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⑧プロセスを大切に!

〇皆さんこんにちは。ここでは初心者の方にも分かりやすく、順番に演技のことについて説明していきたいと思っています。演技の勉強をしたいという方はぜひご参考になさって下さい。
〇今回のテーマは「プロセスを大切に!」です。

初めてみたいに演じる!?

〇前回、あらかじめ台本を読んで知っている内容を、そのとき初めて体験したように演じるのは難しいというお話しをしました。嘘に見えない生きた演技をするためには、先のことを考えず、前に覚えたことをなぞろうとせず、今そのとき・その場を生き、感じることが大切です。これは非常に重要なポイントとなりますので、今日はセリフだけでなく演技全般の話しとして、このことを詳しく説明していきたいと思います。

結果を急がず・期待せず。プロセスを大切に!

〇例えば、「学校から帰ってきて自分の部屋の勉強机の前に腰掛けたら、引き出しから未来からやってきたロボットが飛び出してきて驚く」という場面があったとします。何も知らずにこんなことがあったらそりゃあもう驚いてひっくり返るでしょうけれども、あらかじめ知っていて、ばっちり驚いた演技をしてやろうと身構えていた場合はどうでしょう? 素直に驚く演技はできず、わざとらしくなってしまいそうです。
〇こういう場合、役者に起こりがちなのが「早く結果にたどり着きたい」という心理です。人は「どうなるか分からない」状態が続く緊張を維持するのは大変で、ぶつかるのかすれ違うのか、当たるのか外れるのかといった結果に早くたどり着いて安心したいと無意識に思う傾向があります。引き出しからロボットが出てくるという場面についても、とにかくオチである「びっくりしてひっくり返る」という演技まで早く済ませてしまいたくなってしまうのです。

観客がみていて美味しいのはプロセス。しっかり見せよう!

〇しかし、実はお客さんが観ていて楽しいところは結果よりもプロセスにあることが多いのです。ラブシーンではキスするかしないか、キスしそうだけど本当にするのかやめておくのか、まだ分からないその瞬間がどきどきして楽しいところ。殺し合いの場面では突き立てたナイフで刺してしまうのかやめておくのか、その瞬間がハラハラして息をのむところ。それをすっとばしてすぐ結果を見せてしまってはせっかくの劇的な場面が台無しです。皆さんはぜひ、プロセスをしっかり演じ、味わってもらえる役者になって下さい。

プロセスを大事にしっかり踏む

〇あらかじめ知っている台本の内容を、今その瞬間を生きているように演じる、結果を急がずきちんと演じるためには、結果にいたる過程(プロセス)をいい加減にせず、ひとつひとつポイントを意識して演じることが大切です。そうすることで、前にやった稽古を思い出してなぞろうとしたり、先のことを考えて用意したりといったことをせず、登場人物として今その瞬間に生きることができるようになります。
(※前回の「本当に伝える」でも、順番にひとつひとつ相手に説明する練習をしてもらいましたよね!)
〇先ほどのロボットの例で言えは、びっくりしてひっくり返るという結果について、学校から帰って来たばかりののび太…あ、のび太って言っちゃった、ええと、のび太郎はですね、学校から帰ってきた時点ではどらえ…ロボットが引き出しから出てくるなんてまったく知らないはずです。彼はなにもびっくりしてひっくり返るために部屋に入ってきたわけではありません。
〇ではなぜ部屋に入ってきたのかというと、何か理由があるはずです。例えば、学校から帰ってきたからまず自分の部屋に戻って重たいランドセルをおろし、ママの目の届かない自分の部屋で寝っ転がってマンガを読もうとしている、とか。

目的があり、プロセスがある

〇彼が「寝っ転がってマンガを読む」という目標を達成するためには、その前に枕にする座布団を用意し、机の上にあるマンガを手に取らなければなりません。そのためにはランドセルを置いて押し入れから座布団を出さなければならず、部屋に入るためには部屋のドアを開けなければなりません。
〇このようにプロセスを分解して考えると、彼は「寝っ転がってマンガを読む」という目標を達成するために、それに向かうための小さな目標をいくつもクリアして進んでいることが分かります。
〇部屋のドアを開ける→部屋の中に入る→ランドセルを置く→押入れを開ける→座布団を取り出して置く→勉強机に腰掛けてマンガに手を伸ばす。これらひとつひとつの動作に意味があり、彼はひとつめの目標をクリアするとその次、それができるとその次、というふうにきちんとプロセスを踏んでいます。彼が踏んでいるプロセスを意識して、とばさずにひとつひとつ行っていくことで、役者は「今そのとき」にいることができるようになります。

今に集中すれば結果にとばない

〇今回ののび…のび太郎の例で言えば、役者が何も考えずただ「びっくりしてひっくり返る」という結果を目指して演技をしようとすると、先のことを知っていて身構えているだけの嘘の人になってしまいます。それは実際の彼とは違ってしまっています。生きている彼は先のことを知らず、その時その時の「今」を生きています。しっかり「今何をしようとしているのか」を演じることで、役者も「今」を生きることができるようになります。
〇座布団を敷いているときはそのことを、マンガを手に取ったときにはそのことを考えていれば、このあとにやってくるハプニングを先回りして考えずに済みます。
〇台本から役の目的やセリフ・行動の理由を読み取り、細かいプロセスをしっかり意識することができれば、観ていて自然な演技になりますし、何度繰り返しても新鮮さが失われることはありません。段取りで覚えていたのに忘れてとばしちゃった、といった失敗も起きにくくなります。
※「セリフがないとき、舞台上で何をやっていたらいいか分からない」なんて声を聞くこともありますが、人は黙っていても何かをやろうとして生きているわけで、今回ご説明したようなことを理解できていればそういった疑問も解消されるはずです。

人間が無意識にやっていることを意識的に

〇人は常に色んなことを考え、目的や理由をもって動いていますが、いちいち意識せず無意識にやっている行動も多いものです。今回ののび太郎の例のような細かいことを、いちいち「よし、座布団をとるために押入れを開けるぞ」と強く意識することの方が少ないかも知れません。
〇しかし、役を演じる役者はなんとなく無意識で動くわけにはいきません。普段私たちが何気なくやっていることを、意識的に行うそれが役者の仕事だとも言えます。人間に興味がなければ役者は務まらないと言われるのはそういう理由もあるのです。

どんどん練習してみて!

〇今回ご紹介したように、細かく人の行動のプロセスを分析して演技に活かすやり方は、知らなかった人にはまったく新しい情報かも知れません。これも慣れですから、今回ののび太郎の例を参考に、ご自分や家族の生活の一場面や、台本の登場人物のある場面についてプロセスを解析するなどして、どんどん練習してみて下さい。
〇こういうことがスムーズにできるようになると、演出を担当したときや、部活で後輩に指導してあげるときにも便利です!

〇今回は「プロセスを大切に!」ということをテーマにお話ししてみました。皆さんの演技力向上にお役立て下さい。
〇演技について学ぶべきことはたくさんあります。今後も少しずつだんだん情報をお伝えしていきたいと思っておりますので、焦らずリラックスしながらお読みいただき、ご参考にしていただけたらと思います。ご質問等ありましたらお気軽にご連絡下さい。

※情報はどなたでもお読みになれるよう無料公開させていただいておりますが、無断での転載や引用等はご遠慮下さい。

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