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本当の意味で “誰ひとり取り残されない社会” って? 両育わーるど理事長 重光さんから学ぶ、ダイバーシティ・インクルージョンの実現に必要なこと

日本社会でも、オリンピックを機に「多様性」や「ダイバーシティ・インクルージョン」が注目されてきていますが、

2030アジェンダ にある「誰ひとり取り残されない」世界、そしてすべての人の当事者性を活かした社会にするためには、どんなことが必要なのでしょう?

今回インタビューするのは、NPO法人 両育わーるど理事長 重光 喬之(しげみつ たかゆき)さん。難病者の交流の場づくりや雇用創出など、ご自身の体験から難病者の支援に向き合い、積極的に取り組まれています。

この記事では「ご活動の背景」や「難病者の社会参加白書」の発行のエピソードについて、詳しくお伺いしました。

難病者の社会参加白書はこちらから(PDF・15MB)
https://ryoiku.org/wp-content/uploads/2021/09/2021_white_paper.pdf



重光 喬之(しげみつ たかゆき) NPO法人 両育わーるど理事長  2012年にNPO法人両育わーるどを立ち上げた後、自身と同じ脳脊髄液減少症の患者向けに状況共有サイトfeese.jpを2017年に立ち上げる。自身も症状により、フルタイムで働くことを断念した経験から難病当事者に向けた新しい働き方をつくるために勉強会も立ち上げている。
脳脊髄液減少症と”ほどほど”に付き合うためのライブラリーfeese https://feese.jp/             NPO法人両育わーるど  https://ryoiku.org/


ーー ご活動を始めたきっかけについて


15年前に脳脊髄液減少症を発症して、当時は見た目にはわからなかったので、24時間365日の激痛についてなかなか理解されませんでした。そこで一度、患者会に行ったんですね。

そうしたら同い年の男性の方が話をしてくれて、その人、30回くらい入院と手術をしていたんですよ。私はほぼ寝たきりで、この痛みは誰にもわかってもらえないと思っていたんですが、この人にはわかってもらえるかもと、そのとき気楽になれて救われたんですよね。今では友人です。

それと、当時ブログのコメント欄でやりとりしていた顔も知らない何人かの同病者の存在にも救われた気がします。でも、当事者同士のSNSの交流が増えていくにつれ、ネガティブな面も見えてくるようになっていました。

当事者同士仲良くなってくると、期待しすぎるところがあったり、お互いの小さな価値観のズレが気になってきてしまうところがありました。「あなたは家族の理解があるからいいよね」「治療を受けられる経済力があってうらやましい」など。当事者同士で助け合えるけど、しんどくなることもあるので、非交流の情報交換の仕組みを作ろうと、5年前に脳脊髄液減少症の人向けに情報共有サイトを作りました。これが今の活動の原点となっています。

これを作ってみて、みんな状況は違うけれど、困っていることは一緒だなと思ったんです。「学校どうしよう」「お金や仕事どうしよう」「恋愛・結婚どうしよう」「家族とどうコミュニケーションすればいいんだろう」とか、病名関係なく悩みは一緒で、病名を超えて、医療行為後の日々の生活について取り組みたいなと漠然と考えていました。 


ーー 「ご活動内容」と「白書ができた背景」について


病気で痛みがあっても「なぜ生きているかが実感できる役割」があると生きていけるなと実感しているので、私たちは「働く」を通して取り組んでいきたいなと思っています。

WHOによると痛みは4つに分類できるそうです。「身体的苦痛」「精神的苦痛」「社会的苦痛」「存在的苦痛」の4つです。


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「精神」と「身体」は医療や福祉があるのですが、仕事していなかったり制度から漏れるなどで、居場所がなくなって社会から孤立してしまう「社会的苦痛」は取り組みが少ないので、やっぱり役割を作ることをやったらいいなと思いました。

闘病中であっても "治療だけじゃない人生" があってもいいと思っています。「働く」って社会参加の方法として一番シンプルなものだと思うんです。

まずは知って貰わないと始まらないと思い、白書を作ることにしました。2018年に有志の当事者・研究者、団体・企業らと難病者の社会参加を考える研究会を立ち上げ、その中で就労事例作りや政策提言をしてきました。それらに合わせて客観的データとともに、当事者のリアルな声も必要だと考え、調査とエピソードを集めることにしました。




今回作成した白書は、当事者・経営者・人事・行政と多様な方々にアンケート調査をし、難病者の就労を多角的に可視化できないかとまとめました。

クラウドファンディングでの応援もあり、この年末に出来上がった白書を、1,915の都道府県・市区町村に送り、あわせて3つの提言と再調査もしました。自治体や議員の反応も少しずつ出てきました。


ーー 行政の仕組みに求めることは?


希少疾患などの難病は7,000以上あると言われていて、毎年制度は良くなっているんですけど、7,000あるので対応を何年待てばいいんだろうと思ってしまって。なのでアプローチとして、病名ではなくて、働きたいと思う人たちに対して何かやろうと思いました。

地域の自治体単位で、小さいロールモデルで何かできたらいいなということで、手帳がない発達障害や難病者のための雇用窓口を作って欲しいと伝える取り組みをしています。日本では唯一明石市さんがやっています。

すでに取り組んでいる自治体があるので、障害者雇用に該当しない指定難病の人たちに機会提供すれば、100万人以上の人の雇用機会が増えます。

他には、地方自治体の基本計画とか福祉計画の中で、難病の人たちについて言及してくださいということと、さらに国も定めていない指定難病でない難病の人たちに対して、就労機会を提供してくださいというのをお願いしています。


※ 明石市HP 
[障害者対象]事務職・技能労務職【2021年12月実施】

兵庫・明石市、発達障害者や難病患者も職員採用へ 「全国で初」 - 産経ニュース

兵庫県難病相談センター

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ーー 現状感じている課題はありますか?

日本の制度設計で重視されている「平等」「公平」は大事だと思うんですけど、厳密さを求めるあまり、新たな対応には年単位での時間がかかり、抜け漏れがあったりするのが大きな課題です。

もう一つは、障害者総合支援法の社会モデルや難病法の医学モデルでは対応できない、研究途上にあるような、呼吸、睡眠、痛み、極度の疲労といった症状の難病が対象にならないことも課題です。


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ーー 今後やってみたいこと


日本は皆保険制度があるから、生活保護でなくベーシックインカムのような皆生活保障のようにして、働きたいと思う人皆が利用できるような皆就労支援があればいいなと思います。

今社会ではSNS発信も気をつけないといけないし、ギスギスしているところもある、経済では成果を求められていて、効率を上げてパフォーマンスを上げないといけないとなっていて、遊びがなくなっていってしまっているのではと感じています。

だからみんなに毎月7万円あげるので、自由に働いていいとなったら、心にも生活にもゆとりができるんじゃないかなと思って、それを難病者からやりたいなと思っています。難病者の働く選択肢をつくれたら、その次は難病者の安心できる生活保障をつくりたいです。


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ーー 最後にメッセージをお願いします!

SDGsでは「難病」って言葉の記載がないんです。難病のある人が働きやすい社会は、ひとり親家庭、介護離職者、定年退職者の再就職など、何かしら制約のある人たちにとっても暮らしやすい社会になると思います。

誰もが何かしら制約や制限があるので、その人それぞれが働きやすく、暮らしやすく安心できる社会になったらいいなと思っています。どんな人もそれぞれに現場があるから、自分の場でできることをやっていくのが大事なんだろうなと思います。


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他、重光さんインタビュー

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