江戸時代の鍼灸術の書『療治之大概集』⑨
こんにちは、鍼灸やまと治療院です。『療治之大概集』の9回目です。
今回から、「巻の中」に入ります。まだ、しばらくは病の説明と使用穴です。
※『療治之大概集』の原文はこちら。
諸蟲門
【原文】
【意訳】
諸蟲門 寄生虫のこと
寄生虫は、大腸や胃といった腑に湿熱がたまっていると発生するものである。『外台秘要』という書には寄生虫は9種いると書かれている。どの虫も人の臓腑を食べるという。以下に9種を記す。
1.伏蟲 長さが4寸くらい
2.蛔蟲 長さが一尺くらい
3.白蟲 長さが4~5尺程度
4.肉蟲 爛れた杏子のような見た目
5.肺蟲 蚕のような見た目
6.蝟蟲 ヒキガエルのような見た目
7.弱蟲 瓜のなかご(柔らかい部分)ような見た目
8.赤蟲 生肉のような見た目
9.蟯蟲 菜につく虫のように小さい
これらの虫が大量に発生して心臓を突けば死亡する。
また、これ以外に寸白というものがいる。これは腰骨の上あたりに張り付き、陰嚢を苦しめるものである。
使用穴は、章門、不容、中脘、天突、巨闕、神闕(灸)、大横(寸白によい)、大赫(陰嚢が腫れるのによい)、などである。
【補足説明】
蛔蟲は回虫でしょうね。蟯蟲もそのまま蟯虫で良いのでしょう。
寸白はサナダムシですかね?白蟲も体長をみるとサナダムシだと思われますね。本郷正豊の『鍼灸重宝記』では、白蟲のところを寸白と書いています。ただし、こちらでは体長が一寸になっています。
『鍼灸重宝記』の該当部分はこちら
最初に出てくる『外台秘要』は唐の王 燾(670年-755年)が752年に編纂したものです。以下の文を参考にしていると思われます。
しかしながら、これ自体も『諸病源候論』全50巻を引用しています。『諸病源候論』は随・唐の時代の医師、巣元方(?年 - ?年)が610年に著したと言われています。引用部分を以下に示します。
口中門
【原文】
【意訳】
口中門 口腔の病のこと
口は脾胃が主っている。また、唇は胃が主っている。脾胃が邪気を受ければ唇に症状があらわれる。風邪が強い場合は唇が動く。寒邪が強い時は唇が上がる。熱邪が強い時は唇が裂ける。気が鬱滞するときは瘡ができる。
舌は心が主っている。風寒の邪気に中ると舌が強張り喋りづらくなる。
歯は骨の余りであり、腎が主っている。精気が強いときは歯が硬いが、腎気が衰えると割れてきてしまう。歯の痛みは胃の火邪である。虫歯で痛むのは、大腸や胃の腑の中の湿熱が有るのが原因である。
喉が腫れて痛み、瘡を生じて、喉が塞がり発声障害を起こしているのは、風熱、痰火である。すぐに治療しないと死亡する。
(使用穴)
一、喉痺には、天突、委中(効果大)、合谷、少商(刺絡が良い)。
一、喉の痛みには、天突、耳門(口が開きにくいのにもよい)。
一、口が熱するのは、頬車(痛むのにも良い)。
一、舌が急にでて。死にそうなものには、天容。
一、歯が痛み顎が赤く腫れるのは、水溝(人中)、合谷。
一、上歯が痛く、耳の前まで引き攣り口が開けにくいものには、頬車、合谷、大迎。
一、下歯が痛く、頬や項が赤く腫れて痛むものには、頬車、陽渓。
一、虫歯には、頬車、列欠、犢鼻。
眼目
【原文】
【意訳】
眼目 眼の病のこと
一、人間に両目があるのは、天空に太陽と月があるかのようである。様々なものを見ることのできる目というものは、大切な器官である。
目の病気は72種類あるといわれているが、ここには重要なもののみを記載する。
一、虹彩は肝が主っている。目頭は心、目蓋は脾、白眼は肺、瞳孔は腎が主っている。三陰交、風門、手足の三里、百会、肩井、肝兪などを使用する。
一、目の表面が曇り、ねっとりして目が開きにくいの場合、睛明、肝兪、合谷を使用する。
一、目に風があたり、ただれて涙が出るものには、睛明、攅竹、二間、糸竹空を使用する。
一、目に風があたり、腫れて痛み、膨らんでいるものには、睛明、攅竹、肝兪、委中、合谷、列欠を使用する。
一、目が急に赤く腫れて痛むものには、迎香、攅竹、合谷を使用する。
一、目が赤くなり、痛みがあり涙が止まらないものには、攅竹、合谷、臨泣を使用する。
一、目が赤くなり、痛むものには、承漿、百会を使用する。
一、逆まつ毛には、睛明、瞳子髎を使用する。
一、目が痛むものには、肝兪、中脘、石門を使用する。
耳門
【原文】
【意訳】
耳門 耳の病のこと
一、耳は腎が主っている。腎が虚したときは、耳が聞こえなくなり、耳鳴りがするものである。
左の耳が聞こえないのは、胆の火が動いているからである。
右の耳が聞こえないのは、色欲で相火が動いているからである。
両耳が聞こえないのは胃火である。
両耳が腫れて痛むのは、腎経に風熱の邪気があるからである。
両耳から膿がでるも、風熱の邪気によるものである。
一、耳が聞こえないものには、聴会、迎香、三里を使用する。
一、耳鳴りには、頬車、迎香、百会を使用する。
一、耳が痛むものには、耳門、肝兪、章門、頬車、風池を使用する。
今回はここまでです。
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