、当時の若かった私にはそんな心の余白はなかった。

それと同時に自分が長らく推していたアイドルが事務所を辞めてしまい、色んなことにアグレッシブになれなくなっていた。

その色んな隙間を埋めるように、夜の世界での人生が始まったのだ。途中で3回離れたり戻ったりを繰り返したが、約6年間は夜の世界に留まっていた。それくらいに夜の世界は魅力的だったし、私の存在意義や才能を認めてくれる唯一無二の居場所だった。

そんな唯一無二の世界からは割と自然な流れで離れることになり、今はそれで本当によかったと思っている。自分に色んな士気を与えてくれたのは事実であっても、それはとても依存的であったからだ。夜の世界を生活の全てとして体感するか、エンタメとして体感するかでは、とても大きな違いがある。今は、圧倒的に後者。

脱夜後、20代後半から恋愛市場に赴き、時すでに遅し感はあった。

かねてから結婚願望はあるけど子供はいらないという私は、絶対に30歳までに結婚しなければいけないということはなかった。でも、なぜかその「30」に焦り散らかしていた。「30」というヴィランが急に私の中に棲みつき始めたのである。

それはそれは、恐ろしい呪縛だった。

「子供がいらないなら、そんなに焦る必要はないんじゃないのか?」
「いや、30歳までに結婚しないと世間体的によくない。」
「30歳を過ぎてウエディングドレスを着る自分って、大丈夫なのだろうか?」

エトセトラ・・・

こんな呪経を、私の中のヴィランがずっと唱えていたのである。

そして、X DAYを迎えてしまった。

30歳までには結婚できなかった。きっとそうだろうなとは思っていたけど、やっぱりそうだった。もし、ヴィランの呪縛がなければあの出逢いも長く続いていたのか、私がもう少し辛抱強くいたらよかったのかと思い返すとキリがない。

切ない感情はとりとめなく溢れてくるけど、そればかりじゃない。

30歳を迎えた今、邪悪なヴィランから解放された気がしてなんだか清々しい。これからは、なんとなく生きやすくなるのかなと感じている。まだ30歳を迎えた実感はないけど、想像していたよりも何倍も良い気分になっていて正直驚いている。

そういう気持ちになれた理由。

それは、ニューヨークで30歳の誕生日を迎えたこと。振り返ること3ヶ月前、私は壮大な計画を立てた。と言うより、急に思い立ったのだ。

8月末に参加した、友人が講師を勤めるヨガレッスンの帰り。南新宿にある、行きつけの某カフェにて読書をしていた。その時、近くに座る同じくらいの妙齢の女性たちの会話が聞こえてきた。

「実は、先週の誕生日を韓国で過ごしたんだよね!」
「え!その誕生日、めっちゃいいね!!」

私の頭の中が急に忙しくなった。

30歳という節目の誕生日。かねてから、どう過ごそうかと悩んでいた。

どこに行く?誰と行く?何日間?

アジアは近すぎるし、カナダは寒すぎる。そして、留学時代のホストファミリーとの予定が合わないかもしれない。

ニューヨークしかない。ぐるぐるし過ぎた私の頭の中の終着地でもある。

最後に行ったのは、5年前の平成から令和に変わるゴールデンウィーク。24歳の春。それが、初めてのニューヨクだった。あの時も、平成最後の日に何ができるかと悶々としていた時に、思い立ってニューヨーク行きを決めたのだ。

なんと素晴らしいdeja vu

平成の最後をニューヨークで過ごし、そして20代の集大成をニューヨークで飾る。24歳で初ニューヨークを経験した私の興奮は凄まじく、絶対にまたすぐに行きたいと思っていた。風を切ってニューヨークの夜を闊歩した、平成最後の夜が今でも忘れられない。コロナがなかったら次の年くらいにまた行っていたかもしれないけど、こればかりは致し方ない。

念願の2回目のニューヨーク。5年ぶり。やりたいこと、行きたい所は山程あった。

アメリカ行きの飛行機にはまだまだ空きがあり、シーズンオフのためとても安かった。まず、アメリカに住む友人のシドニーに連絡をし、11月1日〜11月10日で彼女の友人宅に一緒に滞在させてもらえることになった。

そして、電話を切ってすぐにチケットの予約。

20代の集大成を飾る旅が急遽決まり、自分の人生がまた運命的に動いてきている気がした。ヨガに参加していなかったらカフェに立ち寄ることはなかったし、その女性たちにも出逢うことはなかった。彼女たちの話に耳を澄ましていなかったら、ニューヨーク行きを決めることはなかった。

もっと言えば、そのヨガ講師の友人に出逢わなかったら、その日は生まれなかったのである。ちょうど1年前、都内の某交流会で彼女に出逢った。夜の仕事を辞めたばかりで、違う世界の友人が増えたら良いなと思っていたのだ。

こう振り返ると、1年前から「20代の集大成を飾る旅inニューヨーク」は決まっていたんだな。運命の壮大さに改めて驚かされた。

スティーブ・ジョブズの

“You can't connect the dots looking forward; you can only connect them looking backward."
「将来を見据えて点と点を繋ぐことなどできません。過去を振り返ったときに初めて点と点が繋がるわけです。」

という言葉の意味を、心から理解できた時でもあった。

もちろん、今回のニューヨーク旅はとても素晴らしいものになった。20代の答え合わせ、そして30 代への問題提起。この想いは、改めて綴ることにする。

たくさん頑張ったね、20代の私。
ありがとう。お疲れ様。

バトンタッチ。

Thank you, my dearest 20s.
Hello, my precious 30s.

@YOGA studio

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