『地面師たち』を見ました
※注意
この記事は作品のネタバレを含みます。
読む際はご了承の上お進みください。
俺はハリソン山中のキャラクターが好みではなかった。
具体的には、過剰なサディストとしての側面が知能犯である地面師という背景にとってノイズに思えたからだ。
金が目的ではなく、他者を叩き落として奪うことが目的ならばその手段はもっと直接的で良かったのではと思う。
情報担当のシャブ中タケシタくらい直情的な犯罪者の方が見ていて爽快感がある。
キャラとしては嫌いだが、ハリソンのドラマの中での魅せ方は好きだ。
どうやっても太刀打ちできない犯罪者としての周到さを発揮して、二課の辰さんを殺すシーンは息を飲んだ。(ハリソンは二課にスパイを作っていた)
タケシタが沖縄でハリソンを裏切った後も、まさか現地にまで赴いて蹴り殺すとは思わなかったが、恐怖感とエクスタシーが重なる名シーンだった。
ハリソンの地面師チーム以外のヤクザ時代?からなる組織力が彼の力の源泉なのだと思うが、配下を惹きつけるほどのカリスマは感じられないのが疑問だった。あるいは配下は金さへ与えておけば動くと悟った人外視点のハリソンの思惑なのかもと想像したり。
一方、家族を奪われた拓海の抜け殻のような様子は真に迫っていた。
最後のエピソードで倉持刑事に告白するように、ただ復讐のためだけではなく地面師として他者を破滅させる瞬間に快感を感じていたというのは否定できない事実な気がした。
犯罪者には違いないが、拓海だけが最後の最後まで地面師ではなく「人間」であろうとした。その覚悟がハリソンとの戦いから彼を生還させた。
オロチくんのように軽率に地面師に憧れた小物は悲惨な末路を辿った。
ハリソンは作中でも人間じゃないと何度も言及されていた。その通りだと思う。
地面師になることは人間の理性を捨てること。ハリソンは人間は理性が壊れた動物だと述べた。土地の所有に執着するのは人間のみだと。
彼はその人間の理性に牙を向いた存在だ。
被害者である五洋建設ーひいては青柳ーはその人間の理性の極致の存在と言っていい。
存在しない、は言い過ぎだが人間しか理解できない世界では生きている。金、土地開発や出世、愛や情、一部不倫といった人間にしかない空想を追い求めて戦ってすらいる。
しかし、その極致にあるもの同士が惹かれ合うように彼らはその目的の達成に執念を燃やす。
光庵寺の現地視察で青柳がピエール五島に激昂したのはそういう意味だったのだ。
人間同士の争いではなく、人間と怪物の戦いとしてみると、怪物を退治出来なかったのはエクスタシーに欠ける。
しかし怪物に挑んだ人間のドラマは誰にフォーカスしてもー楓くんのような小物ホストや地面師メンバー、各種被害者たちー全員濃厚だった。