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⑬話す人は聞く 聞く人は話す

〇皆さんこんにちは。ここでは初心者の方にも分かりやすく、順番に演技のことについて説明していきたいと思っています。演技の勉強をしたいという方はぜひご参考になさって下さい。
〇今回のテーマは「話す人は聞く 聞く人は話す」です。

話すこと、聞くこと

〇⑫「役になるってどんな気分?」の回と、⑦「本当に伝える・本当に聞く」の回で、仲間やお友達を相手に聞いたり話したりする練習をご紹介しました。
〇相手にしっかり伝えたり、相手からのものをしっかり受け止めたりするのは基本的なことですが、演技をする上で非常に重要な要素となります。今回はもう少し、聞くこと話すことについてご説明をしてみたいと思います。

話す人、聞く人。その場面ではどちらが大事?

〇お芝居のある場面でAさんが話し、Bさんが聞いていたとします。観客にとって重要なのは話しているAさんでしょうか? 聞いているBさんでしょうか?
〇いじわるクイズのようですが、答えは「AとB両方同じくらい重要」です。もう少し言えば、大切なのはAまたはBという役者単体なのではなく、二人が協力して作りだしている空気、見せている関係性やドラマが重要なのです。

話している人より聞いている人の顔が観たい

〇例えばAさんがBさんに衝撃的な告白をする場面があったとします。「実はあの手紙を書いたのは私だった!」とか、「本当はずっと前から知っていた!」とか。その瞬間お客さんが観たくなるのは、衝撃的な告白をしているAさんより、それを聞かされたBさんがどんなふうに受け止めるのか、どんな顔をしているのか、聞いているBさんの反応です。Aさんが発したものをBさんが受け止める。二人の役者が協力して関係性を見せることで、Aさん一人では作ることのできない魅力的な場面にすることができるのです。

みんな必要。みんな大事。みんな責任がある。

〇特定のスターやアイドルを魅力的に見せることに特化して、他の出演者はそれをひきたてるために仕事をするといった種類の公演もありますが、そういった特別なものをのぞけば、台本に書かれている登場人物は作品に必要だから登場しているわけで、全員重要となります。セリフや出番の多い少ないはあっても、いなくてもいい役はなく、無責任にやってよい役はありません。先の例のように、セリフはなくても黙って聞いている役が大きな働きをすることもたくさんあります。皆さんがお芝居を作る時は、お互いの重要性を理解して、お互いに相手を尊重しながらベストを尽くすようにして下さい。

「受け手」がいることで見せられること

〇例を出してもう少しご説明しておきます。役者がひとりでは表現しずらいことも、共演者が反応してくれることによって上手く見せられるケースがいろいろとあります。

例:店に美女が現れる。

〇さあ、あなたはこの作品のヒロインの美女です。今から主人公がヒロインに一目ぼれをする重要な場面です。美女として店に現れましょう! と言われても、美女を演じろと言われても困ってしまいます。衣装やメイクは精いっぱい工夫するとして、演技として何かできることがあるでしょうか? セクシーなポーズをとってみたり、優雅に踊りながら入店したりということをしてみても、ひとりでそれをやっていたら不自然ですし、美女というより変わった人だと思われてしまいそうです。
〇ここで彼女を助けるのが共演者たちということになります。それまで店の中でおしゃべりをしていた男たちが、彼女が入ってきたとたんに思わず話しをやめ、全員が目を見開いて彼女に注目してしまう。(おい、あんな美人この街にいたのかよ、お前知ってるか?)なんて目くばせし合う男たちもいます。そんな中、ことさらに主人公は彼女に目を奪われ、店に入って来た彼女がテーブルにつくのをずっと目で追っています。彼は、「おい、どうしたんだ」と仲間に肩をたたかれ、やっと我に返りました。これならどうでしょう? さぞかし魅力的な女性が現れたのだろうと感じませんか?

他の役者たちが反応を示し、彼女のためにきちんと演技をすることで、彼女自身が変なクサイ演技をしなくても、彼女が魅力的な美女であることを表現することができるわけです。
〇ある登場人物を強そうに見せたい、怖そうに見せたい、いろんなケースがありますが、本人が何かすると「それを宣伝したい人」にしか見えなくなりがちです。そんなときは共演者がどうしたらいいのか考えましょう。
相手役がやりやすいように、相手役のために何ができるかを考えるのが演技の基本です。演出担当の方もぜひ参考になさって下さい。

話す人は聞く 聞く人は話す

〇受け手の演技の重要性を確認したところで、今回のテーマ「話す人は聞く 聞く人は話す」についてご説明したいと思います。
〇私たちは誰かと話しをするとき、普通、(意識していなくても)相手の反応を感じ取りながら話しています。あらかじめ話したいことを用意していたとしても、相手の反応を見ながら言葉を選んで言うことを変えたり言うのをやめたりすることも多々あります。話しをしている人は、話している側ではありますが、実際は相手の反応を敏感に察知しながら、相手の心の声を聞きながら話しているわけです。
〇一方聞いている人は、黙って聞いていたとしても、「難しくてよく分からないな」「へえ! びっくりだよ」「嬉しい話だな」「え、聞くの怖いな」といった心の声を、表情の変化や瞳の変わり方、微細なしぐさ等で表し、相手に伝えています。聞いている人は聞いている側ではありますが、実際には能弁に心の声を相手に発信しているのです。

〇講演会や講義で話しをするのが上手な人、上手な司会者やMCといった人たちは、喋りながら聞く側の心の声をよく聞いています。しゃべりながら、相手が退屈してきたなと感じたら話し方を変え、手ごたえを感じるところはより深く話したりといった工夫をしています。話しを聞いている人たちは声には出さなくても、その瞬間瞬間の感想を話し手に向けて発しているのです。

長いセリフの間にもやりとりがある

〇では、話しを演技に戻しましょう。いつもお話ししている通り、台本に描かれた登場人物も私たちと同じ人間です。話している人は聞いてる人の心の声を聞きながら話し、聞いている人は聞きながら心を声を発しています。
〇AさんがBさんに長いセリフを語り続けるような場面があったとしても、一方的にAさんが言葉を投げつけているのではありません。BさんはAさんのセリフを聞きながら心の声を返し、AさんはBさんの心の声を聞きながら、それを踏まえて次のセリフを発していくのです。この「やりとり」がとても重要です。つい「セリフを話すこと」ばかりに意識が向きがちですが、聞いている人がちゃんと聞いて反応を返すことができるか、話している人もその反応をキャッチしながら次のセリフにつなげることができるかが重要なのです。
〇長いセリフの読み方を考え、家で練習してきたとしても、実際に相手役に聞いてもらったときにどんな言い方になるかはやってみるまで分かりません。私たちが普段、言うことを用意してあったとしても、相手の出方次第でどこまで何を言うかは分からないのと同じです。

聞くときも話すときも、聞き上手な役者に!

〇今回は話すときも聞くときも、お互いの「反応とキャッチ」が大切だということをお話ししてみました。ぜひ「聞き上手」な役者さんになって下さいね!
※余談ですが、学生さんは学校の授業や講義でも、うなずいたり「なるほど」という反応を示したりといった聞き上手な反応ができると、授業態度の評価が上がると思いますよ。クサくならないようにやってみて下さい。

〇今回は「話すことは聞く 聞くことは話す」ということをテーマにお話ししてみました。皆さんの演技力向上にお役立て下さい。
〇演技について学ぶべきことはたくさんあります。今後も少しずつだんだん情報をお伝えしていきたいと思っておりますので、焦らずリラックスしながらお読みいただき、ご参考にしていただけたらと思います。ご質問等ありましたらお気軽にご連絡下さい。

※情報はどなたでもお読みになれるよう無料公開させていただいておりますが、無断での転載や引用等はご遠慮下さい。


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