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片頭痛に対する鍼治療の効果と作用機序
鍼治療の有効性
海外の研究:
片頭痛の予防に対し、通常の治療に鍼治療を追加すると、2ヶ月後、4ヶ月後に片頭痛の日数が有意に減少することが示されています。
しかし、プラセボ鍼との比較では、全体的な頭痛日数の減少に有意差は見られませんでした。
ただし、episodicな片頭痛(月に15日未満かつ中等度以上の頭痛発作が8日未満)に限定すると、真の鍼治療の方がプラセボ鍼よりも効果が高いことが報告されています。
予防薬物療法との比較では、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月後の効果はほぼ同等です。
慢性片頭痛に対して、トピラマートと比較して、鍼治療の方が頭痛日数の減少に有意な効果を示した報告もあります。
片頭痛発作時には、鍼治療はプラセボ鍼よりも効果がありますが、トリプタンより効果は少ないとされています。
日本国内の研究:
日本では、片頭痛に対する鍼治療の効果を検証した研究は少ないですが、ガイドラインに基づいた鍼治療を併用したepisodicな片頭痛患者の報告では、2ヶ月間の鍼治療継続で、片頭痛日数が有意に減少しました。
専門医からの紹介で鍼治療を受けた患者の分析では、薬物療法で効果が得られない、薬物使用過多の既往がある、妊娠中の患者などが対象でした。
これらの患者に対し、1ヶ月の鍼治療で頭痛日数が軽減しましたが、episodicな片頭痛患者で約75%の軽減、慢性緊張型頭痛合併患者で約50%の軽減、薬物使用過多の既往のある患者で約30%の軽減、慢性片頭痛患者で約20%の軽減と、背景因子により効果に差が見られました。
慢性片頭痛よりもepisodicな片頭痛の方が効果が高いことが示唆されています。
鍼治療の作用機序
脳血流への影響:
鍼刺激は、局所だけでなく、全身性の反応を引き起こし、高位中枢にも影響を与えることが示唆されています。
ラットを用いた研究では、顔面部や四肢からの鍼刺激が、三叉神経や上脊髄反射を介して脳血流を上昇させることが報告されています。
このメカニズムには、マイネルト核を介したコリン作動性の反応が関与しているとされています。
麻酔下での研究では、鍼刺激が視床、中脳水道周囲灰白質、赤核などに影響を及ぼすことが示されています。
脳イメージング:
真の鍼は、延髄、中脳水道周囲灰白質、島などを活性化させ、体性感覚刺激の反応として鎮痛効果を発揮します。
プラセボ鍼は、海馬、扁桃体、帯状回などを活性化させ、情動系の回路を介して鎮痛効果を発揮します。
片頭痛発作時の研究では、鍼治療は視床や視床下部、島などの脳血流を増加させることが示されています。
鍼治療効果があった群では、右脳の前頭前野や帯状回の血流増加が認められ、右脳のコネクティビティが高いほど慢性化のリスクが高いことも示唆されています。
episodicな片頭痛患者では、鍼刺激によって視床、視床下部、弁蓋部、帯状回、島で脳血流量が増加しました。
慢性片頭痛患者では、初回は反応が乏しかったものの、4週間の鍼治療継続後に疼痛調節系に脳血流増加反応が見られました。
まとめ
鍼治療は、片頭痛の治療オプションとして、特に薬物療法が難しい患者にとって有用です。
episodicな片頭痛に対してより効果的であり、慢性片頭痛や薬物使用過多の既往のある患者に対しても一定の効果が期待できます。
鍼治療の作用機序は、体性感覚刺激と情動系の両方の経路を介して脳の疼痛関連領域に影響を与え、脳血流を変化させると考えられます。
今後は、慢性片頭痛など、片頭痛の細分類ごとに鍼治療の効果を詳細に検討していく必要があります。
引用文献:片頭痛に対する鍼治療効果とその作用機序
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