森と自然を豊かにする金融:Comorisグリーンリビングラボ探求講座05
2024年9月18日、Comoris グリーンリビングラボの最終回にあたる第5回目を実施しました。本イベントはACTANT FORESTとDeep Care Labの共催による都市の森を探索する全5回の講座シリーズです。イベント全体の趣旨や他の回の内容については、以下のリンクをご参照ください。
このシリーズでは、都市の「森」とは何か?という問いを設定して、インフラ、アート、生態系、コモンズといった多様な角度から考察を進めてきました。第5回目は、ReFi Japanよりビニールさん、F太郎さんに登壇していただき、デジタルテクノロジーから見た「アーバンフォレスト」の可能性についてアプローチしてみます。
今回の中心的なテーマは、Web3やDAOの根本的な理念や哲学に基づいた、リジェネラティブファイナンス(以下、ReFi)についてです。経済合理性が優先されがちな都市において、比較的収益性の低い「緑地」という空間を増やすためにはどうすればいいのか? Comorisのような都市の森を各地域につくっていくために必要な仕組みは何か? そのような問いに対する回答のひとつを探索しました。
デジタル公共財としてのブロックチェーン(ビニールさん)
まずはビニールさんから、Web3の基本的な仕組みについてお話しいただきました。Web3の基盤となるブロックチェーンは、決まったルールの下、みんなで取引履歴などデータの塊を持ち合い、誰もが確認できるようにすることで、改ざん不可能で恒久的にデータを保持できる分散型台帳です。
Web3の本質も、ブロックチェーンと同様に、特定の企業や団体を中心におくことなく「みんなで分散的に管理できる」という点にある、とビニールさんは言います。
Web2からWeb3への移行:コラボレーションを基軸とするパラダイムシフト
ブロックチェーン等のWeb3技術で実現する自律分散組織のことを「DAO」と言いますが、Web2からWeb3に移行する中で、今後はDAOが国や企業と並んで、社会の流れをつくるような重要なプレイヤーになるのではないかとビニールさんは言います。
より多くの人の力でインパクトを:DAOによる投資の意味の変化
また投資に関しても、ブロックチェーンを使うことで公共財にリソースを回しやすい環境がつくれるのではないかと言及します。
代表的な事例としてGitcoinという公益的なプロジェクトに対する寄附プラットフォームがあります。Gitcoinには、「Quadrartic Funding 」という革新的な資金調達の仕組みがインストールされています。これは、クラウドファンディングの過程の中で、同じ金額でも一人の人が払ったプロジェクトよりも、複数の人が払ったプロジェクトに対して、より多くの資金が付与されるという仕組みです。例えば、一人が提供した1万円と、10人が1,000円ずつ出した合計としての1万円では、後者の方によりインパクトがあると考えます。これにより、大規模投資家よりも小口投資家の影響力を強めることができます。
詳しくは、以下の記事にとてもわかりやすく解説されているので、ぜひ参考にしてみてください。
これまでGitcoinでは、63,700万ドル(日本円でおよそ100億円)が世界中のプロジェクト、主に公共財や地域経済、またオープンソースの活動などに対して投資されているということです。
ビニールさんは、DAOによって投資の意味合いも変わるのではないかと言いいます。
ReFi :生態学的、社会学的インパクトを重視した新しい金融システム(F太郎さん)
続いて、F太郎さんに、ReFiについて解説していただきました。 ReFi(Regenerative Finace)は、日本語では再生金融、再生型金融などと訳されます。Web3技術を活用して、生態学的、社会学的インパクトを重視した新しい金融システムを構築するという概念です。その理論的背景には、経済学者のジョン・フラートンが提唱した「リジェネラティブ・キャピタリズム」があるそうです。
ReFiは、これらの思想とWeb3技術とを組み合わせることで、透明性と効率性を向上させた分散型システムによる参加型経済の実現を目指しています。
Refi成立の背景には、DeFi (分散型金融、Decentralized Finance)の存在があるそうです。中央集権的な金融機関を介さずに金融サービスにアクセスできるというのが分散型金融ですが、ReFiはその概念を環境や社会的な価値の創出まで拡張したもので、環境・社会的価値を金融システムに直接組み込むことを目指しています。
もうひとつの背景には、気候変動や所得格差に対して、従来の金融システムでは十分に対応できていないという問題があります。ESG投資のように企業が社会的な責任を果たす重要性も増してきていますが、パリ協定を実現する上でも新たな経済モデルが必要だと言われ、現在の金融システムでは対応できないことが数多くあります。こうした中で、2021年頃から具体的なReFiプロジェクトが登場し始めたということです。
ReFi プロジェクト事例:森と自然への投資、関係人口を増やす
その先駆的なプロジェクトのうちのひとつが、F太郎さんも関わる「KlimaDAO」です。F太郎さんは、社会に役立つブロックチェーンの使い方を探索する中でKlimaDAO のメンバーになり、2021年10月に日本でもKlima DAOJapanを立ち上げました。
KlimaDAOとは、カーボンクレジットをブロックチェーンベースで取引できる取引所を開発するなど、気候変動対策に対する資金提供を増やすことをミッションにした分散型組織です。日本でも展開が始まり、ステーブルコインという日本円などの法定通貨に連動する暗号資産によってカーボンクレジットを支払えるようにしています。
現在、長崎県西海市と連携し、市内で創出される環境価値からカーボンクレジットを生み出し、それをブロックチェーンにして、市が運営するメタバースやエコバースNFTと連動させようとしています。カーボンクレジットは一般の方からは遠い存在のように思われますが、西海市の想いもあり、誰でも気軽に参加できるような形で活動を行っているとのことです。
また、Comoris にも関連するReFiのプロジェクト「Open Forest Protocol 」について紹介していただきました。
Open Forest Protocol(以下、OFP)は 世界中の森林プロジェクトのためのMRV(測定・報告・検証の略)プラットフォームです。すべてのカーボンクレジットは、このMRVの手順を通じて創出されますが、その手続きコストが膨らむ結果、森林由来のカーボンクレジットが高コストになってしまうことが問題でした。例えば、MRV機関に認証を依頼すると700万円ほどかかると言われており、広大な土地を扱わなければ割に合わないため、大規模事業者しかクレジット発行ができませんでした。
この問題を解決するため、OFPは誰もがMRVをできるよう無料でシステムを開放しています。これによりあらゆる規模の森林プロジェクトに対応でき、かなり狭い森林でもクレジット化できるようになっています。また、MRVに参加した人にはトークンが渡されますが、この仕組みを通じて専門性の高い検証作業に対して適切なインセンティブが与えられるようになっています。
OFPは、森林以外に対するカーボンクレジットの創出、検証作業を包括的にできるようにすることを目指しています。これにより多くの森林保護プロジェクトを実現して、気候変動対策をできるようにすることが期待されています。
最後に、ComorisでのReFi活用について、F太郎さんからいくつかのアイデアを共有していただきました。
Comorisとしても、DAOとして本格的に実装していく上で、ぜひ参考にしたいと考えています。
おわりに
さて、これで全5回の探求講座を走り終えました。通しで読んでいただいた方はどのような印象を持ちましたか? 都市の「森」とは何か、という問いから始まりながらも、そこから派生していくつもの問いを受け取ったような気がします。
都市環境における生物多様性はどう変化していくのか?
グリーンインフラとしてのアーバンフォレストは成立するのか?
人々の暮らしを自然循環の中に再接続することは可能なのか?
人も参加できる「野生」とはどのようなものなのか?
入会地のような仕組みを、未来に向けてどうデザインすればいいのか?
近代で失われた自然との関係を回復しようとしても、社会全体を前近代に巻き戻すことはできません。最後となる今回、F太郎さん、ビニールさんからは、自然環境のためにテクノロジーを排除するのではなく、私たちの望む方向に発展させることは可能なのか?という問いをもらったような気がします。
そしてReFiには、自然環境と近代社会の両者を結びつける接点としてのポテンシャルを感じました。Web3の技術によって、今までの経済合理性の中では十分に考慮されてこなかった自然へのケアを再度経済システムに組み込むことができれば、未来版コモンズのような活動が生まれ得るのではないでしょうか。
初回に、Comorisは、都市における自然環境や生物多様性を豊かにするデザインプロジェクトを進める「グリーンリビングラボ」を目指していると述べました。ReFiという枠組み全体がまだ試行錯誤中で、そのあり方に正解は見えていません。だからこそ自分たち自身で実験し、探求していく必要があると考えています。その一環として、ComorisでDAO型の運営形態を実験するため、合同会社型DAOという法人を設立しました。森という人間のスケールを超えた大きな存在と向き合うために、誰もが参加できる、より身近なWeb3サービスを目指して、現代版コモンズとしてのアーバンフォレストの実現にチャレンジしていきます。