歴史伝「小野妹子」台本
【登場人物】
小野妹子(おののいもこ 生没年不詳)
飛鳥時代の官人。姓は臣。冠位は大徳
煬帝(ようだい 569年~618年)
隋(中国)の皇帝。暴君
妹子の側近
妹近と記載
煬帝の側近
煬近と記載
あらすじ
607年に隋(現在の中国)に遣隋使として海を渡った「小野妹子」 妹子という名前だが、男性である。 隋の皇帝は暴君と呼ばれる「煬帝」 隋と対等な関係を築く為、命を懸けた外交が始まる
1 船上
波の音
妹近「妹子様~!妹子様~!」
妹子「何?そんなに大きな声出して」
妹近「妹子様、隋が見えましたよ。多くの犠牲を出した今回の船旅でしたが、妹子様が無事に辿り着いて良かったです」
妹子「・・・あのさ、びっくりする事言っても良い?」
妹近「帰りたい以外なら何でも」
妹子「・・・じゃあ、言う事無い」
妹近「いい加減、腹を括ってくださいよ。さっきも言いましたけど、今回は多くの犠牲を出してるんです。妹子様を守る為に死んでいった者もいるんですよ」
妹子「だからだよ~。せっかく守ってもらったこの命を捨てに行くなんて」
妹近「大丈夫ですよ!太子様も大丈夫だって言ってたじゃないですか」
妹子「いや、運が良いってさー。根拠無いんだよ。それに隋の二代目の皇帝煬帝は暴君だってみんな噂してたし」
妹近「あのお方が大丈夫って言うんだから間違いはありませんよ。隋と対等な関係を築きましょう」
妹子「信頼しすぎじゃない?ここまで来るとパワハラだと思うんだよねー」
妹近「変な言葉を使わないでください」
妹子「俺、どうやって殺されるんだろ?どうせなら倭の国で死にたかったなー。煬帝、首だけでも船で送ってくれるっていう優しさを兼ね備えてないかなー」
妹近「どうせなら、殺さない優しさを兼ね備えてる事を願いましょうよ」
妹子「それは無いでしょー、流石に」
妹近「ほら、座り込んでないでビシッとしてくださいよ。もう少しで到着なんですから」
妹子「わかったよ~」
2 煬帝の間
煬帝が唸ってる。
煬帝「あー、退屈だ―。なんか面白い事ないかな~。誰か処刑すっか!」
煬近「煬帝様!煬帝様!」
煬帝「なに?」
煬近「倭の国から使いの者が来ております。何でも文を届けに参ったと」
煬帝「小さな島国の者がこのわしに文を」
煬近「追い返しますか?」
煬帝「いや、通せ。少しは退屈しのぎになる」
3 廊下
妹子「長い廊下だなー。もう疲れちゃったよー」
妹近「妹子様!」
煬近「申し訳ございません。もうすぐ着きますから、無事に帰れると良いですね」
妹子「え~、何それ~」
4 煬帝の間
妹子が咳払いをする
妹子「お初にお目にかかります。煬帝様。私、推古天皇の代理で参りました。小野妹子と申します」
煬帝「・・・妹子、妹子か」
煬帝が大爆笑。
妹子「(ひそひそ声で)何を笑われてるんだ?」
妹近「わかりませぬ」
妹子「名前で笑われるのは腹立つな」
煬帝「おい!何を小さな声で話しておる」
妹子「あ、いや・・・立派だなーっと、圧倒されておりました」
煬帝「当たり前じゃ!島国とは格が違う」
妹子「そうですよね~」
煬帝「それより早く文をよこせ」
妹子「は、はい。おい」
妹近「は!」
煬帝「なになに・・・日出る処の天子、書を没する処の天子に致す」
訳:太陽の昇る国の王より、太陽の沈む国の王に手紙を送る
妹子「(ひそひそ声で)おい、お前。あんなことが書いてあるって知ってたか?」
妹近「知っていたら、私も帰りたいと申しておりました」
煬帝「小野妹子と申したな」
妹子「は・・・はい」
煬帝「これは、我を侮辱していると捉えてよろしいのか?」
妹子「いや、決してそんな事はございません。倭の国は太陽が昇る方にありますので、それをただ記しただけだと思われます」
煬帝「ふーん。それで、どこにも隋の下僕になるという文言が無いのだが、もう一枚文はあるのかな?」
妹子「いえ・・・もう一枚は無いですねー。言伝なら預かっておりますが、今話すべきではないかなと」
煬帝「申してみよ」
妹子「いや、それはちょっと・・・」
煬帝「申してみよ!」
妹子「・・・煬帝様!推古天皇からの言伝をお伝え致します。倭の国は隋と対等な関係になる為に、ご挨拶の文をお送り致しますと」
煬帝「斬首だ」
妹子「ざ、斬首!?それはその、首を切り落とすという事でしょうか?」
煬帝「わしはそれ以外の意味を知らんが」
妹子「どうか!どうかお許しを!」
煬帝「わしの事を侮辱しておいてただで帰れると思うなよ」
妹子「終わった、あー終わった」
煬近「煬帝様!」
煬帝「なんだ?今から斬首の時間なんだが」
煬近「今、倭の国を敵に回すのは得策ではありません。高句麗が倭の国と同盟を結ぶような事があれば、今後の戦が不利になります」
煬帝「それはそうだが、このわしを侮辱したんだぞ!斬首だ!」
煬近「対等というのは解せませんが、今は堪えてください。まずは高句麗を滅ぼす事が先決です」
煬帝が唸り声をあげる。
煬帝「今日の所は生かして返そう。運が良かったと思え」
妹子「あ・・・はい。ありがとうございます。おい、帰るぞ」
妹近「待ってください妹子様。まだ返事を貰っておりません」
妹子「良いんだよ!命がある内に帰るんだよ」
煬帝「ああ、そうだ。まだ返事をしていなかったな。対等な関係といこうじゃないか。なあ、妹子よ」
妹子「え?良いんですか?」
煬帝「ああ、使者を連れていけ」
妹子「は!ありがたき幸せ!」
煬帝「おい!宴だ!長旅で疲れた客人をもてなしてやれ」
煬近「すぐにご用意いたします」
5 船上
波の音
妹子「生きてたな~」
妹近「さすが、運の良い男。まあ、結局文は頂けませんでしたけど」
妹子「いいんだよ。なんか言われたら賊に襲われたとでも言おう。もう、疲れた」
妹近「そうですね~」
妹子「まあ、これで私の名前も語り継がれるだろう」
6 次回予告
ナレ「大和朝廷は隋の情勢を予め知っていたのではないかという説があります。その為、この外交は無謀な賭けではなく、大国を相手にしたかなり高度な外交だったとも言えます。結果的に倭の国の国際的地位が上がった事により、天皇の権威も高めるという効果も、もたらしました。小野妹子という人物は冠位十二階の一番上の位「大徳」になったという説もある事から、優秀な人物だったのではないかと思われます。そして時は、ほんの少し進み、登場してくる人物が蘇我入鹿です。蘇我馬子の孫にあたる人物で、大化の改新に大きく関わってくる入鹿の物語は次回の百花繚乱歴史伝で」
※この物語は史実に基づき制作したフィクションです。諸説ございますので予めご了承ください。
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用語解説
遣隋使(けんずいし)推古朝の時代、倭国が技術や制度を学ぶために隋に派遣した朝貢使のことをいう
側近(そっきん)貴人・権力者などのそば近く仕える人
暴君(ぼうくん)暴虐な、人を苦しめる君主。
太子様(たいしさま)聖徳太子の事
皇帝(こうてい)帝国の君主「唯一神」という意味もある