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入居に対する不安を払拭!『オーナー向け身体障害者 入居受け入れセミナー』レポート

“一人ひとりの多様なバックグラウンドを理解し、当事者の住まい探しに寄り添う”というLIFULLの考えに賛同する不動産会社・オーナーに向けて開催している、「FRIENDLY DOOR セミナー」。住宅弱者に関する知識を深めて現場での対応や物件管理に活かせる情報を、このセミナーを通してお伝えしています。
去る2022年8月25日、通算10回目となるセミナー「オーナー向け身体障害者 入居受け入れセミナー」が開催されました。

講師は、東京都の住宅確保要配慮者居住支援法人の指定を受け、障害者の住宅支援に精通しているメイクホーム株式会社代表取締役社長の石原幸一さん。
身体障害のある方の入居受け入れに“不動産オーナー”ができることを語っていただきました。



障害者の方の入居に関するオーナーの不安を解消するために

オンラインで開催されるFRIENDLY DOORセミナー。今回も全国からたくさんの方にご参加いただきました。
セミナーの冒頭に、ご自身も視覚障害者である登壇者の石原さんのプロフィール、メイクホーム株式会社の住宅確保要配慮者に仲介する実績を紹介いただき、本題に入ります。

今回のテーマである身体障害者の話題に入る前に、身体障害者も含まれている“住宅確保要配慮者(※1)”の方が今どれだけいるのかという現状が共有されました。
現在日本の全人口のうち、70歳以上の高齢者、障害者、生活保護利用者など、部屋を借りづらい属性の人・住宅確保要配慮者は25%程度を占めているそうです。
約4人に1人という比率と、日本の人口が年々減っていることを鑑みると、「誰に貸したいか」をオーナーや不動産会社が選ぶことは今後さらに難しくなるだろう、と石原さんは言います。

しかしながら、障害者の方が入居することに抵抗のあるオーナーや不動産会社は少なくありません。石原さんもそのことには触れつつ、障害者の方の入居も適切な対応をすることでリスクを軽減でき、安定した不動産経営につなげることができる、と説明。

石原さんによると、障害者の方(特に車いすの方)は、一般の人より3~4倍長く入居する傾向があるそうです。転入転出の出入りが少ない分、原状復帰やリフォームなどの費用が抑えられ、利回りが良くなる、とのこと。空室のリスクも減るといいます。
また、適切な対応を知っているオーナーや不動産会社は、障害者の方からの厚い信頼も得られ、ロイヤルカスタマー(※2)となり得るのです。

その後、今回のテーマ “身体障害者”に特化して話が進みます。
身体障害の種類には、内部障害や言語・咀嚼障害などもありますが、今回のセミナーでは主に、肢体不自由による車いす利用者視覚障害者聴覚障害者の事例を取り上げます。
①来店→②物件探し→③内見→④申込審査→⑤契約→⑥引越し→⑦入居後の各所で留意すべきことと対応策について、障害の事例別に不動産会社の接客方法や入居者の目線での必要な設備等をご解説いただきました。

このレポートでは、その中でも不動産オーナーが気をつけておきたいこと、覚えておいておきたいことをピックアップしてご紹介していきます。

※1 住宅確保要配慮者……住宅セーフティネット制度に基づいて定められている、一般的な賃貸物件に入居に困難がある人たちのこと。具体的には、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、18歳未満の子を育てている子育て世帯など。

※2 ロイヤルカスタマー……Loyal Customer。売上貢献が高く、さらに企業やブランドに信頼を寄せてくれる顧客のこと。

▼参考『知っていますか? 住まい探しが難しい人のための「住宅セーフティネット制度」』


車いすの方を受け入れるときに覚えておきたいこと

車いすの方の対応

最初のトピックは、肢体が不自由で車いすを利用している方に必要な接客と入居のための対応です。

健常者に向けた物件を所有しているオーナーが車いすユーザーにお部屋を貸そうとしても、やはり動線や駆動域が異なるため、そのままというわけにはいきません。
では、車いすの方に使いやすい物件はどういったものなのか。
車いすを使用する方に適する物件の特徴として、玄関から入ってすぐに曲がり角がない、エレベーターに奥行きがある、段差が少ない、段差があってもスロープや手すりがある、といった点を挙げていました。
これから集合住宅を建てる方、所有物件をリノベーションする方には、非常に参考になるポイントです。

また、管理会社や保証会社の選定についても話が及びます。
車いすユーザーの入居を視野に入れている場合、オーナーが管理会社を選ぶ際には、原状回復に強い管理会社を選ぶとよいそう。なぜなら、車いすを利用しているとどうしても床に傷がつきやすくなるためです。
保証会社に関しても、最近では障害者の方にも手厚い保証会社が登場しているそうです。選定時には保証会社の特色をよく調べること、難しい場合には特約で室内設備の破損をカバーする火災保険を勧める、という方法を提案していました。

そうしていざ入居となった場合、入居者の要請に対して許容してほしい点があると話されました。
具体的には、手すりやスロープの設置、共用部に物を置くこと、トイレや浴室などへの手すりの設置、場合によっては車いすを外に置くこと…などです。
入居者による室内の改造は一般的には物件の価値を下げると思われがちですが、手すりの設置などのバリアフリー化は、のちのち高齢入居者の役に立つこともあるとのことでした。


視覚障害者の方を受け入れるときに覚えておきたいこと

視覚障害者の入居の対策

続いては視覚障害者の入居に関してです。

健常者の場合、認知行動の約80%を視覚から情報を得ていると言われています。
視覚障害者の方の入居が倦厭けんえんされる理由として、目が見えないことから「火災を起こしてしまうのではないか」「室内を汚すのではないか」という懸念がよく聞かれるそうです。
ですがその実、ガスコンロではなくIHクッキングヒーターにすればリスクを低減することができ、目が見えない分手先をよく使うので室内をきれいに保つ人が多いといいます。
実際、石原さんも社内のほこりなどによく気がつくとおっしゃっていました。

さらに、一概に視覚障害といっても、先天性・後天性によって、対応の仕方にも差が出てくるそうです。
たとえば室内外の段差でも、先天性の場合は段差をあまり気にしない方が多いとのこと。同席したメイクホームのスタッフの方いわく、白杖を使ってすいすいと上り下りできる様に驚いたそうです。
また先述のキッチンのコンロに関しても、先天性の視覚障害の方はガスでもIHでも問題なく扱える方が大半とのことでした。

一方、後天性・中途視覚障害の方には、手すりやスロープを用意したほうがよいことが多いのだそうです。
セミナー内では語られませんでしたが、この差が生じるのは、先天性の方は盲学校などでの歩行訓練を受けているからとのことでした。
先天性の方と比べて経験値の少ない中途視覚障害の方には、日常生活をフォローするための補助器具の取り付けによって、安全に過ごせるよう配慮することができるのです。

そのほか、室内照明についても、留意が必要となります。
昨今の室内の照明のスイッチは、押し戻し式が主流。消灯時に内蔵のLEDが点灯する位置表示灯を思い浮かべてみてください。
この方式のスイッチでは、視覚障害者の方はonとoffが分かりません。
そのため、かつて主流だった押すと反対側が突出するタイプのスイッチにするなど、室内設備の配慮をお願いしたいと話されていました。


聴覚障害者の方を受け入れるときに覚えておきたいこと

聴覚障害者の入居の対策

聴覚障害のある方に関しては、耳が聞こえないこと以外には健常者となんら変わらず生活できる、と石原さんは言います。

ただ、知ってもらいたいこととして、声や生活音の音量が大きくなる傾向がある、という特徴を伝えられていました。
これは、聴覚障害によって自分の声が聞こえず、自身の声のボリュームの調整が効かないためです。
音に関する問題は近隣のトラブルの元となることもあるため、オーナーや不動産会社が気をつける点として、しっかりと対応してくれる管理会社を選ぶことが重要だといいます。

また、物件の“音”を用いる設備、たとえば玄関ベルや火災報知器などの警報音を聴覚障害者の方が感知するためには、音を光に変えて伝えるパトランプの使用が必須になります。
設置にかかる費用は入居者の負担となりますが、オーナーにこの設置に対する理解をお願いしたいと話されていました。

さらに話題は、緊急時の連絡方法に及びます。
入居者への連絡をオーナーが直接することは少ないですが、不動産会社や管理会社が入居者と緊急の連絡を取る際、主に電話でのやりとりが多いのではないでしょうか。
しかし、聴覚障害のある人との通話はかなり難しいです。緊急時の連絡方法として、電話対応だけでなく、メールやLINE等視覚でのやりとりができる方法を活用して、連絡が取れるように態勢を整えなければなりません。


障害者とひとくくりにせず、一人の人として入居審査を

石原社長からのお願い

セミナーも終盤に入り、石原さんからセミナー受講者へ、障害に対する寛容な社会の実現のためのお願いが2つ伝えられました。
1つ目は、障害があるというだけで入居を断らないでほしいこと。
2つ目は、障害者は健常者と比較すると長く住むため、一度入居してもらえれば、空室のリスクが減り、賃貸経営が安定する利点を知ってほしい、ということです。

そして、居住支援不動産投資についての説明に話が続きます。
居住支援不動産投資とは、築年数が長い物件を購入し、リノベーションをして障害者の方に借りてもらう、社会貢献型の投資のことです。
昨今増える空き家問題の解決法のひとつとしても提案されていました。

障害者の方の入居受け入れはリスクや不安が付きまといますが、石原さんは「障害のある方に関しても少し事前に準備をしておけば、安全に入居できるので、ぜひそういう方のために物件を提供してもらえれば」と強く背中を押して、講演の締めくくりとしていました。

実際、今回セミナー内で紹介いただいたノウハウは、特別に資格や申請が必要なものではなく、“配慮”の範囲ともとらえられます。
対応のノウハウがあれば、リスクや不安は解消することができます。
人の暮らしと密接に関わる不動産は、社会情勢に大きく影響されます。逆説的ですが、障害者の方が入居可能な物件の数が増え、住まいの選択肢が増えることが、社会全体の障害に対する寛容さにつながるのではないか、とも思える講演でした。

その後の質疑応答では、障害者に限らず高齢者や生活保護受給者などの事例も交えて20分以上かけて親身な回答が行われ、正味約1時間半のセミナーが終わりました。


セミナーを受けたオーナーの声

セミナー終了後に毎回行っているアンケートでは、石原さんの講演内容に約8割の方が「満足・まあ満足」と回答。

その理由に、
「障害者の方の入居に関して考えておく必要があることを分かりやすく説明いただけました。参考になりました」
「障害者の受け入れについてまったく分からなかったが、全体のイメージがつかめて満足」
といった声が寄せられました。

また、セミナーを通して学びを得た方が多くいた様子で、ポジティブな感想が集まりました。
「やはり障害のある方を受け入れるには手間がかかる部分があるので、障害に理解があって信頼できる管理会社さんと連携をしっかりととる必要があると感じました」
「障がいをお持ちの方は、住居探しも苦労されているんだということが分かった」
「自分も協力したいと感じました」
「障害のある方に対しては、事故やトラブルの心配をしてしまうが、少しの工夫とサポートがあれば健常者と比べても大きな問題は起きないということがよく分かった」

石原さんをはじめ、メイクホーム株式会社の社員の方の現場の声を聞いて、より具体的な対応イメージができたのではと思いました。


おわりに

質疑応答で「障害者の方の入居に関する不安の払拭には?」という質問に、その都度対応すれば大丈夫という言葉に加えて「障害を知ることですね。障害にも種類や程度がさまざまあると知れば、何かトラブルが起きた際に、それが障害とどう関係しているのかが分かるはず」という石原さんの言葉が印象的でした。
今後もACTION FOR ALLでは、住宅弱者の支援を知る機会を続けていきます。ご興味のある方は、ぜひLIFULL HOME’S BusinessLIFULL HOME'S アカデミーのページをチェックしてみてください。


プロフィール

石原幸一(いしはら・こういち)
1965年生まれ、東京都足立区出身。高校在学中から数社掛け持ちして働き、高校卒業後20歳で医療機器システム開発の会社を起業。超音波診断装置・MRIなどの医療機器の設計開発やPCサポート、人材派遣業と事業を拡大し、26歳で約6社を経営する。大手建築会社との公共事業で障害者の住まいの問題に直面し、2010年1月株式会社メイクホームを設立。2018年には東京都の住宅確保要配慮者居住支援法人の指定を受け、企業視点での幅広い住宅弱者支援を行う。

▼参考
『FRIENDLY DOORセミナーレポート/「生活困窮者の居住支援」認定NPO法人抱樸 奥田知志さん』

『生活保護利用者、障害者、高齢者……不動産会社の取組みに見る住宅弱者の現状』

『不動産会社ができる居住支援 メイクホームが取り組む「福祉事業」とは』

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